「京都議定書」約束期間が08年1月1日から開始。環境、経済産業両省の審議会合同会合が昨年暮れに二酸化炭素(CO2)6%削減目標値達成は国内的な自力努力で可能と発表したが、年が明けた08年1月3日の『朝日』朝刊≪環境元年 カモにされる日本 排出権購入額、兆単位に?≫を見ると、発表とは少々趣を異にして、排出権取引なる他力要素が必要と受け取れる内容となっている。記事を箇条書きに要約してみる。
①日本政府や日本企業が「キョウト」のために二酸化炭素(CO2)排出権
を世界中で買い集めている。
②日本政府と商社、電力会社、鉄鋼メーカーなどが、中国などアジア各
国や南米で買い集めているのが、CDM(クリーン開発メカニズム)
やJI(共同実施)事業による排出権。07年末時点で、268件。手に入
れる排出権は1億トンを超え、日本は英国に継ぐ大口の「買い手」と
なっている。
③京都議定書で日本は08~12年の5年間で90年比6%削減の義務を負うが
(米国7%、欧州連合8%)、06年の排出量(速報値)は逆に6・4%の増
加。日本の省エネ技術は最高レベルで、大幅削減に向けたこれ以上の
飛躍的な技術発展は難しい。12年の約束期間の終盤にさらに大量の排
出権の購入が必要となる。
④市場では日本が必要とする排出量は5年間で最大10億トンとも言われ、
日本の需要による排出権価格の高騰を見込んで、「欧州の企業が買わなく
ても、いずれ日本が買う」と見て、欧米の金融機関が高い価格を提示して
量の確保に動いている。
⑤もし排出権価格が2倍に高騰すると、5兆円。現在の価格でも2兆円以上
のカネがCO2のために使われることになり、国民負担へと転化されるこ
とになる。
⑥二酸化炭素(CO2)の排出問題は2012年で解決するわけではないから、
「欧州のディーラーは2013年以降の排出権も買っている」とアナリスト。
⑦日本は「ポスト京都」の枠組が決まっていないという理由で、2013年以降
の排出権を買う動きはない。
⑧日本はEUのような国内の排出権取引市場をつくることに経団連が反対
しているために、CO2を外国から「買う」ばかりで、国内で「売る」場が
ない。
⑨反対の理由は、厳しい排出枠が企業に課せられると国際競争力を失い、
逆に海外で非効率な生産を拡大させてしまうためとしている。経団連の
三村明夫副会長(新日本製鉄社長)は「排出権取引はCO2の削減に役立た
ない」との姿勢。
⑩ドイツ環境省エネルギー部長「日本の産業はドイツの10年前とまったく
同じ議論をしている。欧州では、排出権取引がコストとなる一方で、ビ
ジネスチャンスも提供するということが、今では理解されている」
経団連の三村明夫副会長が言うように、「排出権取引はCO2の削減に役立たない」かどうかは分からないが、2012年の約束期間までに「90年比6%削減の義務」は履行しなければならない「京都」約束であって、しかも「06年の排出量(速報値)は逆に6・4%の増加」という逆進状況を順次抹消していくためには排出権取引に頼らざるを得ないとなったなら、兆単位の半端でないカネのかかる「約束」履行となる。記事は排出権価格が現在の水準で推移したとしても(その可能性は限りなく低いが)、2兆円以上のカネがかかるとしているのである。
ここで2006年の90年比+6.4%というCO2総排出量(13億4100万トン)の部門別内訳とそれぞれの増加率を見てみる。
* * * * * * * *
部門 ―排出量―増加率――内訳 (資源エネルギー庁/06.6.12)
産業部門―38.0%―±00%――企業関連
運輸部門―20.7%―+22%――トラック・乗用車・飛行機・船
事務・商業―15.6%―+33%――オフィス、スーパー、野球場など
家 庭 ―13.5%―+30%――家電、クーラー、テレビ、照明
その他 ―6.8+3.8+1.8% ――エネルギー、工業プロ、廃棄物
* * * * * * * *
「運輸部門」は13億4100万トン×20.7%=2億7759万トンの排出量である。
次に平成19年9月末現在の保有全車両台数79,682,171台のうち乗用車は57,889,737台という統計を当てはめると、全車両に占める乗用車の割合は約73%となる。ここから「運輸部門」に於ける乗用車の二酸化炭素排出量を概算してみると、2億7759万トン×73%≒2億0265万トン(乗用車の二酸化炭素排出量)。これは2006年総排出量の15.1%を占める。
環境白書によると1900年の二酸化炭素総排出量は11億4400万トンだそうで、その「6%削減」の義務を負うとすると、6864万トン削減して、10億7536万トンまで持っていかなければならない。
これは2006年時点の排出量で推移すると仮定しても、この年のCO2総排出量(13億4100万トン)-10億7536万トン=2億6564万トン・19.8%の削減義務を負うことになう。これを08~12年の5年間で平均して削減していくと計算すると、1年間に5312万トン・3.96%ずつ削減していかなければならない。
『平成19年版 図で見る環境/循環白書』によると、「産業部門では依然として二酸化炭素の排出量の割合は大きく、京都議定書の部門別目標値には及ばないため引き続き取組の推進が必要となる。しかし様々な省エネルギー対策技術の導入など取組が進んでおり、基準年である1990年との比較では排出量は減少している。
民生部門(業務その他、家庭)、運輸部門の二酸化炭素排出量は、基準年である1990年と比較して全体として大幅な増加 (業務その他44.6%、家庭36.7%、運輸18.1%) となり、かつ、2005年現在57%と相当の排出割合を占めている。逆に見れば、これらの部門に関わる多くの人々が取組を進めることにより、削減効果は非常に大きくなるものと期待できる。
