NHK 午後 7時半
プロフィール
- 阿智胡地亭 辛好:
- 伊勢国四日市に発し、摂津、筑前、浪速、伊予、江戸、下総、安芸ときて攝津国に長く草鞋を脱いでいたがまたお江戸へ。
- “日乗”は“日記”。親代々のルーツの地は信州・上諏訪と茅野の八ヶ岳山麓。
NHK 午後 7時半
毎日でも飽きないほどの焼きビーフン好きだが、焼きビーフンの中でも「シンガポールビーフン」は特に好きだ。
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シンガポールの空港は1981年、現在のチャンギ国際空港のターミナル1が開業するまではパヤレバー空港が国際空港だった。
インドネシアのジャカルタによく通っていたとき、成田からシンガポールまではシンガポール航空かJALだったが、
シンガポール空港でインドネシアのガルーダ航空に乗り換えることが多かった。
トランジットの時など往きや帰りに、パヤレバー空港で時々軽食をとった。
空港の施設の一番遠いところに小さな食堂があってその店に「シンガポールビーフン/星洲炒米粉」というメニューがあった。
「炒米粉ー焼きビーフン」の旨さは台湾の高雄ですっかり舌が覚えていたから、これを頼んでみたが
何故「シンガポールビーフン/星洲炒米粉」という名前なのかは一口食べたらすぐわかった。
星洲炒米粉つまりシンガポール焼きビーフンはカレー味の焼きビーフンだったのだ。
インド系の人も多く国民であるシンガポールらしいカレーとビーフンのハイブリッドメニューだった。
とてもおいしくて、すっかりこれが気に入って、シンガポールの駐在員事務所に寄って高橋所長と二人ともに
チエーンで煙草を吸いながら話をした後、ここに寄ることがたびたびだった。
国内営業部門に変わった後はシンガポールビーフンには縁がなくなったが、神戸に住むようになったら
家でも「ケンミンのビーフン」(click)を使って焼きビーフンが登場するようになった。
あいかたに星洲炒米粉が旨かった話をしてカレー味の焼きビーフンを作ってもらった。私のイメージの一皿が完成した。
いまや我が家のテッパンメニューとしてもう30年来定着している。
時々通う錦糸町の台湾料理店「劉の店」の焼きビーフンは台湾人のシェフが作るので本場の旨さだが、
シンガポールビーフンと言っても作ったことはないと言う。
確かに中国でも南方の一般庶民の食材である「米粉料理」は日本の中華料理店でもメニューにはなかなかないし、
台湾もシンガポールも福建省系の人たちが多いが、食べものは土地土地の特色が現れるようだ。
かくして日本では家以外で旨い「シンガポールビーフン/星洲炒米粉」を食べるのはなかなか難しい(笑)。
月はどっちに出ている(その1) 2005年07月09日(土)掲載
「月はどっちに出ている」を神戸メリケンパークのタイムズメリケン(神戸海洋博物館)で見ました。
第10回神戸100年映画祭プレイベント上映の一本です。
腹の底から笑って、笑って、そのうち本当に面白い事と言うのは哀しさと裏表なのかも知れないと思いました。
その表と裏の繰り返しで最後まで笑い、時にしんみりしながら最後まで息が抜けずに次の展開をドキドキしながら楽しみました。
在日朝鮮人が経営する小さなタクシー会社を舞台に、岸谷五朗が演じる在日のタクシー運転手、ルビー・モレノが演じる彼が好きな、
したたかなフィリピーナ、フィリピンバーのコリアンママ、ヒスパニックの出稼ぎ整備士、タクシー会社の社長を食い物にする日本のヤクザ、
自衛隊上がりや連れ合いに逃げられた地方出身の運転手たちと、登場人物は盛り沢山でした。
映画が始まってすぐのキタとミナミが一堂に会する結婚披露宴で、一つ一つのシーケンスの細部、セリフと演技でまずはばっちり
在日の世界をこれでもかと俯瞰して見せてくれます。生真面目に真正面から撮ったら一大シリアスドラマになるだろうと言う題材を、
ここまで終始一貫笑いのめす崔洋一と言う監督。
「俺は朝鮮人はキライだけど、忠さんお前は好きなんだよ」と繰り返し繰り返し出てくるセリフ。
縦糸に、岸谷とモレノのある意味純愛を通して、ドラマが締まり、その周辺にねばっこく粘っこく人間を撮る。
そして演じる役者がワキを含めてみな凄い。
この映画制作はチームとして全員がノリにノッタか、乗せられたかだろうと思いました。
何度も見たい映画の一本です。 映画はやはり面白い。
月はどっちに出ている(プレビュー)
映画「月はどっちに出ている(その2)」2005年07月10日(日)掲載
・キタの親族に送る段ボール箱の荷造りをする母を見ている息子。母が封筒に入れた日本円を食料品の中に無造作に入れるのを止めさせ、
底にもう一つ二重底を作り、また、その裏に封筒をガムテープでくっつける息子の忠男。このようなさりげない表現でキタとの関係の中でも
生きる在日の日常生活を見せていきます。キタのことは何も直接に表現しませんが、在日にとっての、そのありようをなにげなく。
・梁石日の原作を知らないから、崔洋一の脚本が強調したのかどうかわかりませんが、これだけ在日朝鮮人の世界をよく言えば温かく風刺し、
悪く言えば皮肉り、おちょくっている映画とは思いませんでした。崔と言う監督は在日に生まれた複眼のスグレモノの一人なんでしょう。
・差別される人間は、次には自分が差別できる人間を探してその連中を心中、見下して心のバランスをとると言う「差別のピラミッド」。
なんて言う固いことは全く表に出さずに、それが人間と言うもんだみたいな洒落た、英語で言う「クールな」場面が次々に出てきます。
・個人的に違和感が最後まで残ったのは、ヒロイン役のフィリピン人のチーママ、コニー役のルビー・モレノの使う大阪弁です。
フツーの大阪弁なら面白いのに、関東人が無理して喋る関東アクセントの大阪弁なのです。これで大阪経由で東京に来たフィリピーノの
したたかさを出したかったとすれば、成功したとは言えません。もっとアクセントを勉強させて欲しかった。
(恥ずかしいからそのヘンな関西弁を止めなさいと、家族から厳命されている辛好には、そう言う資格はないかも知れませんが)
・殆どの在日朝鮮人の役を日本人がやっていますが、何の違和感もない。
考えればイギリス人とアメリカ人が役を入れ替えるのと、ほぼ同じだことだから当たり前なのかもしれません。
・主人公のタクシー運転手、姜忠男は、女優の岸恵子さんが自伝の中で書いたと言う
「どこで生まれ、どう育ったかは本人の与り知らぬ事だ、その人がどう生きどう死んだかがその人のものだ」をそのまま生きていました。
・クレジットに題字「黒田征太郎」と出て、1993年製作のこの当時、既に梁石日と黒田は交流があったのだと思いました。
ちょうど黒田征太郎をモデルにした梁石日の「海に沈む太陽」が出版発売され、4年ほど連載が掲載されていた
「ちくま7月号」の巻頭に、二人の対談が出ていたのを読んだばかりでした。
余談ですが黒田征太郎はトランペットの近藤等則たちと組んで今年ニューヨークで「ピカドン・プロジェクト」を立ち上げるそうです。
原爆をテーマにしたアニメ映画やバンドを作ると言っています。
それにしてもあのルビー・モレノは今どこで何をしているのでしょう。 この映画を一言で言えば「カッコイイ」映画でした。
この映画でルビーモレノは日本アカデミー賞の主演女優賞, 岸谷五朗は新人男優賞を取りました。