北方四島返還の新しいアプローチ/先住アイヌ民族と現住ロシア人との共同独立国家とする案

2009-09-20 14:11:13 | Weblog

 麻生自民党政府が政権を失うことが決定した今年8月30日を遡る7月3日北方領土を「わが国固有の領土」と明記した改正北方領土問題解決促進特別措置法が参院本会議で与党自民党・公明党、野党民主党、社民党、共産党、その他のすべての野党の全会一致で可決、成立した。

 7月3日付「京都新聞」記事――《北方四島は「日本領土」と明記》は次のように伝えている。

  〈改正特措法は国の責務として「わが国固有の領土である北方領土の早期返還を実現するため、最大限の努力をする」と規定。日本国民と4島のロシア人住民が旅券や査証(ビザ)なしで相互訪問する交流事業の促進や、元4島住民の高齢化に伴う返還運動後継者育成支援も盛り込んだ。〉――

 対してロシアは既にこの法案が衆院を通過したときに「不適当で容認できない」(同記事)と批判声明を発表している。記事は当時の麻生太郎首相の考えとして「ロシア側の不法占拠」だと把えていることを伝えている。

 「ロシアの不法占拠」とすることで、改正北方領土返還特措法で明記した「わが国固有の領土」としたことと整合性を得る。当然、4島とも返還が日本側の最終決着の姿を取らなければならないし、四島返還のみが「わが国固有の領土」とすることとも整合性を得る。

 麻生首相は今年の2月にサハリン(樺太)でロシアのメドベージェフ大統領と2度目の首脳会談を持った際、「新たなアプローチを用いて今の世代で解決できるよう具体的な作業を加速することで一致」したと「NHK」が伝えている。

 麻生「大統領が事務方に指示を出したような、新たな独創的で型にはまらないアプローチの下で、帰属の問題の最終的な解決を目指していきたい」(同NHK

 いわば「新たな独創的で型にはまらないアプローチ」なる考え方はメドベージェフ大統領が「事務方」に指示して浮上したアプローチ方法で、それを麻生が受け入れたと言うわけである。

 例え北方領土問題が「新たな独創的で型にはまらないアプローチ」での解決で一致しようとも、日本側は全島返還を絶対基準としなければ、日本側が姿勢としている自らの整合性に矛盾することになる。

 対してメドベージェフ大統領。「双方に受け入れ可能な解決を見つける作業を継続する用意がある。世界にある他の問題と同じように解決可能だ」(同NHK

 日本側が全島返還を自らの整合性とするなら、ロシア側が全島返還に応じて初めて日本の整合性を獲得し得る。いわば日本側にとっては「全島返還」以外のキーワードはないことになる。ロシア側が全島返還の意志がないなら、「新たな独創的で型にはまらないアプローチ」は意味を失う。「双方に受け入れ可能な解決」方法も存在しないことになる。

 だが、日本側が北方四島を「わが国固有の領土」とした改正特措法を成立させたことで、ロシア上院はビザやパスポートがなくても四島を訪れることができるビザなし交流の停止を大統領に求める声明を採択、北方四島への出入国の管理権がロシア側にあることを示して間接的に四島がロシア領土であることを認識させようとする動きに出た。

 結果としてロシアはビザなし交流は続ける意向を示したが、日本から北方領土への人道支援物資の受け入れ停止を表明している。ロシアの領土として自立している姿を見せようとしたのだろう。

 7月25日の「NHK」インターネット記事がロシア人の北方領土返還意識を世論調査したところ、9割が反対だったという内容を伝えている。《ロシア 北方領土返還9割反対》――

 全ロシア世論調査センターが7月18日・19日、ロシア全土で1600人を対象に調査。

 ・北方領土の日本への返還に反対――89%。11年前前回調査よりも+10ポイント。
 ・返還に賛成――4%。前回調査よりも-8ポイント。
 ・メドベージェフ大統領が領土の返還を決断した場合、大統領への評価を下げる――63%。

 記事は調査結果の原因について、〈ロシア国民の間で、領土の返還に反対する声がこの10年間余りでさらに増えたのは、経済の発展に伴って、強いロシアの復活を求める意識が高まっていることなどを反映した結果とみられます。〉と解説している。

 ロシアは歯舞、色丹を平和条約締結後に日本に返還するとした1956年の日ソ共同宣言に則って二島返還のみを考えているのか、それとも四島とも返還する気がないのか。四島とも返還する気がないとしたら、四島のうち歯舞、色丹の二島を先に返還させ、残りの二島については継続的に協議するという二島先行返還論を唱えている鈴木宗男の返還方式も無意味となる。

 ロシアが二島返還で決着を図ろうとしたとしても、あるいは四島とも返還の意志がなかろうと、日本側は全島返還で守りとおさなければ、自らの整合性を失う。北方領土を「わが国固有の領土」としていることも、現状を「ロシア側の不法占拠」だとしていることも泡同然の架空のことと化す。

 だが、日本が守りとおさなければならない四島返還の自らの整合性を前首相であった麻生太郎自身が裏切っている。先刻承知の3・5島返還論である。3・5島とは歯舞、色丹の2島に国後島を加え、さらに択捉島の25%を加えると4島全体の半分の面積を占めることになって日本から見た場合3・5島で限りなく4島に近くなり、ロシアからしたら4島の半分の返還で済むという返還方式を言う。