このため、特にこれらの部門を中心に、実用段階にある技術の普及による二酸化炭素排出量の削減について見ていくこととする」と出ている。
先に見たように「運輸部門は」1990年比22%増の2億7759万トンの排出量となっている。計算方法が違うのか、上記『平成19年版 図で見る環境/循環白書』の「運輸18.1%」の数値と加えている項目に違いがあるのか、計算方法が違うの分からないが、ズレがある。
尤もズレがあっても、1990年比増加率は、「家庭」、「事務・商業」に次いで「運輸部門が3番目に位置する排出量であることに変わりない。
車は地球環境の保全に迫られてガソリン車から電気自動車へと、歩みは遅いがシフトしつつある。排出権価格が現在の水準で推移したとしても2兆円以上のカネがかかるとするなら、その2兆円を電気自動車の普及に全額活用したなら、乗用車が排出する二酸化炭素を減らすことができるだけではなく、普及に対応したバッテリーのより優れた性能・より優れた耐久性を持った製品への開発と大量生産によるコストダウンによって、電気自動車自体のコストダウン、その相乗効果としてのさらなる普及と開発、そして家庭用の太陽熱発電に於ける蓄電池として利用することもでき、間接的に火力発電所等の二酸化炭素排出を抑制することができるはずである。
あるいは太陽熱発電装置を持たない家庭、その他小規模な工場・商店・事業所等がそれぞれ蓄電池を備えることでほぼ人間活動を停止する深夜の余剰の電気を蓄電し、それを活動を開始した日中の電気エネルギーに振り向ければ、二酸化炭素排出の負荷を抑えることができるはずである。発電所にしても二酸化炭素排出の抑制だけではなく、深夜の使用電気量が増え、昼間のそれが逆に減ることによって、平均した発電作業を行うことができ、余分な無駄が省けるのではないだろうか。
また乗用車の運転エネルギーをガソリンから電気に変えることによって、トウモロコシ、大豆等がバイオ燃料としてガソリン代替燃料に振り向けられ、食品や飼料にまわらずに高騰する現象を抑えることができる。
平成19年9月末現在の保有全車両台数79,682,171台のうち乗用車は57,889,737台だそうだ。現在電気自動車は300万円までコストダウンしているという。1台につき100万円を国が補助して1台の値段を200万円とし、自治体や官公庁にリースではなく購入させるとすると、2兆円÷100万円=200万台を走らせることができる。
完全充電で走行可能な約200kmを走行するために必要なガソリン代約3000円(燃費10km/ℓ=150円)に対して、電気普通乗用車は約750円(昼間25円)~330円(夜間11円)
だとする統計がある。
その差額は電気自動車は平均を取って600円とすると、2400円の節約となる。自治体や官公庁の場合の走行距離はたいしたことはないだろうから、これを半年の燃費として1年間の燃費の節約は2倍の4800円。
節約分の半額を国に返還させることにして、4800円のうち半額の2400円×200万台=48億円が国に戻る。
48億円÷100万=2400台。200万台の上に1年間に2400台を上乗せして走らせることができる。自治体・官公庁が走行距離の長い利用を行えば、さらに上乗せして普及を図ることができる。当然その普及に応じてガソリンの使用量の減少とその価格の抑制のみならず、他物価のコストダウン、及び電気自動車のコスト自体を下げることができる。
06年の乗用車の二酸化炭素排出量は2億0265万トンであり、排気量による違いを無視して全乗用車数57,889,737台で割ると、乗用車1台の二酸化炭素年間排出量は3.5トンとなる。2002400台分を掛け算すると、7008400トンの抑制となる。
これは06年のCO2総排出量(13億4100万トン)の0.52%に過ぎないが、年々増加していくうちのいくらかを抑えた0.52%であり、電気自動車の普及を高めていけば、先にも触れたようにバッテリーの高性能化を図ることができて多目的化が可能となり、他のケースにもつがなる二酸化炭素排出量の抑制であろう。
さらに現在の原油価格が実需に反して投機的思惑にも影響を受けて高騰し、国民の生活を含めた経済全体に悪影響を及ぼしていることを考えるなら、二酸化炭素排出権取引でも投機的思惑に振りまわされない保証はないばかりか、上記『朝日』記事が<日本の需要による排出権価格の高騰を見込んで、「欧州の企業が買わなくても、いずれ日本が買う」と見て、欧米の金融機関が高い価格を提示して量の確保に動いている。>とか、<排出権価格が2倍に高騰すると、5兆円。>と言っているようにコストが予定外にかかる恐れを計算に入れなければならないだろう。
さらに排出権取引は二酸化炭素そのものの実体を削減するのではなく、排出の権利を他から手に入れて見かけ上削減するだけのことで、そのような見かけ上の削減から比較したなら、0.52%の実態的削減は実際よりも大きな数字を示していると言えるのではないだろうか。
また現在は発展途上にあっても、将来的に経済発展していく国が次々と生じていくことを考慮に入れると、世界的な二酸化炭素排出量は経済発展に伴って逆説的に成長の一途を辿るのみで、その流れに逆らえないとなったなら、排出権取引による見かけ上の削減は当然コストが高騰していく問題も含めていつ破綻しかねない夢幻と終わりかねない。
例え0.52%の微々たる削減であっても、二酸化炭素そのものを一歩一歩着実に削減していく実体を伴う削減に立ち向かうべきではないだろうか。