子どものころ住んでいた家の庭に泰山木があった。初夏、大きな白い花をつける。この花は蕾が丸くふくらんだときが一番美しい。花は開くとすぐ花弁をだらしなく落としてしまうからだ。ただし花が開くと馥郁とした香りが当たり一面漂う、香りの花である。葉はつややかでかたい、これは暖かい地方の木だ。
小学生の時、蕾がふくらむと、この花をよく学校へ持っていった。姿はだらしなくなってしまうが、教室中がいい香りに包まれた。
泰山木、という名前からも中国原産だと今の今まで思っていた。白木蓮や紫木蓮が中国原産だとは知っていたから、これもそうだと思い込んでいたのだった。
数日前、テレビでブルックリンの人々が街路樹を守り育てるボランティアをしているのを見た。どこのだったか忘れたが、大きく伸びた木を伐採する計画が持ち上がって、住民達が声を上げ、子どものときから慣れ親しんだ木を守ったことから、自分達で街路樹を育て、手入れをしていくことにし、専門家から指導を受け、樹木剪定の認定書を発行して、ボランティア活動を展開しているというものだった。
そのシンボルとなった木、彼らはそれをマグノリアと言っていたが、映像で見ると泰山木だ。マグノリアという単語は知っているが、マグノリアというとモクレンを思い浮かべる。モクレンと泰山木、花も葉っぱも違う。気になった。そこで調べた。なんと泰山木もモクレン科だった。しかも原産は北アメリカの南部、フロリダ付近だった。へ~。
マグノリア(Magnolia 英)というのは、モクレン科の総称で、17~18世紀のフランスの植物学者、ピエール・マニョル(Pierre Magnol)から名づけられたそうだ。
泰山木はMagnolia grandiflora。なるほどマグノリアだった。
以前、ここで原書講読をしていたことがある。そのときのテキストで、ホーソンだったか、作者は定かではないが、若返りの水を主題にした短編を読んだことがある。その時その大きなマグノリアの下の泉から湧き出る水が若返りの水だとかいてあった。辞書にはマグノリアはモクレンとある。で、勝手に白木蓮が咲き乱れる下の泉と想像していたのだが、これは泰山木の下の泉であったのかもしれない。ホーソンだとすればなおのことだ。原著は本棚のどこかにもぐりこませてしまったから、すぐ調べるわけにも行かないが、案外フロリダの、とある場所、だったかもしれない。
因みにいま手元にある辞書を引いてみた。マグノリアはモクレン、括弧してモクレン・コブシ・タイサンボクの類となっている。昔のことだ、あんがい括弧の後の方は見落としていたのかもしれない。
他の英和には The Magnolia Stateというと、ミシシッピ州だとあった。
参考:Netを探したら、こんな記述があった。
泰山木は明治初期に日本に渡来、花、葉、樹形などが大きくて立派なことを、 賞賛して名づけられた。
花の形を大きな盃に 見立てて「大盃木」、それからしだいに 「泰山木」になったとも。「大山木」とも書く。