〈1961年、アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディは、1960年代中に人間を月に到達させるとの声明を発表した。1969年7月20日、宇宙飛行士ニール・アームストロングおよびバズ・オルドリンがアポロ11号で月面に着陸したことにより、その公約は実現される。アポロ計画ではその後5回の月面着陸が行われ、1972年にすべての月飛行計画は終了した。〉(Wikipedia)――
有人宇宙船アポロが月面着陸、人類史上初めて人間が月に降り立った瞬間、人類の偉業と持て囃された。
現在国際的な宇宙開発事業として国際宇宙ステーション(ISS)の建設が進められている。
〈「国際宇宙ステーション(International Space Station、略称ISS)は、2010年の完成を目指して、アメリカ、ロシア、日本、カナダ、欧州宇宙機関(ESA)加盟11カ国が協力して建設を進めている宇宙ステーションである。
地上から約400キロメートル離れた地球周回軌道(地球低軌道)上を一周約90分で周回しながら、地球および宇宙の観測、宇宙環境を利用したさまざまな研究や実験を行うための巨大な有人施設である。
1999年から軌道上での組立が開始され、2010年4月に完成予定。2016年までの運用が予定されている。ISS計画において運用完了までに要する費用は1540億USドルと見積もられており、これまでの人類史上で最も高価なプロジェクトである。〉(Wikipedia)――
「1540億USドル」――昨日の1ドル90円の為替計算でも、13兆8600億円。科学技術の高度な革新のためにはカネの計算はすべきではないのだろうか。
だが、「1540億USドル」で終わらない。例え予算が削減されても、今後とも宇宙開発は続けられるだろうし、アメリカがこれまでに宇宙開発事業につぎ込んで来た予算にしても膨大な金額になるはずだ。
11日未明(09年9月)、上空400キロの国際宇宙ステーションに食料や実験装置など4.5トンを積載・運搬する日本初の無人補給機「HTV」(全長約10メートル、直径約4.4メートルの円筒形)が国産最大のロケット「H2B」1号機で打ち上げられ、軌道に乗せることに成功した。1週間後、ステーションに到着予定だそうで、〈物資を移した後、廃棄物を積み込んで離脱し、大気圏に突入して大部分が燃え尽きるという。〉と「西日本新聞」インターネット記事――《H2BとHTV 日本の宇宙新時代を開け》が伝えている。
記事は最後に次のように書いている。
〈宇宙開発には巨額の経費がかかる。だから国際協力は欠かせない。そのなかで日本の宇宙新時代をどう切り開くのか。新政権も論議を急ぐべきだろう。〉――
「YOMIURI ONLINE」記事――《シャトル代替に存在感…HTV初飛行》((2009年9月12日01時16分)は、〈HTVは、これまで米スペースシャトルでしか運搬できなかった機器を積める、唯一のシャトル代替手段。シャトルの退役が迫る中、ISSの維持に不可欠な輸送機として、日本の責任と存在感を増す役割も担っている。
――(中略)――
飛行中のHTVは、18日にISSへ到着する。地球を秒速約7・7キロ・メートルで周回する軌道上での接近、結合を安全にこなせれば、「HTVを有人宇宙船に」という夢へ一歩近づく。〉と書いている。
日本の宇宙新時代を開く「HTV」の可能性は大きなものがあるに違いない。可能性が大きければ、国民の期待も比例して大きく膨らむ。だが、目を宇宙から足許の地球、その世界を見たとき内戦、紛争、貧困、飢餓が絶えない。独裁国家が圧制を敷いて、国民の自由を奪い、苦しめている。
イラクでは都市部からのアメリカ軍の撤退を機に宗派間闘争や外部テロ組織による自爆テロ、車爆弾テロ等が再び激化し、イラク国民の犠牲がとどまるところを知らない。
