安易に「党の要望は国民の要望」、「党の声が国民の声」と言うことの危険性

2009-12-19 09:52:14 | Weblog

 民主党の小沢代表が16日、党を代表して鳩山首相を筆頭に鳩山内閣のメンバーを集めて内閣が10年度予算案に盛り込む政策に対する“重点要望”を申し込んだと言う。

 主なところで、鳩山首相が当初、「子供を社会全体が育てる発想。子供に関して裕福だとか、必ずしも裕福でないという発想ではない。所得制限は、まず考えないのが基本線だ」(毎日jp)とし、マニフェストでもそのように掲げていた子ども手当に所得制限を設けること、そしてマニフェストで廃止するとしていたガソリンなどの暫定税率の廃止を撤回、「現在の租税水準の維持」に改めるよう要望。これは現行の暫定税率廃止に代えて同水準の新税を導入することでプラスマイナスゼロの「租税水準の維持」ということらしい。

 目的は戦後最大規模に膨らんだ10年度予算95兆円を国債発行額44兆円を超えない範囲でその財源確保に置いているということだという。

 要望についての各閣僚の声を「NHK」WEB記事――《民主の重点要望 閣僚から意見》(09年12月17日 12時42分)が伝えている。

 仙谷行政刷新担当大臣「国民の声を吸い上げるのが政党の仕事であり、内閣として要望を租借しながら主体的に結論を決めていくことが重要だ」

 原口総務大臣「地方に配慮し、子ども手当も全額国庫負担と記述していただき、たいへん評価している。最終的には鳩山総理大臣のリーダーシップの下で内閣が決断する。こうしたプロセスは諸外国でもあることで、何もおかしなことではない」

 (子ども手当所得制限に関して)

 福島消費者・少子化担当大臣「予想以上に税収が落ち込んだなかで、国民も今すぐマニフェストをすべて実行せよということにはならないのではないか。やむをえない措置として、否定はしない」

 亀井郵政改革・金融担当大臣「他党のことには干渉しないが、鳩山総理大臣のような人や、わたしの孫に子ども手当を支給しますと言われても、もっと困っている家庭があると思うので、所得制限は必要だ。所得の捕捉は申告制にすればクリアできる」と述べました。

 長妻厚生労働大臣「党の要望は重く受け止めるが、最終的に決定するのは鳩山内閣であり、要望がそのまま政府の決定になるということではない。社会全体で子どもを育てる経費を負担するという考えから、子ども手当に所得制限を設けるべきではない」

 (高校の授業料の実質無償化)

 川端文部科学大臣「政権公約どおり所得制限を設けないとしてもらったのは、ありがたいことだ」

 (ガソリンなどの暫定税率維持)

 直嶋経済産業大臣「税収が極端に落ち込んでいるので、マニフェストの工程表どおりに暫定税率をすべて廃止するのは、率直に言ってなかなか厳しい状況なのではないか」

 平野官房長官「要望は要望としてどこまで受け止められるかは、政府が最終的に決める」

 ――重点要望の一部は民主党の政権公約に違反するのではないか。

 同平野官房長官「政権公約に違反するかどうかは議論があるが、これまで言ってきたことと違う結論になるのであれば、しっかり説明し、国民の理解を得る必要がある」――

 長妻厚生労働大臣の子ども手当に関して以外はほぼ全員が要望を受け入れる方向でいる。いわば内閣成立から3カ月そこそこで自分たちも関わって政策立案し、賛成したマニフェストの変更容認姿勢となっている。

 鳩山首相が内閣の責任者としてマニフェストに当初掲げた政策に対応した政策実行の決意を表明するのは立場上当然のことだから、当初のマニフェストを異質化させるこの党の重点要望は同時に首相の政策実行の決意の変更を要望するものとなる。

 「マニフェストは国民との契約であり、必ず実現する。約束を果たせなければ、首相としての責任を取る。国民に信を問うのも責任の取り方の一つだ」 (《予算編成で首相の見せ場は? 暫定税率存続に抵抗したものの… 》msn産経/2009.12.17 23:23)

 記事は次のように解説している。〈首相は11月2日の衆院予算委員会でこう啖呵(たんか)を切ったことがある。マニフェストが実現できなければ、衆院解散・総選挙に打って出る覚悟を示したものだ。〉――

 凄い決意だった。このような姿勢を不退転の決意と言うのだろう。鳩山首相のこの不退転の決意の変更をも迫る党の重点要望だが、どう受け止めたのか、COP15開催のデンマークへ出発する前の記者会見からある程度窺うことができる。「asahi.com」記事から関連箇所を抜粋引用。
 

 《マニフェスト「柔軟性も重要」17日の鳩山首相》(2009年12月17日21時14分)

