「今回上演される〈ロイヤル・セレブレーション〉は、創設振付家フレデリック・アシュトンの傑作中篇「田園の出来事」、ジョージ・バランシンの華やかな“ダイヤモンド”(「ジュエルズ」より)ほか、新作2篇を上演。」
ロイヤル・バレエで感心するのは、音楽を非常に大事にするところである。
さすがにオケ全員を引き連れてくるわけにはいかないが、今回もヴァイオリンとピアノの一流ソリストが登場した。
おそらく、その演奏だけでチケット代の3分の1くらいの値打ちがありそうだ。
さて、最も感銘を受けたのは、アシュトンの「田園の出来事」である。
初っ端からショパンの「「ドン・ジョヴァンニ」の「お手をどうぞ」の主題による変奏曲」で始まり、思わず笑ってしまう。
オペラから取り入れたこの曲をバレエに使うとは、ちょっと予想できなかったからである(転用の転用か?)。
また、序盤の「鍵の行方を巡るドタバタ」のくだりが、何だかクリスタル・パイトの The Statement に似ていて意外である。
アシュトンとパイトの作風はほぼ真逆だと思うのだが、対極にあるものは相通ずるという例の一つだろうか?
その感を強くしたのは、ラストの場面で、ベリヤエフ(家庭教師)が、泣き崩れるナターリヤに別れの言葉を告げることが出来ず、彼女のスカーフに黙って頬ずりした後、彼女からもらったバラの花びらをそっと地面に置くシーンである。
「言葉にならない」感情を抱いたとき、人間は、このように静かで単純な、様式化された動作でもってそれを表現することがある。
これを極限まで進めたのが日本の能だと思うが、アシュトンの物語バレエにも、これに近いものを感じたのである。