偽の「検察官」は、「内務憲章の条文のカンマの位置を修正した」とデタラメを述べ、それを真に受けた長官は前後不覚に陥る。
このくだりで観客は爆笑するわけだが、私は、心の底から笑うことが出来ない。
なぜなら、「カンマの位置、打ち間違い」が大変な問題となっている法律が存在するからである。
これは、行政法を勉強したことのある人なら知っているはずだ。
行政事件訴訟法第36条(無効等確認の訴えの原告適格 )
無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。
この条文は難解条文の一つとされており、一読して意味を理解出来る人は、まずいないだろう。
条文を分解すると、① 処分・裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者、② 処分・裁決の無効等の確認を求めるにつき、法律上の利益を有する者、③ 現在の法律関係に関する訴えによって目的を達成することができないもの、となるが、この解釈については、昔から「一元説」と「二元説」の対立がある。
「一元説」は、③の要件が、①②の両方に係るという説で、「二元説」は、③の要件は②についてのみ係る(したがって、①の要件を満たせば③の要件を満たさなくとも原告適格が認められる)とする説である。
面白いのは、立法参画者は明確に「二元説」を採用していたが、条文はどう読んでも「一元説」にしか解せないというところである。
この経緯について、私の記憶では、講義では「カンマの誤挿入、あるいは位置の間違い」という説の紹介がなされていた。
すなわち、立法過程において、
「無効等確認の訴は、当該処分、裁決又は事実行為に続く処分その他公権力の行使にあたる行為を防止するためこれを必要とする者及び無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有するその他の者で当該処分又は裁決の効力の有無又は存否を前提とする現在の法律関係によつて目的を達することができないもの・・・」(第三次試案)
という明らかに「二元説」の文言であったのが、
「無効等確認の訴は、当該処分、裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分又は裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係によつてその目的を達することができないもの・・・」(整理案)
へと改訂され、カンマの(誤った)挿入によって「一元説」に差し替えられたという説明である(無効等確認訴訟の法定化と包括的抗告訴訟概念の採用)。
しかも、現在もなお、判例は「二元説」を採用しているという説明(【行政事件訴訟法】36条:無効等確認の訴えの原告適格【行政書士通信:行書塾】)と、そうではなく、判例は「一元説」を採用した上で原告適格を広く認めているという説明(例えば、行政事件訴訟法36条など)の対立が存在するようだ。
ここでは、「改訂者」(Revisor)がカンマを打ち込んで、混乱をもたらしたのである。