 この「3・5島返還論」は麻生総理のかねてからの持論で、安倍政権時代の外務大臣だった当時国会で発言しているという。

 例え返還せざるを得なくなったとしても歯舞、色丹の2島で済ますことができれば、ロシア側の利益のロスは2島に関わる利益のみで片付く。それをわざわざ国後島と択捉島の25%まで手土産のようにつけて差し出す可能性を考えることができるだろうか。経済水域内の漁業資源や海底資源の問題も絡んでくるのである。日本の都合でしかない足して2で割る機械的返還計算にしか思えない。

 北方四島は元々はアイヌ民族が先住していたという。だとすると、「日本固有の領土」とするのは間違いで、かつては「アイヌ固有の領土」だったとすべきであろう。最も北方四島は「アイヌ固有の領土」だと言い出せば、北海道も東北地方も「アイヌ固有の領土」ということになる。

 だとしてしても、北方四島を「日本固有の領土」であって、現在ロシアが不法占拠しているからとして日本に返還を求めるのは整合性を欠くことになる。北方四島は「アイヌ固有の領土」だから、アイヌ民族に返還すべきだというなら、歴史的にも整合性を得る。

 アイヌ民族に絡めた返還論ではかの有名な鈴木宗男が昨年の10月の衆院予算委員会で「北方領土の返還も『この島はアイヌ民族が先住民族。アイヌ民族は日本国民だから島を返して』というアプローチが(ロシアに)できる」(北海道新聞)と主張している。

 この論理は衆議院議員在任中の2001年7月2日の日本外国特派員協会での講演で、「(日本は)一国家、一言語、一民族といっていい。北海道にはアイヌ民族がおりますが、今はまったく同化されておりますから」(Wikipedia)の発言に添う返還方式だろうが、鈴木が言うとおりに事実同化されていたとしても、「アイヌ民族固有の領土」をアイヌ民族は日本国民となっているから日本に返すべきだは筋道が立たないのではないだろうか。

 権利を有しているのは例え同化されたとしてもあくまでも同化されたアイヌ民族であって、日本国民ではないからだ。また同化に関しても、ルーツまで同化させるのは不可能である。民族に関わるルーツはそれぞれが異にし、それぞれに尊重し合うべきだろう。

 民族的ルーツを異にし、それぞれのルーツは相互に尊重されるべきであるという考えに立つと、鈴木が言う「(日本は)一国家、一言語、一民族といっていい」はルーツ尊重に反する主張となる。鈴木の「アイヌ民族同化論」は北方四島をアイヌ民族ではなく、日本が横取りするための方便に過ぎず、そこから発した「北方領土の返還も『この島はアイヌ民族が先住民族。アイヌ民族は日本国民だから島を返して』というアプローチが(ロシアに)できる」とするご都合主義に映る。

 北方四島が「アイヌ民族固有の領土」であり、返還を求めるとしたら、アイヌ民族に返還することがすべてに亘る整合性に合致する返還方式ではないだろうか。

 アイヌ民族への返還をただ求めてもロシア側は納得しないだろうから、現住ロシア人との混住国家としたら、ロシア側としても受け入れやすい提案とならないだろうか。国名は「アイヌ民族固有の領土」であるのだから、勿論アイヌの名をつける。国民は例え現住ロシア人であってもアイヌ国籍となる。但し民族的ルーツ尊重の思想から、ロシア系アイヌ人と表現すればいい。

 先住民はアイヌ人だからといって、現住ロシア人を差別するようなことがあったなら、日本人に差別された歴史を忘却の淵に沈める不遜を犯すことになる。また逆に現住ロシア人がアイヌ人を差別することがあってはならないのは当然であろう。

 さらにアイヌの国だからと言って、統治体制のトップは常にアイヌ人でなければならないとしたら、人種平等の精神と民主主義に反することになる。被選挙権を有するすべての国民の中から選挙権を有するすべての国民によって選ばれるべきであって、ただ利害のバランスを取る意味から、選挙でトップにアイヌ人が当選したら、副トップを現住ロシア人(ロシア系アイヌ人)とする、トップが現住ロシア人なら、副をアイヌ人とするといった取り決めはあってもいいはずである。国会議員はアイヌ人と現住ロシア人を同数とし、異なる政策を掲げて賛否同数で決着がつかない相互に利害が反する問題は徹底的に話し合い、それでも決着がつかない場合は、どちらかがどちらかに譲り、次の決着がつかない問題では逆の譲り方をし、アイヌ人・ロシア人への富の配分をなるべく平等に持っていく統治体制が望ましいのではないだろうか。

 勿論独立国家だから、どのような外国とどのような外交関係を持つかは政府が決めることだが、近隣関係を持つことになる日本とロシア両国との外交を最も緊密に求めるようであったなら、両国はアイヌ国家の発展のために最大限の協力をする。協力によって両国もそれ相応の利益を得るはずである。

 このような独立国家は世紀の一大実験となるだろう。アイヌ民族と現住ロシア人が反撥し合うことなく友好な関係を構築しつつアイヌ国家を発展させることができたなら、イスラエルとパレスチナの関係、宗派対立を引き起こしているイラクにも学習材料を提供することになるのではないだろうか。

 果して夢物語に過ぎないのか。私自身としては北方四島先住民族であるアイヌ人に返還すべきだと思っている。
 

コメント (3)
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