春の風物詩は桃の節句の雛祭り、花見、復活祭、入学式などいろいろありますが地方、地方にも特別なものがあります。
今日は地方 の風物詩の一つとして瀬戸内海のイカナゴ漁をご紹介したいと思います。イカナゴの釘煮の思い出を書きたいと思います。我が人生の小さなエピソードです。
数年前にイカナゴの釘煮をはるばる送ってくださった方がいました。
東京に居ながらにして春の陽に輝く瀬戸内の海の風景が眼前に広がるのです。
友人の鈴木 裕さんの母上と妹さんが精魂込めて煮たものを送って下さいました。
山椒入りのものとショウガ入りのものと2種類が細かな切れ目を入れたハランの葉で分けてパックに丁寧に詰めてあります。解禁早々のまだ幼魚の高級なイカナゴのクギ煮です。
3月になると須磨にお住いの鈴木裕さんが送ってくれたのです。これを食べると、「ああ、今年も春が来た」という温かい気持ちになります。
10年以上にわたって毎年送ってくださる鈴木裕さんと御母上の温かいお気持ちに感動します。
このように瀬戸内海でしかとれない美味しいイカナゴという小魚を大量に丁寧に仕上げて、遠方に住む家族、親類、知人、友人へ送る風習は日本の美しいローカル文化です。瀬戸内海地方の伝統的な輝かし『地方文化』です。この地方文化の恩恵を幸運にも楽しめることで心が豊かになります。
イカナゴは日本各地の沿岸で漁獲される魚です。しかし瀬戸内海のイカナゴは特別に美味しいのです。生育中に食べている餌が違うのです。
瀬戸内海でのイカナゴの解禁日は年によって違いますが、大体2月下旬に解禁になります。
稚魚を瀬戸内沿岸部ではイカナゴ(玉筋魚)、関東ではコウナゴ(小女子)、大阪ではシンコまたはカナギと呼ばれています。
イカナゴは暑さに弱く、6月から晩秋過ぎまで砂に潜って夏眠する珍しい魚です。
関東ではコウナゴの佃煮と同じものが瀬戸内海沿岸ではイカナゴのクギ煮と呼ばれています。
味がどのように違うのか食べ比べてみると歴然と違いが分かります。同じ魚ですが全く味が違うのです。
瀬戸内海沿岸の須磨のイカナゴのクギ煮はかすかにフォアグラのような肝臓の風味がするのです。そして骨を感じさせない柔らかい小魚の食感です。魚の肝臓ではアンコウの肝やカワハギの肝が美味ですが、それらと一脈通じる味がかすかにするのです。これこそイカナゴのクギ煮が絶賛される原因だと断定できます。
断定したといえば大げさですが、交互に東京で売っているコウナゴの佃煮を食べてみると明快に分かるのです。コウナゴにはアンコウの肝やカワハギの肝の美味成分が皆無です。その上、身が固すぎます。魚としての旨さは充分ありますが固すぎるのです。
この違いは餌の違いなのでしょう。
鈴木さんの母上の味付けは上品です。その上、生姜や山椒の香りが程良くてなんとも言えない風味があるのです。料理は作っている人の性格を表わすと言いますが優雅で、その上根気の良い母上のお人柄が偲ばれるのです。
2種類の釘煮の仕切りをお庭の葉蘭でしてあるのですがその細かな切り方が本当に丁寧な事に毎年、感嘆します。
そして鈴木さんの母上はお正月の初詣でのおりに毎年、須磨の海苔もお送り下さいました。このように伝統文化を大切にするご婦人は素晴らしいと初海苔を頂くたびに想います。
その頃は須磨の海苔で家内が恵方巻を巻いてくれました。
イカナゴの釘煮がローカル文化であることは、それにまつわる和歌や俳句や随筆をみるとよく分かります。
毎年、いかなごくぎ煮振興協会が主催してイカナゴの釘煮にまつわる和歌や俳句や随筆を募集しています。
そして優秀な作品へ『いかなごのくぎ煮文学賞』を与えているのです。(http://kugini.jp/contest/index_b2016.html )
第5回目を迎えた文学賞では、過去最多の1410作品が全国43都道府県から寄せられました。
今日は春の風物詩として、瀬戸内海のイカナゴの釘煮の思い出を書きました。我が人生の小さなエピソードですが忘れられません。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)
イカナゴに関する写真をお送りします。
1番目の写真はイカナゴ漁をしている漁船の写真です。
2番目の写真は目の細かい網にイカナゴがビッシリ獲れて、それを船の上に引き上げようとしている光景です。
3番目の写真はとれたイカナゴです。背景に大人の指が写っていますが、イカナゴは指の半分くらいしかない小さな魚です。
4番目の写真は鈴木 裕さんの母上と妹さんが精魂込めて煮た イカナゴの釘煮です。