文科省の学力テスト分析に不足はないか

2008-01-29 09:14:03 | Weblog

 暗記形式の「書く・読む」重視では問題は解決しない

 昨07年4月に文科省が行った小学4年生・中学3年生の全国学力テストの追加分析結果が公表された。23日(08年1月)のasahi.com記事≪正答率高い学校「書く・読む」重視 全国学力調査≫で見てみると、

 <小6と中3を対象に昨年4月行われた全国学力調査で、国語と算数・数学の平均正答率がいずれも高かった学校は、国語で「書く習慣」や「様々な文章を読む習慣」を身につけさせる授業をよく行っていたことが、文部科学省の分析で分かった。同省は「書く力や読解力は国語だけでなく、他の教科の学力でも重要ということの表れ」とみている。
 文科省は昨年10月に学力調査の結果を公表したが、学校長らが記入した「学校質問紙調査」の結果と平均正答率の関係について分析。相関関係がみられた内容を23日、新たに発表した。
 今回の分析では、公立学校のうち国語、算数・数学のA問題(知識中心)とB問題(活用中心)すべてで、平均正答率が全国平均より5ポイント以上高い「A群」(小学1024校、中学321校)と5ポイント以上低い「B群」(小学1320項、中学523校)に分類。その結果、「国語で書く習慣をつける授業をよく行っていた」のはA群で小学28.8%、中学37.1%に対し、B群では小学16.5%、中学21.6%。「様々な文章を読む習慣」を狙った授業をよく行っていた場合も、同じ傾向だった
 一方、すべての学校を比べた項目では、「朝の読書」など一斉読書の時間を設けている学校が、設けていない学校と比べ、平均正答率が全科目で2~3ポイント、高かった。>・・・・・

 要約すると、
Ⅰ「公立学校のうち国語、算数・数学のA問題(知識中心)とB問題(活用
 中心)」をひっくるめた「平均正答率が全国平均より5ポイント以上高い
 」学校(A群)と「平均正答率が全国平均より5ポイント以上低い」学校
 (B群)の割合は、
①「A群」(高い)は「小学1024校、中学321校 
②「B群」(低い)は「小学1320校、中学523校

Ⅱ「国語で書く習慣をつける授業をよく行っていた」学校の割合は。
①「A群」(高い)で――小学28.8%、中学37.1%
 「B群」(低い)で――小学16.5%、中学21.6%

Ⅲその他。
①「様々な文章を読む習慣」を狙った授業をよく行っていた場合も、同じ傾
 向が出た。
②すべての学校を比べた項目では、「朝の読書」など一斉読書の時間を設け
 ている学校が、設けていない学校と比べ、平均正答率が全科目で2~3ポ
 イント高かった。

Ⅳ分析して分かったこと。
①国語と算数・数学の平均正答率がいずれも高かった学校は、国語で「書く
 習慣」や「様々な文章を読む習慣」を身につけさせる授業をよく行ってい
 た。
②書く力や読解力は国語だけでなく、他の教科の学力でも重要ということが
 判明。

 記事は「国語で書く習慣をつける授業」に関して解説しているが、Ⅲ②の<「様々な文章を読む習慣」を狙った授業をよく行っていた場合も、同じ傾向が出た>ことから省略したのだろう。

 後回しになったが、挿入されている「図画像」を文章に変えて見てみる。

「国語の指導で書く習慣をつける授業をした」
 平均正答率の高い小学校
      よく行った――28.8%
どちらかといえば行った――58.5%
  あまり行っていない――12.4%
   全く行っていない―― 0.2%

 平均正答率の低い小学校
      よく行った――16.5%
どちらかといえば行った――61.1%
  あまり行っていない――21.7%
   全く行っていない―― 0.7%

「国語の指導で様々な文章を読む習慣をつける授業をした」
 平均正答率の高い中学校
      よく行った――33.6%
どちらかといえば行った――55.85%
  あまり行っていない――10.6%
   全く行っていない―― 0%

 平均正答率の低い中学校
      よく行った――16.1%
どちらかといえば行った――60.6%
  あまり行っていない――22.9%
   全く行っていない―― 0.6%

 キャプション【平均正答率が高い学校は「国語A、国語B、算数・数学A、算数・数学Bの4科目すべてで全国平均を5ポイント以上高い」、低い学校は「4科目すべてで全国平均を5ポイント以上下回る学校」】
* * * * * * * *
 上記統計で特に目につくのは小学校は「国語の指導でよく書く習慣をつける授業」を、中学校は「国語の指導で様々な文章を読む習慣をつける授業」を、統計の数値自体からはその内容と質が見えてこないから、その点に関する推量は後回しにするが、「平均5ポイント以上高い」小・中学校にしても「平均5ポイント以上低い」小・中学校にしても、「どちらかといえば行った」が半数以上を占めていることである。「どちらかといえば行った」は意識して積極的には行わなかったということであろう。

