著者の志田忠儀(しだ ただのり)さんは、8歳で山に入り80歳過ぎまで現役のマタギとして活躍し、15歳で最初のクマ撃ちをし、生涯50頭以上のクマを仕留めた猟師です。磐梯朝日国立公園の管理人や遭難救助隊、猟友会会長を務め、2016年5月100歳の天寿を全うされました。この本は、志田さんが生前に思い出話などを書き留めた膨大な量の原稿を、編集、構成して、一冊にまとめられたものです。
第1章「クマを撃つ」では、クマ狩りの様子が克明に描かれていて、真に迫った記述に引き込まれます。あわせてクマの生態や怖さについても書かれていて、特に襲われた体験はすさまじいものでした。『子をかばおうとする子連れのクマは怖い。危険を感じた私は、30メートルほど下の方に逃げた。そこから先は断崖になっている。・・・・あの時は本当にもうダメだと思った。三か所ほど怪我をしていたのだが、それだけで済んだのだから幸運だったといえよう。』とリアルに描かれていました。
志田さんが始めた朝日連峰のブナ林を伐採から守る自然保護運動は、後世に残るものです。『標高1,000メートルくらいまでブナを伐ってしまうのだが、1000メートル以上の場所ではブナの実は低地の三分の一しかつかない。そうなると、ブナの実を食べるクマは他の餌を探し、水中生物も減少、生態系も変わってくる』という考察には、木や動植物全般を知悉しているだけにブナ林保存への強い思いが伺えます。
第4章の「岳人を助ける」は、山岳遭難救助の話ですが、豪雪地帯の冬山は強靭な体力と経験のある人しか登るべきではないし、季節を問わず、道のはっきりとした登山道を歩くことが大事だと改めて思わされました。山に生きた志田さんと朝日連峰の自然が興味深く、最初から最後まで一気に読み通しました。