以下は、日本の歴史教育はイギリスのBBCでどのように報道されているか? その一 と題する今朝の記事の続きです。
==================================
元教師で学者の松岡環氏は、日本の歴史教育が諸外国との外交問題の要因になっていると言う。
「中国や韓国が、日本軍の残虐行為に対して文句を言うことに、腹が立つという若者が増えていると思います。それは、どうして文句を言われるのか、史実をきちんと教えられていないからです」
これはとても危険な流れだと松岡氏は言う。
「インターネットで得る情報から、“日本は何も悪いことをしていない”と言う右翼の人たちの意見に影響される若者が増えていると思います」
私が松岡氏のことを初めて知ったのは、数年前、南京にある戦争博物館を訪れ、南京事件の加害者とされる元日本兵たちのインタビュー映像を見た時だ。
「これまで被害者たちの証言は数多くありましたが、元日本兵たちの話も聞くべきだと思ったのです」
「実際にお話を伺えるまで、何度も断られ、何年もかかりました。それでも250人におよぶ元日本兵からの話を聞くことができました。最終的には、殺人、強盗、強姦を認める方たちも何人かいました」と松岡氏は言う。
元兵士たちのインタビューを見て、私が一番印象に残っているのは、戦争犯罪を告白する、今や老人となった彼らの言葉ではなく、彼らの当時の年齢だった。
成人して間もない、自分より若い兵士たちが、戦場に派遣され、いったいどのように人間形成がなされたのだろうか。
博物館の展示を見ながら、私はとてつもなく複雑な感情に襲われ、胸苦しさを覚えた。母国日本が、幾度も“悪魔”と表記されているのを見る哀しみ。また、館内で見学する周りの中国人が、私が日本人だと気づいたら、いったいどうなるのだろうという不安。
それでもなお、私の心に大きくのしかかったのは、いったい何が、この若い日本兵たちを殺人や強姦に駆り立てたのかという疑問だった。
松岡氏が南京攻略戦に参戦した兵士の証言集を出版した時、彼女は日本の右翼グループからでっち上げだと非難され、数多くの脅しを受けたと言う。
松岡氏と藤岡氏は、日本の歴史教育について、正反対の主張をしている。
新しい歴史教科書をつくる会の藤岡氏は、従来の教科書は日本の歴史の負の部分を強調し、自虐的であると主張する。
「日本の教科書検定規定には、“近隣諸国条項”と呼ばれるものがあります。つまり、近隣アジア諸国との関係について記述する際は、国際協調と国際理解の見地から、必要な配慮がなされるべきだというものです。本当に馬鹿げている」と言う。
藤岡氏は「中学校の歴史教科書から、従軍慰安婦の記述を削除せよ」との声明で、圧力をかけた人としても知られている。
2001年に政府検定を通過した彼らの最初の歴史教科書には、南京市での中国人兵士や一般人の死について、少しばかり記述されているが、次作からは削除する予定だという。
しかし、「南京事件ってよく分からない」「従軍慰安婦って聞いたことがない」という若者が増えるのは、はたして日本にとって有益なのだろうか?
文部科学省の中学校学習指導要綱には、「日本と近隣アジア諸国との歴史的関係や、先の第二次世界大戦が人類全体に惨禍を及ぼしたことを理解させること」と示されている。
「すなわち、(1930年代に)日本の軍部が台頭して大陸での勢力を拡張したこと、中国との戦争が長期化したことを取り扱い、我が国が多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して、多大な被害を与えたこと、更には、日本各地への空襲や、沖縄戦、広島、長崎への原子爆弾投下など、日本国民が大きな惨禍を受けたことなどから、大戦が人類全体に惨禍を及ぼしたことを理解させ、国際協調と国際平和の実現に努めることが大切であることに気付かせることです」
と、文部科学省の堀内昭彦氏は説明する。
「そのうえで、具体的な歴史的事象として、どのようなものを取り上げて指導を行うかについては、それぞれの学校が、地域や学校の状況や、生徒の発達段階などを踏まえて決めることとなります」とのことだ。
しかしながら、先述の松岡氏は「日本政府はあえて戦時中の日本の残虐行為を子供たちに教えないようにしている」と指摘する。
日本とオーストラリアの両国で歴史を学んだ私は、日本の通史教育のよさも知っている。子供たちは、数多くの歴史的出来事が、いつ、どのような順番で起こったかを、余すところなく理解できるからだ。
また、中高一貫校に通っていた私は幸運だったと思う。受験勉強を強いられる多くの学生は、膨大な史実を暗記しなくてはならず、社会科のみならず、全教科にわたって勉強しなければならない。
たとえ教科書の一文で、戦時中の残虐行為について読んだとしても、じっくり考える時間のゆとりはなかなか持てないだろう。
結果、近隣諸国、特に中国や韓国から、日本は戦争犯罪を隠蔽していると非難されている。
安倍晋三首相は中国の反日教育を批判する政治家の一人だ。
また、日本の子供たちが母国の過去を誇りに思えるように、藤岡氏が主張するような自虐的歴史教育を変えたいと公言し、従軍慰安婦の強制性を認めた1993年の河野官房長官談話を見直す意向を示している。
もし安倍首相が謝罪を取り消した場合、近隣諸国からの反発は避けられない。しかしその時、日本人の多くは、なぜそんな大騒ぎをするのか分からないでいるだろう。
(その三へ続く)
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)