 但し、意識して積極的には行わなず「どちらかといえば行った」の割合は、小学校は58.5%→61.1%、中学校は55.85%→60.6%で、「平均5ポイント以上高い」成績の小・中学校よりも「平均5ポイント以上低い」成績の小・中学校の方がわずかに上回っている。

 上回っているにも関わらず、成績自体は劣るのだから、成績の違いに大きな影響を与えている因子から外してもいいのではないだろうか。

 最も大きな数値差を見せている項目は意識して積極的に行った形態の「よく行った」であり、「平均5ポイント以上低い」小・中学校の「よく行った」割合の「平均5ポイント以上高い」小・中学校と比較した減少分が「どちらかといえば行った」と「全く行っていない」への移動はほんの僅かで、その殆どは「あまり行っていない」に移動している

 とすると、小学校は「国語の指導でよく書く習慣をつける授業」を、中学校は「国語の指導で様々な文章を読む習慣をつける授業」を「よく行った」学校数の小学校では12.3ポイント差、中学校では17・5ポイント差が、裏を返すと「全く行っていない」学校数の小学校では9.3ポイント差、中学校では12.3ポイント差が正答率を「全国平均を5ポイント以上高」く押し上げた要因と言えるのではないだろうか。つまり「平均5ポイント以上高い」成績は「よく行った」学校数の多さにかかっていたと言い直すことができる。

 このことだけを見ると、文科省の分析結果である<国語と算数・数学の平均正答率がいずれも高かった学校は、国語で「書く習慣」や「様々な文章を読む習慣」を身につけさせる授業をよく行っていた。>、<書く力や読解力は国語だけでなく、他の教科の学力でも重要ということ判明。>は的を得た内容だと言える。

 但し上記分析結果は「どちらかといえば行った」は成績の違いに大きな影響を与えている因子から外してもいいのではないだろうかと既に予測してはいるが、成績の良し悪しは「よく行った」学校数の割合次第ではないかとした予測と併せて、「どちらかといえば行った」はどちらの成績群でも似たような成績結果だったという統計づけを含まなければ私自身の予測は成立しなくなる。

 ここで分析数値からでは見えなかった小学校は「国語の指導でよく書く習慣をつける授業」の、中学校は「国語の指導で様々な文章を読む習慣をつける授業」の内容とその質を推し量ってみる。

 新聞記事は「A問題(知識中心)とB問題(活用中心)」と簡単に片付けているが、実際は「A問題」は基礎的知識を問い、「B問題」は応用力を問うテストとなっていた。改めて断るまでもなく、「応用力」の活用は思考力(考える力)や想像性(創造性)を必要とする。考える力もなければ、想像(創造)する能力もなければ、「応用力」は機能しない。

 文科省の昨年10月発表による成績結果は(下記読売インターネット記事から引用)、
 小学校・国語A――82%/国語B――63%
     算数A――82%/算数B――64%
 中学校・国語A――82%/国語B――72%
     数学A――73%/数学B――61%

 「A問題」と「B問題」では小学校でそれぞれ20%の差、中学校で10%の差が出ている。

 ここで改めて文部省の分析結果を取り上げてみる。

①国語と算数・数学の平均正答率がいずれも高かった学校は、国語で「書く
 習慣」や「様々な文章を読む習慣」を身につけさせる授業をよく行ってい
 た。
②書く力や読解力は国語だけでなく、他の教科の学力でも重要ということが
 判明。

 上記因果関係に整合性を与えるためには、言っている「習慣」、「授業」の成果が「応用力」を問う「B」問題にこそより多く反映されなければならない。だが、テストの結果は逆となっている。この説明はどうつけたらいいのだろうか。

 国語の「書く習慣」は機械的に「書く」(=機械的書き写し)ではなく、そこに考える要素が入り込んでいなければ、機械的な暗記にはつながるかもしれないタダの筆写と化す。「様々な文章を読む習慣」にしても、機械的に「読む」(=機械的音読)ではなく、「応用力」の育みへとつながる考え・想像(創造)する頭の働きを作動させる仕掛けを並行させなければ、「様々な文章を読む習慣」も教師が指示したからその指示に従ったに過ぎない機械的習慣、あるいは積極的取組みとは反対の受身の習慣で終わる。

