「4月大歌舞伎」夜の部の最初の演目は、「於染久松色読販」より「土手のお六」と「鬼門の喜兵衛」の2場である。
残りの2つの演目は舞踊なので、法学的・社会学的観点から分析の対象となるのは、最初の演目だけということになる。
「於染久松」というけれど、今回上演される2つの場には、於染も久松も登場せず、その代わり、悪役の典型とも言うべきお六(玉三郎)と喜兵衛(仁左衛門)が登場する。
ちなみに、玉三郎&仁左衛門のコンビは、令和3年2月の歌舞伎座公演でも同じだった。
往年の桃井かおり&ショーケンのような味を醸し出しているが、それもそのはず、コンビ結成から半世紀以上たっているのだ。
「共演する玉三郎は、「一番気心が知れた、客観的に見ても素晴らしい役者さんです」。玉三郎の養父であった十四世勘弥と自分の父(十三世仁左衛門)も仲が良く、「芝居のとらえ方が非常に共通していた」と話し、「だから、お互い芝居に対する気持が通じ合うんです」と続けた言葉のなかに、二人の間の厚い信頼と絆を感じさせます。「いつも玉三郎さんと話しているんです。もう半世紀以上、このコンビを観たいと言っていただけて、本当にありがたいねと」と、しみじみと思いを口にします。」
今度の舞台を楽しく見るために 無駄のない強請(令和2年3月の公演について)
「――「油屋」で、それぞれ違う思惑からお金が欲しいお六と喜兵衛の夫婦は、たまたま莨屋に運び入れられた死体をたねに、弟を殺されたと言いがかりを付けて油屋から金を強請りとろうとします。
この強請場は無駄がないというのでしょうか、簡潔です。ごちゃごちゃと難しいことは言っていません。結果的に成就しない強請をしているのですが、そこがはっきりとしています。」
さて、メインの登場人物はほぼ全員悪役であるが、彼ら/彼女らの行動原理は分かりやすい。
「自分のために、あるいは恩義のある人のために、手段を選ばず金を手に入れようとする。その際、他人から預かったものを自分のものにしてしまう。」
つまり、横領=占有侵害に集約される。
具体的には、
・善六・・・店に預けられた折紙を盗み、紛失の罪を油屋の息子に着せようとする。
・お六・・・以前仕えていた千葉家の竹川から、家宝の宝刀と折紙を油屋から請け出すため百両の金の工面を頼まれ、たまたま預かった死骸(実は丁稚の九太)を自分たちのものにして油屋に対する強請を行う。併せて、久作から預かった袷(油屋の家紋入り)を着服して強請のネタに使う。
・喜兵衛・・・千葉家の宝刀と折紙を盗み、二品を質入れした挙句金を使い込んでしまったが、その穴埋めをすべく、お六と共謀して死骸を用いて油屋に対する強請を行う。
といった具合で、占有侵害のオンパレードである。
私が爆笑しそうになったのは、お六と喜兵衛は共謀関係にあるものの、お六が、家宝の宝刀・折紙を請け出そうとする千葉家のために百両の金を工面しようとするのに対し、喜兵衛は、千葉家から盗んだ宝刀・折紙の質戻しのため百両の金を工面しようとするという、マッチ&ポンプの関係にあるところである。
お六は、油屋に「自分の弟を死なせた」と言って強請を行い、後からやってきた喜兵衛もこれに加わるのだが、”弟”は丁稚の九太であり、フグを食って倒れていただけだったので、お灸をすえられて生き返る。
かくして、お六と喜兵衛の強請は未遂に終わった。
ということで、「於染久松色読販」のポトラッチ・ポイントは、未遂につき0.5となる。
以上を総合すると、4月のポトラッチ・カウントは、
・「双蝶々曲輪日記」引窓 ・・・▲5.0
・「夏祭難波鑑」・・・6.0
・「於染久松色読販」・・・0.5
で、1.5(★☆)。
今月は、国立劇場の文楽が大阪開催ということもあり、少なめになったが、その分東京の劇場はポトラッチが炸裂せず、平和だったということなのだろう。