後藤和弘のブログ

写真付きで趣味の話や国際関係や日本の社会時評を毎日書いています。
中央が甲斐駒岳で山麓に私の小屋があります。

横山美知彦著、「不思議なこと」

2015年08月23日 | 日記・エッセイ・コラム
 終戦の前後に家内は群馬県の山里の下仁田町に疎開していました。その縁で私も何度か下仁田を訪ねたことがあります。
上毛三山の妙義山の南麓にある本当に静かな所です。現在の下仁田町は昔の日本そのままのようなたたずまいです。
横山美知彦さんは家内が疎開した時の小学校で同級生でした。
その横山さんがときどき山里に暮らす四季折々の随筆や写真を送って下さいます。
写真は下仁田町です。
====横山美知彦著、「不思議なこと」=======
あれは、「少年倶楽部」だったか、「太陽少年」だったか、記憶が定かでないが、子供にとってどちらも人気の雑誌で、毎月発売の日が待ち遠しく、わくわくとした時期があった。
何かの用事を済ませて自宅に帰る途中など、よく書店で時に立ち読みをしたがその本がほしくてたまらないのだが、それを買う小使いはなく、表紙を恨めしそうにながめながら書店を離れることが多かった。
その日は、両方の新刊の発売日だった。店に入ることはせず通りすぎようとした時、同級生のK君が店から出て来た。
大事そうに雑誌の入った袋を抱えていた。「本買ったんだ!いいなあ」と半ば独り言を云ったが、K君「よかったら先に見ていいよ」と袋を差し出した。
私は一瞬躊躇した。今買ったばかりの真新しい雑誌である。私が買ったものならそんなことは絶対にしない。それを自宅に持って行く前に友人に見せるとは、その意外性に頭が混乱した。「先に見ていいのか?」と云うと「いいよ!」と言葉が帰って来た。雑誌には楽しい付録もついているのだ。
K君は何となく気まずそうな顔に懇願の色が見えたので、後先を考えずに私とて見たいので借りることにした。
さて、家人に何と説明したらと迷ったが、正直に話すことが筋と決め事情を説明した。家人は「へええ、そうなん?」とやや不思議そうな顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。
私は本を汚さぬように丁寧に見て、翌日「本と付録」をK君にお返しした。
それから、時々そのことを思い出すのだが、K君のその時の事情が今も判らない。中学卒業後、同窓会で顔を合わすが、確かめたことは一度もない。       
書店は60年以上経った現在も雰囲気は以前のままだが、子供の少なくなった町を静かに見守っていて、私は時々店内に立ち読みに入ることがある。(平成26年6月12日記)