イスラエル・パレスチナ問題一つ取っても、アフマディネジャド大統領は「イスラエルは地図から抹消されるべきだ」との過激な姿勢を示していて、欧米とは相容れない対極に位置している。
もしイランが核保有国になると、イスラエルは自国の安全のために核施設に向けた攻撃の可能性が指摘されている。イスラエル空軍の核施設空爆を想定した大規模演習が行われてもいる。
となると、是が非でも保守強硬派のアフマディネジャド大統領再選は日本の自民党政権にトドメを刺す必要性と同程度に阻止しなければならない差し迫った問題であろう。
保守強硬派のアフマディネジャドが大統領に居座っている間、イランとイスラエル間の緊張関係は絶えに違いない。オバマ大統領は6月5日(09年)、エジプト・カイロで「世界のイスラム教徒と米国との『新たな始まり』を求めるためここに来た」(《オバマ米大統領:アラブ圏で初演説(要旨)》と演説の冒頭(?)で述べて、イラン、核問題については、「米国は冷戦中、民主的に選ばれたイラン政府を転覆させた。イランは、米国に対し暴力的だった。今後は互いを尊重し、話し合う。核への姿勢は揺るがない。米国は、いかなる国も核兵器を持たない世界を追求する。核拡散防止条約に従う国々はイランを含め、平和利用を認める」と核兵器開発は認めないが、平和利用は認めると言明した。
ここの箇所は「NHK」インターネット記事によると、イランとの関係を「前提条件なしで前進する用意がある」と述べたと伝えている。
「前提条件なし」と言うなら、経済制裁という軛を無条件に外し、核の軍事利用開発問題の話し合いの進展に応じて、早期に国交断絶という次の軛を外してもいいはずである。
アメリカのイランに対する過去の負の遺産がイラン国民の多くに反米感情を植えつけ、固定観念化させていて、経済制裁無条件停止というアメリカの新たな政策に反発するイラン国民も多くいるだろう。だが、ハタミ前大統領(1997年~2005年)選出時には彼の改革開放政策に多くの大学生や若者、女性が強い支持を与えている。
その支持を背景に欧米との関係改善を図り、革命後初めてアメリカのスポーツ選手団を受け入れたり、欧州各国を訪問したりしたが、宗教右派の妨害とブッシュ大統領の2002年の「悪の枢軸」名指し等でアメリカとの関係改善の努力が報われず、挫折し、改革解放に期待した国民を絶望させ、憲法の連続三選禁止規定によって出馬しなかったが、絶望の反動がイラン国民をして改革解放から保守強硬へと向かわせ、結果として保守強硬の代表格たるアフマディネジャド大統領誕生に力を貸すこととなったと言われている。
しかし現在のイランは高インフレ、高失業率が問題となっていて、アフマディネジャド大統領の経済政策に国民の不満が高まっているという。アメリカの経済制裁解除が改革解放から保守強行へ振れた針を戻すチャンスとなる可能性を秘めてもいる。
例え内政干渉だとしてアフマディネジャド大統領及びその一派や宗教右派が反撥しようとも、改革派当選を条件に経済制裁無条件解除を打ち出して、核開発問題の解決進展に賭けるためにも、イランとの友好関係構築のためにも改革派当選に力を貸すべきではないだろうか。
私がまだメーリングリスト仲間に加わっていた頃、世界をすべて「独裁対民主主義と捉える図式的教条主義にはまっている」といった批判を受け、それに反論する文章の中でアメリカはイランやキューバが独裁的、あるいは一党独裁であっても国交を回復すべきだという考えを持っていることを例に挙げて、必ずしも世界を「独裁対民主主義と捉える図式的教条主義にはまっている」わけではないことを主張したが、後で気がつく寝小便めくが、アメリカはハタミ大統領時代に経済制裁解除と国交回復を図るべきだった。だが、ブッシュ大統領はそのチャンスを逃したばかりか、「悪の枢軸」なる有難い尊称をイランに与えた。こういったことが現在のイランの状況にもつながっているはずである。
当時の文章を一部抜粋で参考に供したいと思う。
送信者: "Hiroyuki.Teshirogi" <wbs08540@mail.wbs.ne.jp>
宛先: <kokkai2@egroups.co.jp>
件名 :Re図式的、教条主義的に過ぎませんか
日時 :2003年6月28日 20:03
キューバを例に挙げて、説明してみます。カストロがアメリカ資本の支配した腐敗したバチスタ独裁政権を打倒、共産主義化したのは、当時のキューバにあっては、アメリカ資本と結びついた一部富裕層を除いて、大多数の国民には苛酷な労働と生活しか生み出さない、悪の象徴でしかなかった資本主義を反面教師としたからだと思います。その時代の世界は、国民の虐げられた状態に憎しみと怒りを感じる人間にとっては、資本主義国家にあっては共産主義が、共産主義国家においては資本主義が、それぞれに理想の制度と見なしていたという状況も影響したでしょう。旧ソ連政府から国外追放処分された反体制派作家ソルジェニーツインは自由の国アメリカに移住しなががら、皮肉にも、その社会に対する失望を語っています。