 【マニフェスト】

 ――昨夜も今朝も首相は党の声が国民の声だというような言い方をしているが、マニフェストで選ばれた民主党がマニフェストを変える場合でも、民主党の考えが国民の声と考えるか。

 「私は基本は基本で、応用も応用と。基本という視点は大事です。常にそれは、基本は忘れないで行動する必要がある。

 しかしそれと同時に、臨機応変に、ある意味で国民の思いというものも、あるいは経済状況等、様々変化する可能性もあるわけです。それに応じた、柔軟性というものも重要だ。

 まさにそれが求められているのが政治ではないでしょうか。その中でそれをどのようにしてうまく運営していくかというのが、私は政治の要諦(ようてい)だと思います。

 一つに凝り固まって何でも後生大事にという発想は、その基本の部分は大事ですけども、もっと大事なことは国民の皆さんの暮らしを守る、ということです。その暮らしを守るためにいま、予算交渉をやっています。いい状況になってきているとそう思っています。色々党の、与党3党の声も聞かして頂いた。それはそれなりに、ある意味での国民の皆さんの声を反映している様々なご要望だと思います。

 それもしっかりと耳を傾けながら、年内の予算編成と、これがある意味で非常に大事だと思いますから、それに向けて最終調整をして、最後はこの私も自分の思いを述べてきましたけど、そのもとで最終的に決定します」

 【マニフェスト違反】

 ――子ども手当の所得制限、暫定税率の維持となれば、それは明確なマニフェスト違反という理解でいいか。

 「私は個別のこと、議論している最中ですから。自分の意思は申し上げておきました。それ以上のことを申し上げるつもりはありませんが、それは国民の皆さんの思いというものを大切にしながら、それぞれ意思決定をしていきたい。暫定税率に関しては、これはみんなで、少なくとも民主党の候補者はですね、廃止をすると主張してきましたから、その思いはやはり、大事にする必要があると私は考えています」

 ――明確なマニフェスト違反ととらえるか。

 「維持をするなどという議論も、それはあるのかもしれません。しかし、私は国民の皆さんの意思を尊重していかなきゃならん、そう思っています」

 ――党の要望を受けて、すでに閣僚への指示は出したか。

 「色々と、さきほども議論していくなかで、私の思いはそれぞれの項目に関して伝えてあります。ただいまここで申し上げるつもりはありません」

 この記者会見はほかの報道には17日の昼に行われたと書いてあって、鳩山首相は午前も首相公邸前で記者団に党からの暫定率維持の申し入れに関しての自身の受け止めを話している。

 「私は廃止すべきだと申し上げてきた。国民に対する誓いだと思っている。最終的には私の方で結論を出す」(日経ネット)――

 結論はこれからだと言っているのだから、当初の不退転の決意どおりに即座に反対姿勢を示したわけではない。

 首相の「党の声が国民の声」「msn産経」記事には「党からの要望は国民の皆さんの声だ」となっているが、マニフェストの「基本の部分は大事」だが、「ある意味での国民の皆さんの声を反映している様々なご要望」であり、「大事なことは国民の皆さんの暮らしを守る」ことだからと、要望自体の意義を認めている。

 そしてお決まりの「最終的には私の方で結論を出す」となっているが、これは当たり前のことで、当たり前でなくなったら、政府は必要なくなる。平野官房長官も「政府が最終的に決める」と当たり前のことを改めてのように言っている。

 だが、当たり前のことであっても、麻生前首相が何かにつけ「最終的にはこの麻生太郎が決めます」と言いながら、他の閣僚や党実力者の声、あるいは世論に押されて態度を右往左往させたように自分が言い出した最終的な政策決定過程すら守れず、形式で終わらせることが往々にして存在する。

 このことは鳩山首相の19日のCOP15からの帰国を待たずに与党内で重点要望に向けて動き出したことからも窺うことができる。

 民主党の山岡国会対策委員長「一般の皆さんが対象にならなければ、国をあげて子育てを支援するという子ども手当の意味を成さない。財源を少なくするために年収800万円レベルで制限するのは適当でなく、2000万円くらいが妥当ではないか」

 (暫定税率の租税水準維持に関して)「そういうやり方は国民の気持ちを欺くもので、望ましいと思えない」(NHK

 国民新党の自見幹事長「所得の差があるときに一定の制限を付けるのは、社会的な公平性と正義において、また一方で財政が厳しいときには当然だ。・・・・年収2000万円以上という声もあるが、そういった人はわずかに過ぎず、実際的ではない。ごく常識的には1000万円以上が目安ではないか」(NHK

