安曇野ジャズファンの雑記帳

信州に暮らすジャズファンが、聴いたCDやLPの感想、ジャズ喫茶、登山、旅行などについて綴っています。

セロニアス・モンクのいた風景(村上春樹編・訳)

2015-08-07 22:36:39 | 読書

小説家の村上春樹さんが集めた「音楽本」の中から、セロニアス・モンクに関する文章を抜き出して編集した「セロニアス・モンクのいた風景」(新潮社刊)を読みました。村上さんは、モンクのファンでもあって、文章をあちこちから集めて翻訳し、一冊の本にまとめる作業はずいぶん楽しいものだった、とあとがきで述べています。

   

モンクの作った曲については、変化に富み美しいメロディもあって面白く感動したりはするものの、彼の演奏自体は、僕はあまり好きではありません。しかしながら、豊饒な音楽であることは確かなので、代表作のほとんどはレコードを買って聴いてみました。今では、手放したものが多いし、ごくたまに聴くだけですが、この本を、モンクの音楽にもっと親しむきっかけにするつもりで、読み進めました。

各章と執筆者は次のとおりです。

セロニアス・モンクのいた風景  村上春樹
この男を録音しよう!  ロレイン・ゴードン
それからゾンビ・ミュージックがやってきた/マッド・モンク  メアリ・ルウ・ウィリアムス
ビバップ・ハリケーンの目  トマス・フィッタリング
彼のすべての曲は歌えたし、スイングできた  スティーブ・レイシー
通常のピアニストがまず行かない場所に  ナット・ヘントフ
モンクと男爵夫人はそれぞれの家を見つける  デヴィッド・カスティン
ジャズという世界でしか起こりえなかったものごと  ダン・モーゲンスターン
モンクとコルトレーンの夏  ベン・ラトリフ
いちばん孤独な修道僧  バリー・ファレル
ブラインドフォールド・テスト  レナード・フェザー
セロニアスが教えてくれたこと  オリン・キープニューズ
セロニアス・モンクの人生の一端となること  ジョージ・ウィーン
私的レコード案内  村上春樹 

セロニアス・モンクのいた風景

村上さんの著書「ポートレート・イン・ジャズ」におさめたセロニアス・モンクの項に加筆されたものです。ここでは、10代の終わりから20代の初めにかけて、モンクの音楽に宿命的なまでに惹かれたことが述べられています。新宿にあったマルミレコードの店主に無理矢理にモンクのレコードを買わされて、聴き込んでいくうちにそうなったようです。このあたりは、村上さんがジャズにのめりこんでいった過程が窺われます。

他の章(原文が英語)については、村上さんが翻訳していますが、文章がこなれていて、意味がとりやすい。面白かった章について記します。

モンクと男爵夫人はそれぞれの家を見つける

ジャズの庇護者であった、ニカ夫人が、ことにモンクの面倒をみたことが記されています。ニューヨークのキャバレーカードを再発行させるために尽力したことや、モンクが亡くなるまで自分の家で過ごさせたことなど、ニカ夫人なくしては、彼の音楽活動が行えなかったような気さえします。

ジャズという世界でしか起こりえなかったものごと

モーゲンスターンは、『モンクのコンサートは、私が巡り合った初めての完璧なジャズ・コンサートであった』と賞賛し、当夜の音楽について、『モンクの音楽の最良なものは、三つのカテゴリーに分けられる。バラード、オリジナルのジャンプ曲、そしてスタンダード曲の再構築だ』と分類して、解説を加えています。肯定的な暖かい視線による文章で、章の最後を『モンクは、その音楽においても、人となりにおいても、ジャズという世界でしか起こりえなかったものごとのひとつなのだ』と結びます。ジャズが音楽の最先端を走り、世の中の注目を浴びていたことを強くうかがわせる文章でした。

セロニアス・モンクの人生の一端となること

プロモーターとして活動したジョージ・ウィーンは、元々ピアニストであるので、音楽家の視点からも書いています。『モンクは、32小節や12小節のメロディーをただ作曲しておしまいというのではない。ソロイストのバックに短い伴奏を入れながら、彼がサイドマンたちに求めているのは、彼らが総合的作曲の一部となって機能してくれることなのだ』という意見を述べていて、その例を2つ挙げています。

その一つは、ウィーンがグループを組織して、世界中を興行して回った「ジャイアンツ・オブ・ジャズ」で、モンクのメロディーを演奏するディジー・ガレスピーが味わっている困難を目にしたことです。もう一例は、1963年のニューポート・ジャズ祭で、ウィーンがクラリネット奏者のピー・ウィ—・ラッセルをモンクのカルテットと共演させた時のことを挙げています。モンクは、自らのグループで自分の曲を演奏することが多かったようですが、そのことが双方にとってよかったことを裏付けるできごとです。このあたりは、デューク・エリントンを連想させます。

私的レコード案内

村上さんにとって、セロニアス・モンクのいた風景みたいなものを立ち上げてくれるレコードを5枚挙げていて、それぞれについて、個人的な感想や想い出を綴っています。5枚は次のとおり。

(1)ファイヴ・バイ・モンク・バイ・ファイヴ (Riverside) 1957年録音
(2)アンダーグラウンド (Columbia) 1967年録音
(3)We See Thelonious Monk (Prestige) 1954年録音
(4)セロニアス・モンク・ソロ (Vogue) 1954年録音
(5)Miles Davis All Stars vol.1 (Prestige) 1954年録音

   

(裏表紙の絵)