575の会

名古屋にある575の会という俳句のグループ。
身辺のささやかな呟きなども。

名古屋のお宝   竹中敬一

2016年09月16日 | Weblog

平成7年、私がアヴィニョンへ行ったのは、名古屋の古川美術館の依頼で
この美術館に所蔵されている中世ヨーロッパの時祈書を紹介する番組のためでした。

時祈書とは、聞き慣れない言葉ですが、キリスト教で司祭が使う祈祷書に対して、
一般の信徒がお祈りの本として使ったものです。
古川美術館所蔵の時祈書は、「ブシコー派の画家の時祈書」と呼ばれ35冊が現存。
革の装丁など制作当時(15世紀) のままで残っているのは、ここのものだけ。

縦17セイチ、横12センチという小さな写本で、ラテン語の文字は手書き。
所々に、12枚の精緻な挿絵が入っています。
このうち、7枚にゴッホの「夜のカフェテラス」に見られるような
青い空と星々が描かれています。
星空が際立って多く見られるのは、他の同種の時祈書にはありません。

専門家に、時祈書に書かれた文字を調べてもらいました。
その結果、ラテン語で「ド二の聖マリヤ大聖堂に告ぐ」とあり、
この聖マリア大聖堂がアヴィニョンにあったことが分かりました。

時祈書の注文主は南フランスの人物に違いありません。
名前は不明ですが、アヴィニョンに住む裕福な王侯貴族の一人が
パリのブシコー派の工房へ注文したのではないか、と言うことです。
時祈書の注文主は、南フランス特有の青い空にきらめく星々のことが
頭に浮かんで、その情景を挿絵に入れるよう工房に伝えたのでしょう。

ブシコーは画家の名前ではなく、ブシコー元帥と呼ばれるフランスで
活躍した軍人の名前、彼が作らせた「ブシコー元帥の時祈書」にちなんで、
これと同じ作風のものを「ブシコー派の時祈書」と云います。

名古屋に、こんなお宝のあることは、あまり知られていません。
常設されていませんが、時々、公開されることがあります。
私が制作に関ったハイビジョン作品「祈りのかたちー華麗なる彩飾写本の世界ー」は
常時、開館日には見ることができます。
お時間があったら、一度、足を運んでみて下さい。
コメント
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