 子ども手当に所得制限をかけるかどうかの鳩山首相の最終決断を待たずに既に上限金額に向けて走り出している。党内で集約化され、それが党の意見として鳩山首相に示されることになるに違いない。そのとおりに決定されなくても、一応の基準とされるのは目に見えている。

 暫定税率に関しても、首相は「私は廃止すべきだと申し上げてきた。国民に対する誓いだと思っている」と言いつつ、藤井裕久財務相ら政府税制調査会幹部に対してガソリンの税率引き下げが可能か打診している。(《ガソリン税:5円下げ案 政府税調、首相の打診受け》毎日jp/2009年12月19日 2時30分)

 党重点要望にあった「現在の租税水準の維持」に反対ではなく、ガソリンの税率引き下げで抵抗しようというのである。記事は政府内にガソリン1リットル当たり約25円の暫定税率を5円程度引き下げて、20円にする案が浮上しており、鳩山首相が帰国する19日にも最終調整に入ると伝えている。

 〈ガソリンの暫定税率は1リットル当たり約25円で、年間税収は約1.3兆円。自動車関連税の暫定税率全体(約2.5兆円)の半分強を占める財源の柱となっている。5円の引き下げは約2600億円の減収につながり、慎重な声が政府内にもあるため、首相に最終判断を仰ぐ。〉としている。そして次のような解説を載せている。

 〈政府税調は暫定税率を公約通り来年4月に廃止する方針だが、同時に新たな税制措置を講じて上乗せ課税を継続する方向。税率を現行水準で維持した場合、ガソリン価格も下がらず、「暫定税率の衣替えに過ぎない」と批判を呼ぶ恐れがあった。首相の打診は、減税の実施でガソリン価格を引き下げることでその批判をかわし、暫定税率廃止の効果を国民に実感してもらう狙いがあるとみられる。ただ、引き下げには民主党内に反対の声も強く、実現するかは微妙な状況だ。〉――

 少なくとも首相の「最終的には私の方で結論を出す」が自身の当初の信念に従った「結論」ではなく、重点要望に引きずられた「結論」となることを暗示している。

 マスコミや野党自民党から「マニフェスト違反」と言われる所以であろう。 

 民主党は衆院選前の7月、2005年前回衆院選で自民党が掲げたマニフェスト(政権公約)を検証・採点して、〈自民党の公約の達成度は「20点から30点」と酷評している。〉(《達成度は「20点」と批判=前回の自民公約を検証-民主・岡田氏》時事ドットコム2009/07/31-00:08)

 当時民主党幹事長だった岡田克也が自民党政策の「幼児教育の無償化」や「道州制移行」を取り上げ、「4年前の約束が果たされていない。4年前の約束と今言っていることが全く違う。自民党の公約を信用できない」と現在の民主党にも当てはまることを言って批判している。

 記事は次のように解説している。

 〈検証結果によると、幼児教育については、前回公約で「無償化を目指す」と明記していたと強調、「自民党にとって幼児教育無償化は総選挙の風物詩?」と痛烈に皮肉っている。さらに、前回も「子育て期の経済的負担を軽減させる」とうたいながら、生活保護の母子加算を廃止したとして、「公約違反」と断じている。〉――

 「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)も自公政権4年間の政権実績を評価、採点している。「毎日jp」記事――《政権実績:自公政権4年の実績評価(要旨)》(2009年8月3日》から簡単に見てみる。

 ◇経済同友会

 【政権運営=35点】

 【政策=50点】

 ◇連合
 【政権運営=20点】

 【政策=30点】

 ◇言論NPO

 【政権運営=30点】

 【政策=41点】

 ◇PHP総研

 【政権運営=43点】

 【政策=58点】

 ◇日本総研

 【政権運営=36点】

 【政策=38点】

 ◇構想日本

 【政権運営=50・5点】

 【政策=50点】

 ◇全国知事会

 【政権運営=58点】

 【政策=56点】

 ◇青年会議所

 【政権運営=40点】

 【政策=46点】

 ◇ポリシーウォッチ(小泉構造改革を主導した竹中平蔵慶応大教授が代表を務める研究者らの集団)

 【政権運営=45点】

 【政策=45点】――

 連合は民主党の支持母体ともなっているから、辛口の採点となっているのは理解できるが、【政権運営】も【政策】も最高点が58点しかない。

 鳩山首相がわざわざ口にするまでもなく「国民との契約」であるマニフェストの変更は契約解除とまでいかなくても、公約としていたことの整合性を失い、国民に対して契約違反を迫ることになるはずである。

 にも関わらず、重点要望を出した小沢幹事長は「党と言うより、全国民からの要望なので、どうぞ可能な限り、予算に反映させていただくよう、お願い申し上げる」とテレビで言っていたが、党の要望と国民の要望を一致させている。