アフガンではタリバンが勢力を盛り返し、イラク同様にテロが激化、アメリカも欧州もその制圧に多くの一般市民を巻き込んで死に至らしめ、治安回復が思うように進まないまま国内秩序は悪化の一途を辿り、泥沼化している。
2003年に勃発、現在も進行中のアフリカ・スーダンのダルフール紛争。約20万人が死亡、200万人以上が難民化。そしてイスラエルとパレスチナの紛争は暴力の応酬と化し、イスラエルはレバノンとも紛争を抱えている。中国とチベット独立闘争、ウイグル独立闘争との間に繰返される軍事衝突と自由の抑圧。
先進民主主義国家は紛争解決、独裁政治の撲滅を目指していながら、その目的を殆んど果たすことができないでいる。
その他に飢餓。国連食糧農業機関(FAO)が今年の6月19日に十分な栄養が取れない状態にある飢餓人口が2009年には前年比で1億500万人増加し、過去最高の10億2,000万人になるとの予測を発表している(IBTimesから)。
現在の世界人口が68億だそうだが、約7人に1人が飢餓に苦しんでいることになる。その多くが発展途上国に集中しているという。
そして貧困。一日を一ドル未満の生活費で暮らす貧困生活者がインド、パキスタン、バングラディシュなどの南アジアに500万人以上、アフリカに300万人弱。
世界は飢餓と貧困の撲滅を目指していながら、解決するだけの能力を発揮できずにいる。
平和と言われている日本でも、年間自殺者は08年まで11年連続して3万人を超え、09年も1~7月で1万9859人(暫定値)に上り、統計開始以降最悪だった03年(3万4427人)に迫る(「毎日jp」ということだから、今年も3万人超えの記録を維持する名誉に与るに違いない。
自殺問題一つとっても、有効な解決方法を見い出せずにいる。
宇宙開発に多くの予算をつぎ込み、つぎ込んだ予算に見合う成果を挙げているに違いないアメリカにしても足許の国内では人種差別、貧困、凶悪犯罪、麻薬等々の矛盾や問題を抱え、満足な解決を見い出す創造力を発揮することができないでいる。
オバマ政権は米国の公的医療保険制度が低所得者・高齢者・障害者のみを対象とし、民間保険会社の高額保険料を負担できない一般勤労世帯などの約4600万人の無保険者の救済に国民皆保険を可能とする新たな公的制度の法制化を連邦議会に求めているが、共和党が反対し、それぞれの立場から支持・反対を表明する国民の間に対立を生じせしめている(毎日jp参考)。
そして地球温暖化問題。平均気温の上昇によって氷河が融け、また海水の膨張によって海面上昇をもたらして高潮や洪水の頻発、さらには海岸線の水没、後退の被害、あるいは気温上昇による砂漠化の問題にしても、新政権を担う民主党鳩山代表は2020年までの温室効果ガスの削減目標を90年比25%減を目指すとしたが、そのコストが負担となることを嫌って国内産業界や民主党支援の労働組合が反対、世界も先進国と発展途上国の間でそれぞれの利害から意見の一致点を見い出すことができずにる。
人間は宇宙に目を向けるとき、足許の地球、その世界を視野の外に置く。足許の地球、その世界に視線を向けたとき、宇宙は視野に入ってこない。
かくかように人間の視野はそれぞれに一つのことに集中する結果、諸問題間の連携や他とのバランスの維持を忘れる傾向にある。
足許の地球、その世界の諸矛盾や様々な危機を人類が自らの力で解決できないまま、宇宙の問題に挑む正当性がどこにあるのだろうか。足許の地球、その世界の諸矛盾や様々な危機の克服と宇宙開発による宇宙の様々な問題の克服とどちらが真の人類の偉業と言えるのだろうか。
なぜ足許の地球、その世界の貧困や飢餓、紛争、人種や民族の問題、独裁政治の問題等々の解決に向けて「人類史上で最も高価なプロジェクト」が組めないのだろうか。