キューバは中南米唯一の共産主義国家だと言っても、ある程度の自由は存在するでしょうが、カストロがイラクのフセインや北朝鮮の金正日レベルの政治権力と国家予算の私物化・国民に対する過度の人権及び経済的抑圧・体制批判者に対する無制限、無条件な行き過ぎた身体的拘束と肉体的精神的懲罰を権力維持の絶対的方法としているわけではない独裁国家に対するアメリカの経済制裁には、前々から反対でした。キューバ人の陽性を考慮すると、逆に経済交流を図って、その過程で民主主義と自由主義の有意義性を肌に染み込ませ、共産主義における全体主義的規律を氷解させていけばいいというのが私の考えでした。
同様に、43年間続き国家の富を独占したソモサ一族の腐敗した独裁支配に対する反動として樹立されたニカラグアの左翼政権・サンディニスタ民族解放戦線に対するアメリカのかつての政治的・経済的圧力にも反対でしたし、核開発を意図しているといは言え、ホメイニ死後の、国民の多くが民主化を求めているハタミ大統領(1997年 - 2005年)のイランに対するアメリカの国交断絶と経済制裁には、現在も反対しています。アメリカの国交回復と経済制裁解除によって、イランは民主化に向けて大きく変るだろうと予測しているからです。
オバマはブッシュ前大統領の単独主義的軍事力行使にウエイトを置いた強硬外交から決別、話し合いや世界各国との強調にも主眼を置いた硬軟両様の「スマート外交」を提唱している。
こちらの要求に応える相手の努力にのみご褒美を与えるのではなく、ご褒美を与えてから、要求を提示するのも世界の超大国としての“スマート”な遣り方と言えないだろうか。
6月3日の米州機構(OAS)年次総会で加盟国はキューバ追放決議を無効としたものの、米州機構(OAS)への復帰を拒否したが、先ずは仲間に戻し、経済制裁の解除も行ってから、丁々発止の議論を闘わせるべきではないだろうか。
まあ、私は「外交の麻生」とは遥か遠い場所にいる外交オンチだから、麻生の世迷言とは違う別の世迷言でしかないかもしれないが、相手が保守強硬、コチコチ頑迷な原理主義者なら、どのような誠意も通じないかもしれないが、改革解放あるいは人権や自由の価値により重きを置く指導者であるなら、経済制裁の無条件解除等の先手を打つことによって、イランやキューバといった国が構えてきたこれまでの頑なな姿勢に相手に対する信頼を少しは植えつけることができるのではないだろうか。
この考えは麻生以上に甘過ぎるだろうか。
以下、参考までに引用――
≪《オバマ米大統領:アラブ圏で初演説(要旨)》≫(毎日jp /2009年6月5日)
オバマ米大統領が4日にカイロで行った演説の要旨は次の通り。
世界のイスラム教徒と米国との「新たな始まり」を求めるためここに来た。相互の利益、尊敬に基づく。イスラムに関する否定的なステレオタイプと戦うのは米大統領の責務だ。
◆過激主義との戦い
安全保障に深刻な脅威をもたらす過激派とは容赦なく戦う。アフガニスタンには必要があって派兵したが、兵を維持したいわけではない。イラクは選択的に行われた戦争で、論争を引き起こした。外交や国際協調の必要性を米国に思い知らせた。米国は国家主権と法による支配を尊重し、イスラム社会と協力しながら自国を守る。
◆中東和平
米国とイスラエルの強い結束は断てない。ユダヤ人が祖国建設を希求するのは、悲惨な歴史体験に根付く。だがパレスチナの苦しみが続く現状は、認められない。パレスチナは暴力を、イスラエルは入植をやめる必要がある。2国共存が唯一の解決だ。
◆イラン、核問題
米国は冷戦中、民主的に選ばれたイラン政府を転覆させた。イランは、米国に対し暴力的だった。今後は互いを尊重し、話し合う。核への姿勢は揺るがない。米国は、いかなる国も核兵器を持たない世界を追求する。核拡散防止条約に従う国々はイランを含め、平和利用を認める。
◆民主主義
どの国も特定の政治体制を他国に押し付けられない。各国には伝統に根ざす原則がある。ただ発言の自由、法の下の平等、自由に生きる権利は人々から奪えない。
◆宗教の自由
イスラムには寛容の伝統がある。宗教の自由は人々の共存に不可欠だ。
◆女性の権利
髪を隠すのは女性差別ではない。教育を受けられないのは不平等だ。
◆経済発展
日韓のように文化を保持しながら経済成長した国もある。湾岸諸国は石油で豊かになったが、教育と革新が重要だ。今年、イスラム社会と米国との企業家サミットを開く。新エネルギーやきれいな水を作るための科学特使を任命し、イスラム圏と技術開発を進める。
世界平和が神の意思だ。私たちが実現させなければならない。【カイロ支局】
なぜなら、事実上の一騎打ちと目されている6月12日投票のイラン大統領選で保守強硬派のアフマディネジャド大統領が改革派のムサビ元首相に勝利した場合、アメリカを強硬に敵視し、欧米の批判に目も向けずに核兵器開発に執念を示しているアフマディネジャド大統領を核開発を断念させるための話し合いのテーブルにつけることは極めて困難であり、逆に改革派ムサビ元首相が大統領になった場合の話し合いのテーブル設置の可能性は否定できないからだ。かつてアメリカとの関係改善を図ったハタミ前大統領がムサビ元首相を支持していることも、話し合いの可能性を証明する好材料に違いない。