映画とライフデザイン

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野良犬  黒澤明

2009-12-30 20:46:59 | 映画(日本 黒澤明)
暑い中、舌を出してハアハアしている犬が映し出される。「野良犬」のイントロだ。黒澤明の現代劇の中でも完成度が非常に高い作品。現代の刑事ドラマの原型になっている素晴らしい作品だ。昭和24年戦後まもない世相の姿が次から次へと映し出されているのもよい。

拳銃の演習の後帰路についた三船敏郎刑事が、混雑したバスの中スリに会う。そして拳銃を奪われる。すぐに気づき、犯人を懸命に追う。しかし、追いつけず捕り逃がす。上司に相談すると、スリの担当に相談したらと言われる。バスの中すぐそばにいた中年の女性が気になり、スリ常習犯のファイルを探すとその女性のファイルがあった。そしてスリ担当刑事とスリ常習犯の女性の元を訪れる。拳銃は彼女の元にもないし、当然口を割らない。諦められない三船はスリ常習犯の女性を懸命に追い続ける。根負けしたその女性がヒントだけと三船に教える。「場末の酒場を歩き続けると、弾きの手配をしてくれる奴がいる。」
そのころ淀橋で殺人事件があったとの情報があった。その犯人はどうやら三船が奪われた拳銃で殺人を犯したようだ。自戒の念にとらわれる三船は上司に辞表を提出するが、辞表を破られる。そして、淀橋署のベテラン刑事と一緒に捜査を担当するように言われ、志村喬刑事と組むことになるが。。。。

手がかりを得ようとひたすら探し回る三船敏郎が、戦後間もない街中を歩き回る。リアルなその映像に昭和24年そのものが映し出される。建物はまさに戦後復興そのものだ。セリフなくひたすら三船を追うが、そのシーンが非常に良い。「わが青春に悔なし」で原節子の農村生活を20分以上セリフなく追いかけるシーンとダブる名シーンだ。

あと超満員の後楽園球場が映し出される。巨人対南海だ。2リーグに分かれたのが昭和25年だから、この年はまだ1リーグ制である。川上哲治、千葉茂、青田昇、藤本英雄の当時の巨人のスターたちが映し出される。この年はまだ三原脩が巨人の監督だったのではないか?皆若い。監督になってからの川上さんしか知らない自分にとっては、選手川上の顔が非常に精悍に見える。しかし、現在のプロ野球のレベルと比較すると、プレー自体は非常に緩慢で稚拙に映ってしまう。
そのプレーしている横で、超満員の後楽園球場の中、拳銃の売人を懸命に三船と志村が探す。そして手配写真を見ていたアイスクリームの売り子が売人を見つける。でも5万を超える観衆がいる中、どうやって彼を捕まえようとするのか?スリリングな瞬間だ。これも歴史的な名シーンといえる。

あとは純情な姿を見せる淡路恵子だ。この映画の10年後に東宝の喜劇等で美しい姿を見せるが、16歳のここでは純朴そのものな表情だ。松竹歌劇団出身という彼女がレビュー姿も見せる。暑い踊り子たちが走りまわる楽屋姿の描写も素晴らしい。最近では飲み屋の老練なやり手ママなどの役で性格の悪そうな女のような印象しか持てない淡路があの純朴な姿を見せるところがいい。これもこの映画の見所だ。

三船も志村の演技も安定している。黒澤明監督は熟達者と初心者の対比を見せるのが得意だ。ここでは三船と志村刑事二人を対比させる。「七人の侍」宮口精二演じる剣の名人と対比させる未熟な侍木村功がこの映画で見事な演技を見せる。いや演出が素晴らしいといったほうが良いのであろうか?

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