映画とライフデザイン

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映画「終の信託」 草刈民代

2013-05-06 11:34:16 | 映画(日本 2011年以降主演男性)
映画「終の信託」は周防監督による2012年公開草刈民代主演のシリアスドラマ

尊厳死をテーマにした映画。
テーマが重い感じがして劇場行きを見送った。主人公の医師が患者と触れ合う部分がちょっと長すぎると思わせたが、見せ場がたくさんあって興味深く見れた。
検事役の大沢たかおを見ていて、こいつ憎たらしいなあと見ていた。
そう思わせること自体うまいのだろう。

まず主人公折井綾乃(草刈民代)が検察庁に出頭し、待合室で待つシーンが写される。検察官・塚原(大沢たかお)は部下にしばらく待たせるように指示し、なかなか取り調べが始まらない。
3年前の回想シーンに移る。
折井綾乃は43歳で天音中央病院の呼吸器内科部長である。同僚医師の高井(浅野忠信)と長い間不倫関係にあった。綾乃は彼が妻以外の若い女性といるのを見てしまう。彼を問い詰める。自分は綾乃と結婚するつもりはないと言われ落胆する。精神が不安定の中、当直時に睡眠薬を飲みすぎ倒れ大騒ぎとなる。

綾乃の担当患者に重度の喘息を患い入退院を繰り返していた江木秦三(役所広司)がいた。綾乃と江木は医師と患者の枠を超え心の内を語りあうようになった。そのことで落胆した綾乃の気は紛れた。
江木の病状は悪化する一方だ。自分の死期が迫っていることを自覚した江木は綾乃に懇願する。「信頼できるのは先生だけだ。最期のときは早く楽にしてほしい」と。

その後、江木は川で散歩している時に倒れる。救急車で病院へ運ばれた時は心肺停止状態であった。担当医の折井が懸命に救命処置をして一命はとりとめた。しかし、意識が戻る見込みはなかった。
江木からは最期の処置について言われていたが、家族と相談する必要があった。意識が戻る可能性が薄いことを家族に話して喉に通っているチューブを取り外すことになったが。。。

大きな見どころは3つあると思う。
1つはぜんそくの発作に苦しむ患者江木(役所広司)の姿を映す場面だ。本当に苦しそうだ。たぶんぜんそく患者が苦しむ姿を何かでみて演じたのであろう。リアルだ。

余談だが、自分は会社の同期がぜんそくで死ぬまでこの病気がこれほどの疾患だと思っていなかった。北野高京都大工出身の秀才だった。一緒に営業をやっていたが、資格をとると同時に技術に移った。ところが、営業時代の顧客が経営する会社に誘われ転職した。起業家を夢見たのであろう。転職先は中小企業で相当苦労したようだ。このころからぜんそく疾患が悪化する。結局辞めてIT系大企業で自分の専門を活かしてクライアントへ提案をする仕事になった。もうその時点では身体はガタガタだった。
死んだあと、彼のご母堂に生きている時の手帳を見せてもらった。会社にも家にもぜんそく疾患がひどくなっていることを言っていなかったのだ。その日の体調を毎日手帳に書いている。徐々に症状が悪くなっているのが書いてあり痛ましい。
最後は自宅で発作を起こした。風呂に長時間入って出てきたとき、彼は母上に何かを訴えた。母親は病気のことは何も知らない。吸引器を求めたのでろう。彼は窒息死した。32歳だった。
その場面が思い出された。

2つ目は意識がなくなった患者江木(役所広司)からのどのチューブを抜き去る場面だ。妻そして2人の子供のいる前で綾乃がチューブを抜く。そうすると、意識のなかった江木が大暴れするのである。息ができないからか、身体を大きく揺らす。チューブを抜いたら死ぬというわけではなかった。懸命に注射をする綾乃と看護師だったが、追加で注射してようやく静まった。そこが最期だった。
この演技も凄い。ここで注射を何回もしたのが、あとで検事に糾弾されることになる。


3つ目は検察官塚原(大沢たかお)が綾乃を取り調べで厳しく追及する場面だ。この場面も十分研究されてつくられたのがよくわかる。意識が亡くなってから綾乃がした行為を取り調べで追っていく。彼女が医学的な話をしても、事実だけを述べてくれというだけだ。大沢の手元にはメモはない。じっと綾乃を見つめて追及していく。誘導尋問というべきか?ジワリジワリ綾乃がした行為を追っていく。
ほとんどの観客は綾乃の味方であろう。検事が憎たらしく見える。被疑者への同情の余地はまったくない。ひたすら綾乃の殺人行為について追及していく。これには参った。凄腕の検事というのがどのように被疑者を追い詰めるのかをじっくりと見せていく。

役所の小さい時の逸話など前半戦は若干凡長な部分もあるが、上記3つの見せどころはうならされた。
他にも見せ場はある。草刈民代が不倫する場面であえて彼女を脱がすシーン。「シャルウィーダンス」の彼女には崇高なイメージがあった。元々お高く見える方である。それをあえて覆さないと周防監督は変化が持てないと思ったのであろうか?夫である監督は妻の草刈民代を何度も地に落とす。

普通であれば、家族と医師とだけの問題がここまで発展する背景に、彼女がエリート医師である故の外野のひがみもあると劇中で語られる場面もある。
検事の調書によると、彼女は東大医学部出身となっている。ふと思ったけど、平成13年当時に43歳とすると、自分より年上だ。今は桜蔭高校あたりのレベルが急激に上がって、理科三類にも女性が割と行くようになったけど、当時は5人もいないのではないか。そうすると、女性の東大医学部卒業生はもっと貴重な存在であり、この主人公と歩むキャリアが違うんじゃないかな?という気はした。

いずれにせよ、いい映画だと思う。

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