日本の省庁や自治体が、民間企業も自らの伝統・文化・歴史としているよくある「預け」という手法を千葉県も踏襲した。地方自治体が業者に物品購入をカラ発注する。業者側は物品を納入しないまま、県の会計にさも納品済みであるかのように発注書の写しと県の発注部署の受け取った印の判が押してある納品書を添えて請求書を送りつける。会計は請求書にある金額どおりのカネを業者の口座に振り込む。業者はそのカネをプールしておいて、発注部署の請求に応じて相手側の必要金額をバックする。
現金をナマで受け取るのは公務員という立場上、業者に後ろめたいと感じることもあるのか、業者にプール金の中から金券やビール券を購入させて、それを県側に納品させ、県側で換金して飲み食い、その他の私的流用にまわす面倒もときに厭わない。
勿論、業者側に目に見えるウマミを与えずに自分たちだけ県の予算(=県民の税金、国から補助金として回ってきた場合は国民の税金)を私的流用するウマミに与った場合ウマミの独り占めとなって都合が悪いし、告発された場合、虎の子のウマミを失うばかりか、折角築いていた身分まで失う恐れから、それ相応のウマミを与えて共犯者に抱き込み、それを以て口止め料とする配慮は欠かさない。
その相場が1~2割から、2割5分。「asahi.com」記事では10万円分の金券に2万5千円の手数料が上乗せしてあったケースもあったという。10万円で2万5千円の利益とはこれ程効率のよい取引はそう滅多にはあるまい。
かくして県と業者の不正な利益・ウマミを遣り取りする友情に満ちた持ちつ持たれつの確固たるナアナアの関係が出来上がる。
“カラ”はカラ発注だけではない。カラ出張、カラ残業、カラ飲食。カラ飲食は飲み食いしないのに飲食店に請求書を送らせ、支払われた代金がプールされて、別の機会に飲食の用に費やされるか、別の用途に転用される。確か静岡県だったと思うが、ホテルで会議を開いたように見せかけて代金を請求させてその金をプールさせ、私的流用にまわしていたケースもあった。
せっせとプールさせて有効活用にまわした用途は将棋盤や卓球台、ゲーム機、冷蔵庫や電子レンジ、ホットカーペット、プレイステーション2、そのゲームソフト等々の購入、さらに家族や愛人の生活費、コンパニオンを呼んでの高級料亭での遊興費と多岐・多様に亘る。
その多岐・多様性から見えてくるシーンは不正経理と不正利用に如何にエネルギーを注ぎ、如何に活躍していたか、「約96%」の所属部署に亘る県職員たちの日々のその姿である。
他人のカネで、それが県民・国民の税金であっても、自分の懐を痛めないという理由で娯楽を得ること程、楽しいことはない。後々までカネの心配をしないで済むという点で、これ程安心を与えるものはない。
ましてや他人のカネで飲んだり食ったりすること程、心置きなく飲んだり食ったりできることはなく、カネの心配をする必要がないから、気持が大きくなり、この上ない愉快を保証してくれることとなる。
他人のカネなのだから、自分の懐をケチケチと計算する必要もなく、誰に気兼ねすることも一切なく、大人物になったように仲間に気前よくもっと飲め、もっと食えと勧めることができ、これ程の活躍の機会を与えてくれることはない。日常の仕事では与えてくれない活躍感であろう。
一旦、他人のカネに味を占めると、自分のカネが減るわけではない、その計算をする必要がない、自分の懐具合をあれこれと気にかける必要がないという理由でそれが県民の税金であろうと国民の税金であろうと、その味から抜け出れなくなって、底なし沼の深みにはまり込んでいく。
他人のカネ程、自由を与えてくれるものはない。様々な活躍を与えてくれるものはない。女に使う場合、相手がバー、クラブの女であっても、コンパニオンであっても、いくらでも気前よくなれる。カネ離れがいい、気前がよいと女に持て、愛人になってもいいと名乗り出てくる女もいるだろう。上記「愛人の生活費」という用途は他人のカネで手に入れた気前のよさ、カネ離れで転がり込んできた「愛人」ということもある。その生活費まで他人のカネで賄う。
何という素晴らしさだろう。こういったことも含めて味を占めた諸々の積み重ねが5年間で約30億円ということなのだろう。
だが、物事にはプラスマイナスがある。自分のカネを減らさずに他人のカネで手に入れる消費の自由、自由な自己活躍は心の卑しさを背中合わせに蓄積していく。
本人は気づいていないだろう。他人のカネに味を占めること自体が卑しい心の発揮なくしてできない振る舞いであろう。その卑しさがあって、不正経理を行ってまで飲み食いに私的流用する、あるいは家族や女にいい顔をする私的流用が可能となる。
2008年10月18日の「47NEWS」記事――《12道府県で不正経理 架空発注し裏金をプール》が冒頭で次のように書いている。
〈各地で発覚した自治体の裏金問題を受け、会計検査院が任意に選んだ12道府県の国庫補助事業を調査した結果、全道府県で裏金づくりなどの不正経理が見つかったことが18日、分かった。〉――
12道府県を検査したところ、一つ残らずのすべての道府県で不正経理が行われていた。いわば調べたすべての道府県で不正経理が洩れなく行われていた。見事なまでに足並みを揃えていた。
洩れなくということは1都1道2府43県とも不正経理の可能性が考えられるということになる。
地方分権、財源移譲が昨今姦しく言われている。自公政権から民主党政権に移行して、地方分権とそれに伴う財源移譲がより速いスピードで進むと受け止められている。日本全国すべての自治体で洩れなくの可能性からすると、地方分権の加速と国から地方への財源移譲は日本全国の地方自治体で以ってカラ発注やカラ出張、カラ残業、カラ飲食等々による不正経理と私的流用の裁量幅が増えるまたとないチャンスとなるに違いない。
素晴らしきかなニッポン人――、その卑しき心。
千葉県が5年間で約30億円もの不正経理を行っていた。全庁的に行われ、県警も含まれていたという。〈県によると、平成19年度までの5年間の需用費のうち主に消耗品の支出約64億8700万円について調べたところ、県庁内の約96%の所属(課、室など)が不正を行い、推定値を含めた不正経理総額は約29億7900万円に上ったことが分かった。また、事務用品への架空発注などで業者に預けているプール金が約4億1800万円に上ることが判明した。〉(msn産経)