安曇野ジャズファンの雑記帳

信州に暮らすジャズファンが、聴いたCDやLPの感想、ジャズ喫茶、登山、旅行などについて綴っています。

岩城宏之著「フィルハーモニーの風景」(岩波新書)

2016-10-31 20:35:03 | 読書

善光寺近くにある遊歴書房で棚を物色していたら、岩城宏之著「フィルハーモニーの風景」(岩波新書)があったので、電車の待つ間に読もうと購入しましたが、晦渋さが全くない文章で、内容も面白く、一気に読了したので、感想を書き留めました。

   

著者の岩城宏之(1932~2006年)さんは、指揮者、打楽器奏者で、ベルリンフィン・フィルやウィーン・フィルの演奏会をたびたび指揮するなど国際的な活躍を行った方です。また、ハーグ・フィルやメルボルン交響楽団の常任指揮者、札幌交響楽団やオーケストラアンサンブル金沢の音楽監督などを務め、日本の作曲家の作品紹介にも力を注いだ方です。

クラシックのファンに限らず音楽ファンなら興味を覚える内容です。目次は次のとおりです。

1 ウィーン・フィルの秘密
2 ベルリン・フィルの表情
3 舞台裏の風景
4 ハープの運び屋さん
5 指揮棒のこと、ホールのこと

ウィーン・フィルについては、著者は『超高度のアンサンブル能力に加えて、彼らは大編成の交響楽曲を、弦楽四重奏と同じ態度で演奏している』と記し、リハーサルの最中、若い楽員がスコアを調べて、室内楽の練習と同じことをしているのを見て、これがウィーン・フィルのアンサンブルの秘密かと感心したと書いています。

ベルリン・フィルについては、首席オーボエ奏者のローター・コッホさんを札幌交響楽団へ呼んだ際に、著者の「どうやってあんな大きな楽譜を全部覚えているのですか」という問いに答えて、コッホさんが「われわれフィルハーモニカ―は、どんな曲でも一度聴いたら全員のパートを覚えなければならないように躾けられているからでしょうね」と返答したというエピソードが披露されています。

この二つの話に限らず、1と2の章を読めば、両楽団がどうして世界的に人気があるかわかります。3、4の章については、裏方さんとして働く人たちに焦点をあて、ほとんど知られていないその仕事の中身について触れ、また、そこで働く人々に対する感謝の念を述べています。全編にわたり、岩城さんの飾らない人柄も出ているエッセイで、この本は、1991年の日本エッセイストクラブ賞を受賞しています。

ウィーン・フィルとベルリン・フィルの両楽団を指揮した日本人は、この岩城さんと小澤征爾さんの二人だけだと思います。現在、大野和士さん、佐渡裕さん、山田和樹さんがヨーロッパでも活躍を行っているので、この本を読んでみて、改めて上記の二人に続いてほしいと感じました。

【岩城宏之指揮ウィーン国立歌劇場管弦楽団 リスト「ハンガリー狂詩曲」】

   

僕が持っているレコード(コンサートホールソサエティ原盤)です。岩城宏之さんが、ウィーン・フィルハーモニーの母体となるウィーン国立歌劇場管弦楽団を振った1963年の録音で、これも当時としては画期的なことです。久しぶりに聴いてみました。