 いわば国語で「書く習慣」にしても「様々な文章を読む習慣」にしても生徒の積極的姿勢を必ずしも引き出せないでいる中途半端な「習慣」で推移しているから、反映されるべき「B問題」で具体的成果を得ることができなかったということではないだろうか

 「A問題」がどちらかというと暗記学力で片付く「知識中心」であることと、思考力や想像(創造)力の裏打ちがあって機能する「応用力」を問う「B問題」に反映されなかったこととを考え併せると、日本の学校授業が暗記教育に傾いていて、国語で「書く習慣」や「様々な文章を読む習慣」を身につけさせる授業が中途半端に終わっていることを示していないだろうか。

 <国語で「書く習慣」や「様々な文章を読む習慣」を身につけさせる授業をよく行っていた>と言っても、圧倒的多数の小・中学校が「よく行っていた」から外れているのである。従来どおりの暗記授業に低迷し、それを全体的慣習としているからこそ、その種の授業が成績の高い「A群」の小学1024校のうちの28.8%、約3分の1の僅か295校、中学校で321校のうちの4割近い37.1%の119校にのみとどまっているのであり、その種の授業の中途半端に終わっていることの状況ではないだろうか。

 このことは成績の低い「B群」についても言える。小学校1320校のうち、16.5%の218校、中学校で523校のうち21.6%の113校でしか「書く習慣」や「様々な文章を読む習慣」の授業を行っていない。それを暗記教育と取るかどうかは別問題としても、圧倒的多数の学校が「応用力」につながらない従来どおりの教育スタイルを引きずっているということではないだろうか。

 以上文科省の分析結果の不足部分を分析してみたが、どんなものだろうか。

 記憶を改めるために古い記事だが読売インターネット記事(07.10.25)を引用しておく。

 ≪全国学力テスト結果公表、基本知識あるも応用力に課題≫

 <文部科学省は24日、小学6年生と中学3年生を対象に今春実施した全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を公表した。
 全員参加を前提としたテストとしては43年ぶりで、計算などの基本的知識は身についていたものの、応用力に課題があることが浮き彫りになった。
 都道府県別の結果では、ほとんどの自治体が全国平均に近い成績を収め、大きな格差は見られなかったが、学校ごとに見ると成績に開きが生じている実態も明らかになった。
 今回のテストは、学力低下の指摘を受け、自治体や学校、児童生徒の課題を明確にし、改善に役立てるため、4月24日に実施された。
 愛知県犬山市の14項を除くすべての国公立と、私立の約6割の小中学校の計約222万人が参加。国語と算数・数学について、それぞれ主に知識を問うA問題と、知識を実生活で生かす力を記述式問題などで試すB問題に挑んだ。
 全問題中、何問正解したかを示す平均正答率を教科別に見ると、小学校の国語A、算数Aはともに82%だったのに対し、国語Bは63%、算数Bは64%にとどまった。
 中学校でも、国語Aの82%、数学Aの73%に比べ、国語Bは72%、数学Bは61%だった。表現力や思考力を十分身につけていない子供が多い実情が明確になり、経済協力開発機構(OECD)の「国際学習到達度調査(PISA)」などと同じ傾向が出た。
 1960年代の学力テストでは、都道府県別の結果に開きが生じ、自治体間の競争が過熱する一因となったが、今回は、小学校の国語Aで各都道府県の平均正答率が全国平均のプラスマイナス5ポイントの範囲に収まるなど、自治体ごとの差は小さかった。
 だが、中学校になると差が開き始め、数学Aでは、最も平均正答率が高かった福井県(80・3%)と低かった沖縄県(57・2%)で20ポイント以上の差が生じていた。
 学校単位で見ると、出来不出来でかなりばらつきが見られ、例えば、中学校の数学Bでは、参加した約1万校のうち、978校が正答率5割未満だったのに対し、8割以上の正答率だった学校も299校あった。
 一方、文科省は、テストと同時に児童生徒の意識調査も行い、生活環境や生活習慣と学力との関係を調べた。経済的な理由で国や自治体などから学用品代や修学旅行費などの就学援助を受けている児童生徒の割合の高い学校の方が、低い学校より平均正答率が低い傾向が見られた。
 結果は、都道府県のほか、市区町村や学校にも24日中に届けられ、近く児童・生徒個人の結果も一人一人に手渡される。ただ、学校の序列化や過度の競争を防ぐため、都道府県は学校別や市区町村別の結果については公表しない方針だ。>・・・・

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