明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



アダージョ用背景の撮影に出かける。 主役は少なくとも楽しそうではないし、さらに背後に迫る不気味な老婆では、都営地下鉄駅に置かれるフリーペーパーの表紙として、適切とはいえないのではないか。おまけに本日は不安げな曇天である。曇天に関しては、丁度空にトレッシングペーパーを張ったように硬い陰影が現れず、立体の撮影には好都合なのだが、不気味さを助長していることは確かであろう。当初は不気味な老婆といっても実物ではないわけだし、そんな物をわざわざ粘土で作って表紙にすることが可笑しいし、不気味なところがかえって面白いくらいに考えていたのだが、作っているうち、うつむいて顔が見えないところが思惑を超えて気持ち悪いような気がしてきた。今の段階では説明できないが、なにしろ顔をけっして見せてはいけない老婆であり、見せてしまったら老婆でなくなってしまう、という謎々のような存在なのである。 曇天や夕闇を避け、晴々とした爽やかな日差しを老婆に浴びせれば、ある程度は回避できるだろうが、前述の陰影の問題があるし、昼間の明るさが必ずしも怖さを軽減しないことは、江戸川乱歩の『白昼夢』により学んでいる。だがしかし、私はすでに奥の手を考えていた。現場の近所に住む従兄弟を呼び出し、ちょっとした協力を仰いで、“ソレ”が現れるのを待ち伏せることにした。待つこと30分。果たして“ソレ”は現れ、無事ファインダー内に収めることに成功した。これでおそらく、必用以上に怖くなることは避けられるはずである。

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