明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



夕方買い物から帰ると、ドアの前に工務店のSさん。何時からいたのか知らないが、薄暗い中、杖ついた老人が立っているので何事かと。「Sさん気持ち悪いよ、そんなとこでー」そういえば、このあいだ来た時、こんど携帯番号教えるといって、そのままになっていた。 昨年の暮れに酔っ払って骨折していらい杖を放せないが、心臓発作で入院したりもしているので、酒もほとんど飲んでないらしく、それはそれで愚痴っぽくなり、行きつけのK越屋を出入り禁止になってしまったらしい。それにしたって、明大マンドリンクラブの主将を務めた素ッ堅気の長男や、酔っ払ったSさんを引取りに来る次男など、立派な息子達がいるのだから、私のところなどに来ることもないと思うのだが、息子達は親父をみて育ったからか、妙に堅いようで、親父と合わないのかもしれない。奥さんはSさんの唯一の趣味の骨董を解さず、隠していても、いつの間に捨てられてしまうとこぼしていた。私も時折見せてもらっていたが、ほとんど煤けた農機具の一部分といった類で、奥さんならずとも捨てたくなるような代物であった。 身体がいうことを利かなくなり、仕事もできず、喧嘩しながら仲の良かったK越屋に寄ることもできず、こうして散歩の途中で尋ねてくるのであろう。とはいいながら、私に話すことといえば、愚痴なのか作り話なのか、判然としない笑ってしまうような与太話ばかりなので、少々長いことを別にすれば苦にはならない。ひとしきり話して満足したか、杖をつく後ろ姿を見送った。  そういえば丁度杖をついた老婆を作っているところだが、都営地下鉄駅に置かれるフリーペーパーの表紙にしては、ちょっと不気味に過ぎるような気がしている。しかしこの老婆は不気味なことがウリなので、しかたがないのである。

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