指揮者のカルロス・クライバーのCDやDVDを先日まとめて視聴しましたが、ヨハン・シュトラウス二世の喜歌劇「こうもり」(DVD)がとりわけ気に入りました。そこで、関連の本を読み、クライバー以外の指揮者が振ったDVD2作品も観ました。
【小宮正安著「ヨハン・シュトラウス(中公新書)】
カバー裏表紙にある本書の紹介
(著者略歴)
著者の小宮さんは、1969年生まれ、東京芸術大学非常勤講師(本書執筆時)などを経て、現在横浜国立大学教授。研究領域はヨーロッパ文化史、芸術社会学、ドイツ文学など。雑誌「レコード芸術」にDVD批評を掲載。
(内容)
ヨハン・シュトラウス(1825年10月25日~99年6月3日)の生涯と作品をたどりながら、ウィーンの街とそこで暮らす人々を描いた内容です。その時代は、ウィーンの都市改造が行われ、経済的発展も遂げたものの、1866年にはプロイセン軍に敗れ、ハプスブルグ家の支配力が失われていった落日のときに当たります。
(感想など)
シュトラウスの音楽は華やかで楽しく、山積する問題や不安を忘れさせてくれるので爆発的な人気に結び付いたと指摘していることが印象に残ります。踊るための実用音楽であったことも与ったと思いますが、それを離れて、1871年からはオペレッタに注力します。
当時の宮廷歌劇場総監督のグスタフ・マーラーはシュトラウスの音楽的才能を高く評価し、「こうもり」(1874年初演)を同歌劇場のレパートリーに加えました。マーラーが評価していたことを初めて本書で知り、意外だったので驚きました。
「こうもり」について、『ファルケによって仕組まれた舞踏会は、当時ハプスブルグ帝国が展開していた外交関係の縮図といった感がある。』と著者は書き、ロシア貴族、ハンガリーの貴婦人、フランス貴族などが仮装にせよ登場し、ファルケ(鷹)はハプスブルグ帝国を表し、アイゼンシュタイン(鉄石)がプロイセンを指すという深読みをしていて、新鮮でした。
【3種類の喜歌劇「こうもり」(DVD)】
(1)
カール・ベーム指揮ウィーンフィル、ウィーン国立歌劇場合唱団、エバハルト・ヴェヒター(Br)、グンドゥラ・ヤノヴィッツ(S)、レナーテ・ホルム(S)、エーリヒ・クンツ(T)、ウォルフガング・ヴィントガッセン(T)、オットー・シェンク(演出、監督)。 1971年録画
劇場ではなく、セットを組んで撮影された映画。歌手陣が素晴らしく、グンドラ・ヤノヴィッツやウォルフガング・ヴィントガッセンといった、オペレッタには縁のなさそうな人も出演し、さすがの歌を聴かせてくれます。ヴェヒターの演技、歌も冴えていて、かなり楽しめる映画版です。
カール・ベーム(指揮)。クライバーに比べると遅めのテンポですが、ウィーンフィルが演奏していることもあるのか、細部まで磨き抜かれた演奏のように思えます。
豪華なセットが組まれています。オルロフスキー役のヴィントガッセン(T)がシャンパンを称える歌を歌っている場面。
(2)
ウラディーミル・ユロフスキ指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、グラインドボーン合唱団、パメラ・アームストロング(S)、トーマス・アレン(Br)、スティーヴン・ローレス(演出)。2003年録画、グライドボーン歌劇場(イギリス)
指揮がユロフスキーなので期待はしたのですが、歌手陣、演出ともにもう一つでした。ことに女性陣の歌が揃って、高音を張り上げる絶叫型で、その点が気になって仕方ありませんでした。また、余分な科白が多くて、劇場で楽しんでいる分にはいいと思いますが、DVDでは冗長に感じました。
ウラィディミール・ユロフスキー(指揮)
アデーレがシャンパンを称える歌を歌っているところ。舞台が狭いせいもあり、装置は比較的簡素です。
(3)
カルロス・クライバー指揮バイエルン国立管弦楽団、バイエルン国立歌劇場合唱団。パメラ・コバーン(S)、ジャネット・ペリー(S)、エバハルト・ヴェヒター(T)、オットー・シェンク演出。(1986年バイエルン州立歌劇場で録画)
カルロス・クライバー指揮のものが、音楽が流れに流れ、愉悦感、祝祭性が漲っていて最も面白かった。ヴェヒターの演技は相変わらず巧くてちょっと歌手とは思えず、パメラ・コバーン、ジャネット・ペリーという女性歌手陣も素晴らしい。
カーテン・コールには、カルロス・クライバー(指揮)も登場
アデーレ役のジャネット・ペリーがシャンパンを称える歌を歌っているところ。伴奏の管弦楽も含め、盛り上がります。この場面に続く第2幕のフィナーレでは、ポルカ「雷鳴と電光」が演奏され、舞台の上はそれにのって大騒ぎ。
みんなシャンパンのせいだと歌う最後の場面。歌っているのはロザリンデ役のパメラ・コバーン。
とても歌劇場だとは思えない豪華な舞台。