青柳いづみこさんは、ピアニストで、ドビュッシーの研究家としても知られていますが、文筆家でもあって、多くの著作があります。これは、ミステリーを含んだ文学作品の中から、音楽や音楽家を描いたものを取り上げて、音楽とのかかわりの中で、その文学作品を紹介したエッセイです。雑誌「図書」の連載に新たに1章を加えて単行本化されています。
取り上げられているのは、クラシック音楽に関連した文学作品がほとんどですが、ジャズを扱った小説も入っています。文学作品を要約するとともに、登場する曲目や演奏家の解説など、内容が多岐にわたる労作です。本書巻末には登場する書名の索引が付けられていますが、時代やジャンルを超えた作品が並び、音楽が関連した文学の多いことに驚きました。
文中に登場する文学作品で、ジャズに関連するのは、ポーラ・ゴズリング「負け犬のブルース」(ハヤカワミステリ文庫)、奥泉光「鳥類学者のファンタジア」(集英社)、クリスチャン・ガイイ「ある夜、クラブで」(集英社)と同じくガイイの「さいごの恋」(集英社)のようです。この中で読んだことのあるのは「ある夜、クラブで」ですが、他にも面白そうなのものがあり、読みたくなりました。
クリスチャン・ガイイ著「ある夜、クラブで」(集英社)。この本は、拙ブログにコメントを寄せていただく札幌のdukeさんからいただいたものです。
そのほか、特に気になったのは、S.J.ローザン「ピアノ・ソナタ」(創元推理文庫)と村上春樹「海辺のカフカ」(新潮社)で、どちらにもシューベルトのソナタが出てきます。青柳さんは、リチャード・グードというピアニストの演奏を推奨していたので、CDを購入し、ソナタニ長調D850(日本のピアニストの間では「バラが咲いた」ソナタと呼ばれているようです。)を楽しみました。
リチャード・グード(p)シューベルト・ピアノ・ソナタ集(第16・17・19~21番他)(タワー・レコード発売のCD3枚組、NONESUCH原盤)
『執筆の動機はひとえに、敬して遠ざけられている感のある演奏家や作曲家のことを広く知っていただきたかったからである。』と後書きで著者は述べています。そういった音楽の面と同時にな文学作品のあらすじなどの紹介も面白いです。青柳さんには「ショパンに飽きたら、ミステリー」(創元ライブラリー)という本もあるので、そちらも読みたくなりました。