音楽評論家の吉田秀和さんの著作が河出文庫で8冊出版されました。その中から「クライバー、チェリビダッケ、バーンスタイン」という3人の指揮者に関する一冊を読んだので、感想を記します。もっとも、僕の関心はカルロス・クライバーなので、その部分に限った感想です。
表紙
目次(クライバーの部分だけです)。
(略 歴)
吉田秀和さんは、1913年東京生まれ、2012年に逝去された音楽評論家です。著書が多数あり、2006年に文化勲章を受章。1948年には井口基成、斎藤秀雄らと「子供のための音楽教室」を創設し、後の桐朋学園音楽科設立に参加、57年には「二十世紀音楽研究所」を設立するなど、幅広い活動を行った。
(感 想)
吉田秀和さんの名前は知ってはいましたが、高名で権威のある評論家というイメージをもっていたので、近づきがたく、今回初めてまとまった文章に接しました。全般に、文章が流麗で比喩をうまく使ってあるなど、読み易さがあり、この点は意外でした。
クライバーの指揮に関して印象に残った箇所ですが、ヴェルディの「椿姫」の第一幕の幕切れ前のヴィオレッタのアリア(譜例15)のところを論じて、
『この魅力と力強さの源泉は、ヴェルディの作曲にあるのである。だが、クライバーの演奏の特徴は、くりかえすが、まるで純粋器楽曲みたいに正確で、非常に整理された、そうして、やや速めのテンポで流しながら、音楽からダイナミックな力を、存分に発揮させるところにある。』と捉えています。
バイエルン州立歌劇場で「こうもり」を指揮するクライバー。シャンパンを称える歌を歌う次の写真の場面の初めを指揮しているところ。
また、ヨハン・シュトラウスの「こうもり」におけるクライバーの指揮姿を観て、著者は『音楽の形だけでなく、当面する曲、歌、~等々のそれぞれのキャラクターをこの上なく的確に、棒と身体の動き、~そのすべてでもって目に見える形に造型し、演奏家に伝える。』と書いています。優雅な指揮ぶりであることも指摘していて、共感できました。
(まとめ)
音楽の作られ方や聴きどころを書いていて、面白く読むことができます。対象としている演奏を聴いていることが前提なので、今回は次のアルバムを観聴きしました。全てカルロス・クライバー指揮のものです。
【(参考)カルロス・クライバー(1930~2004年)の略歴】
世界的指揮者エーリヒ・クライバーを父にベルリンに生まれるが、父がナチスと衝突、一家でアルゼンチンに亡命し、ブエノスアイレスで音楽を学び始めるが、1952年スイスのチューリヒ連邦工科大学に一旦入学。翌年にはミュンヘン・ゲルトナープラッツ劇場の練習指揮者になり、1954年ポツダムで指揮者デビュー。その後、デュッセルドルフ、チューリヒ、シュトゥットガルトなどの歌劇場で活躍し、1968年バイエルン州立歌劇場の指揮者となり名声を確立。1973年ウィーン国立歌劇場、翌年英国ロイヤル・オペラとバイロイト音楽祭にデビュー。その後も著名な歌劇場やオーケストラの指揮台に立つが、一生涯フリーの立場を貫いた。日本には1974年から1994年まで5度来日。2004年7月13日スロベニアで死去。
【今回視聴したカルロス・クライバー指揮のCDとDVD】
ヴェルディ「椿姫」(CD, Blu-ray Audio)。イレアナ・コトルバス(S)、プラシド・ドミンゴ(T)、クライバー指揮バイエルン国立管弦楽団他。1976~77年録音。リマスターされて2017年に発売された輸入盤で、音質がよい。クライバー指揮する管弦楽と若きドミンゴ(T)の歌唱が最高。
モーツァルト「交響曲第36番《リンツ》」、ブラームス「交響曲第2番」(1991年録画、DVD)。クライバー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団。
ベートーヴェン「交響曲第4番」(1982年録音、CD)。カルロス・クライバー指揮バイエルン国立管弦楽団。緊張感が感じられる演奏。
ヨハン・シュトラウス二世「こうもり」(1987年録画、DVD)。パメラ・コバーン(S)、ジャネット・ペリー(S)、エバハルト・ヴェヒター(T)、カルロス・クライバー指揮バイエルン国立管弦楽団、バイエルン国立歌劇場合唱団。