 テレビのこの発言を聞いて奇異な感じを持ったが、契約違反に当たりながら、「全国民からの要望」とすることが果たしてできるのだろうか。

 鳩山首相にしても、「党からの要望は国民の皆さんの声だ」と党の要望と国民の要望(=声)を一致させている。

 確かに衆議院選挙では多くの国民の支持を得ている。そのことばかりか、民主党が掲げた公約を「必ず守るべきだ」すると国民の声はごく少数で、「守れないものが出てきても仕方がない」、「公約に囚われず柔軟に政策を実行すべきだ」とする声が9割を超えていて、現実的な政権運営を望んでいる(msn産経)国民世論=民意を背景に“党の声は国民の声”だと、あるいは「党の要望は国民の要望」だと言っているのだろうが、しかし一方で鳩山内閣発足時の支持率が軒並み70%を超えていた数値がNHKが12月11日から3日間行った世論調査では鳩山内閣を「支持する」と答えた有権者は先月の調査より9ポイント下がって56%、「支持しない」が13ポイント上がって、34%となる民意の動きを見せている。

 この民意の動きはNHKの調査だけではなく、ほかのマスコミの調査も似た動きとなっている。

 これと似たような状況が政権交代前の自民党与党時代にも存在した。昨07年の参議院選挙の野党勝利が直近の民意でありながら、自民党は「参議院も民意だが、衆議院も民意だ」と民意が動いていることを無視して不動と位置づけ、参議院に対する衆議院の優位性を楯に与野党逆転した参院で否決された法案を衆議院に戻して再可決する民意無視を働いた。

 この経緯も言ってみれば、党の要望、あるいは自民党内閣の要望と国民の要望を違う形を取っていながら無理やり一致させた僭越行為とと言える。

 いわば国民の期待に添っていないのだから、世論調査に現れている現在の民意=国民の声を無視して直ちに「党の声が国民の声」だとすることはできないはずである。

 勿論、国民の要望(=声)に党も内閣も応えていないからとマニフェストを変更して結果的に国民の要望に応えることができ、支持率を上げることができるケースもあるだろう。例えマニフェスト違反だと言われようと、マニフェストを変更して成功したのだから状況を読む能力があったのだと結果オーライとする。

 政治は結果責任である。中途過程に紆余曲折があったとしても、結果を国民の要望に限りなく近づけて一致させる。そのことを以ってマニフェストの変更・違反は許されるとする論理も成り立つが、だが同時にマニフェスト作成に費やした時間と、先見性を兼ね備えていなければならない政策立案に果たした政治に関わる創造力の質が問題となる。

 100年に一度と言われる世界的な大不況のさ中に最終的に積み上げたマニフェストなのだから、特に先見性は欠くことのできない重要な政策立案要素であったはずである。心して作成に臨まなければならなかったはずだが、先見性まで欠いていたことになる。

 鳩山首相が「私は基本は基本で、応用も応用と。基本という視点は大事です。常にそれは、基本は忘れないで行動する必要がある」と言おうと、「臨機応変に」、「柔軟性というものも重要だ」と言ってマニフェストの変更に正当性を与えようと、政治家を名乗っていながら、何のためにマニフェストづくり(=政策づくり)に生半可ではない時間を費やし、何のために雁首を揃えて頭を振り絞ったのかという問題である。時間のムダ遣い、政策立案の無能、先見性のなさをさらけ出すマニフェストづくり、政策づくりだったということにならないないだろうか。

 例えマニフェストを変更して成功したとしても状況の変化を読む能力が優れていた、先見性があったということではなく、そういった能力を有していたならマニフェスト作成の当初から発揮していたはずだから、経済状況とかの何らかの偶然に助けられた成功でしかないだろう。

 多くの時間を費やし、先見性を働かせ、創造力を籠めて政策立案した成果でもあるはずだが、内閣発足3カ月かそこらでマニフェストを変更する。

 百歩譲って、このことを容認するとしても、簡単に「党の声が国民の声」をマニフェスト変更の口実とするのは、あるいは「党と言うより、全国民からの要望」を政策変更正当化の口実とするのは、常に一致するとは限らない、不動ではない国民の意思(=民意)を常に政治家側の意思と看做す僭越な態度につながって危険な臭いを感じる。

 一致していないにも関わらず、さも一致しているかのように装って、「党の声が国民の声」だと、あるいは「党と言うより、全国民からの要望」だと恣意的に政治を進めることも可能となる。

 可能とした場合、独裁意志なくして行い得ない政治の形を取ることになる。鳩山首相はいざ知らず、少なくとも小沢一郎という政治家の中には羽毛田宮内庁長官批判記者会見からも窺うことができることだが、既に独裁意志を芽生えさせているように思える。

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