9月10日(09年)の「asahi.com」記事――《「就学援助」細る自治体 財政難で認定基準を厳格に》
経済的困窮家庭の小中学生を対象に学用品、給食費、制服、修学旅行の積立金等々の自治体の補助制度「就学援助」の活用を自治体自らが抑えているという。
子どもが公立に通っている保護者の負担額は1人平均で小学校は年間9万7500円、中学校では16万9700円。この負担に耐え得ない生活保護を受けている「要保護児童生徒」とそれに準じて生活が苦しい「準要保護児童生徒」を制度対象としている。
「準要保護児童生徒」は各市町村教委が認定基準を定める。いわば各市町村教委の裁量に任せることとなっているから、そこにサジ加減が生じる。
この制度は元来国の半額補助で成り立っていたという。国の半額補助による制度設計ということなら、活用しないことには国に向ける顔が立たない。国という上に従う権威主義的な強制を受けていることとなって、それなりに利用を広げて、有効な制度だと証拠づけなければならない。
だが、〈小泉政権の「三位一体改革」の中で、地方に財源移譲する形で05年度に補助金を廃止。就学援助に使う「縛り」がなくなったため、折からの財政難と相まって、自治体にはできるだけ支出を絞ろうという動き〉(同asahi.com)が出てきたために方向転換した「就学援助」制度の利用抑制だという。
いわば「就学援助」制度分の財源移譲を受けていながら、何に使えという名目を受けていないから、その分を別の財源にまわしているということであろう。
文科省の06年の調査では87の自治体が認定要件を厳しくしていると記事は伝えている。認定基準を厳しくして、従来そこに向けていたカネを浮かして、別の用途に向ける。その結果の自治体自らの働きかけによる「就学援助」制度の利用抑制だと。
記事は具体的に自治体名を挙げて、その抑制程度を伝えている。
〈対象とする収入の基準を生活保護基準の「1.5倍未満」から「1.3倍未満」に見直した埼玉県鳩ケ谷市では、04年度には21.3%だった受給率が05年度には18.6に減少。さらに08年度は15.8%まで下がった。
新潟市では支給額そのものを引き下げた。「準要保護者」の家庭を所得によって四つに分け、高い層から段階的に引き下げ幅を大きくする形をとった。比較的所得が高い層については、06年度の支給額は前年度の75%、07年度は50%、08年度は25%に。削減前の小学生の平均支給額は1人6万8千円だが、この見直しで1万7千円にまで減った。担当者は「不況で対象者が増え、財政負担が大きい。なんとか制度を維持するための苦肉の策だ」という。
学習塾経営者の湯田伸一さん(52)が07年、全市区町村教委を対象に調査したところ、人口が15万人以下の自治体では就学援助制度の案内書を配布しなかったり、要項や手引がなかったりするところが目立った。案内書をすべての児童生徒に配布している自治体の就学援助の平均受給率は11.6%。一方、配布していない自治体は6.8%と大きな差があったという。湯田さんは「困っている家庭をもれなく支援するには、国が最低限の基準をつくって制度を構えるべきだ」と話す。 ・・・・〉――
収入基準を下げる、支給額そのものを下げる、果ては就学援助制度の案内書を配布しないことで、そういうものがあるということを知らせない情報隠しまで行って、制度の利用抑制を図っている。
この制度が国の半額補助を受けて名目化されていた当時は名目としての強制を受けてそれなりに利用を呼びかけていたが、その“強制”(記事が言う「縛り」)がなくなり、補助金が一括財源化したことによって利用抑制に走る経緯は低賃金を理由として離職者が多く人材難となっている介護職員(介護従事者の賃金月額は施設介護職員の男性22万5900円、女性20万4400円で、全産業平均の男性37万2400円、女性24万1700円を大きく下回る。「asahi.com」/2009年3月27日)の人材確保と離職防止のため介護職員一人当たりの賃金を月額1万5千円引き上げる目的で介護報酬を09年4月から3%引き上げることにしたが(自治体の準備が必要なため10月実施の予定「asahi.com」2009年4月8日8時12分)、名目はあくまでも介護報酬のアップであって、介護職員給与となっていないために、アップによる収入は介護施設に入ることとなり、これまでの2回の合計4.9%の介護報酬カットで経営困難と化した、あるいは赤字となった、そのことの補填に向けられて実質的には介護職員の収入アップにつながらないと言われている経緯とプロセスを同じくする。
いわば国が名目をつける“強制”がなければ、当初必要とした対象に制度や補助が活用されない、必要とした対象に制度や補助の恩恵が届かないといった状況が生じることが十分に考えられる。
「就学援助」制度の停滞は民主党が政権を獲得、その主たる政策の一つである義務教育終了時まで1人頭最初の2年間は月額半額(1万3千円)支給、その後に月額2万6千円全額を支給する2段階実施の「子ども手当」が生活保護世帯や準生活保護世帯を超えて補完してお釣りがくるくらいだが、殆んどの県レベル・市町村レベルの地方自治体が財政難にあることからすると、国からの財源移譲が十分に果たされたとしても、3%の介護報酬アップが介護士の給与アップにまわされずに介護施設の経営維持にまわされると予想されているように地方自治体が自由に使えることから地方自治体に於いても財政の手当てに回される可能性が高くなる。
とすると、地方分権、財源移譲以前に各地方自治体が、都道府県レベルに於いても市町村レベルに於いても健全な財政運営を心がけることがなすべき絶対条件になるのではないだろうか。
だが、会計検査院が任意に選んだ昨年の12道府県の国庫補助事業の調査対象中12道府県とも不正経理を行っていた100%確率通りに調査対象外だった千葉県も100の確率を受けて裏金づくり・私的流用の不正経理が見つかった事実は多くの都道府県レベルで健全な財政運営が行われていない重要な傍証となる。
また、都道府県レベル、市町村レベルでの天下りの問題もある。8月29日(09年)の「毎日jp」記事――《名古屋市:外郭団体へ天下り28人増の78人 08年度》が市レベルの天下り状況を伝えている。
名古屋市が公表した08年度に退職した課長級以上の職員252人のうちの再就職(天下り)は外郭団体への局長級20人を含む78人で、前年度比28人増だということだが、その他は市の非常勤職員83人、公益法人など公共団体31人、民間企業25人、33人は再就職なしなどとなっている。
天下りは団体側の要請に基づき、市の人事課があっせんする慣例となっているということだが、この活発な天下り状況は幹部職員の天下りを事実上不可能にすると公約している河村たかし市長の出鼻を挫く見事な逆説となっている。
このことは国のヒナ型を成す形で全国の地方自治体で行われていることで、当然、そういった天下り外郭団体への補助金の無駄遣いも健全な財政運営に反する慣習として存在することは十分に考えられる。国(中央省庁)がしていることを地方自治体が“上のなすところ、下これに倣う”で行っていないはずはないからである。
こういったふうに見てくると、地方分権、財源移譲によって例え地方が自由にカネが使えることになったとしても、基本とすべき問題はやはり健全な財政運営が欠かせないことになる。
酷なことを言うと、健全な財政運営を心がけてこなかった地方自治体には地方分権、財源移譲を言う資格はないということになるが、どんなものだろうか。
資格云々を問題外としたとしても、国に於いと同様に地方自治体に於いても天下りの廃止、無駄遣いの根絶、不正行為の排除を自治体運営の土台に据えなければ、地方分権も財源移譲も意味を成さないと確実に言える。予算執行の効率性の問題だけにとどまらず、職務の効率性にも関わる問題でもあるからだ。
自治体「就学援助」制度の停滞から見る地方分権