この記事は憶測の範囲を出ない記事かもしれない。あるいは勘繰りのデッチ上げかもしれない。事実そうであっても、疑ったことを疑ったままに書いてみた。
政府は12月15日午前の閣議で2010年度予算編成の基本方針を正式決定した中で、新規国債発行額は鳩山首相が拘った44兆円を超えないとする上限設定を断念、「約44兆円以内に抑えるものとする」と努力目標に格下げ決定している。あくまで努力目標だから、44兆円以内が不可能となった場合は今回のマニフェストに反する暫定税率分維持決定と同じくあれこれと正当化の口実を設けて44兆円を超えることもあるに違いない。
しかし大幅に超えることはできない。大幅に超えた場合、“努力目標”さえも逸脱することになるからだ。
いわば44兆円に拘らないと上限を設けることはせずに「約44兆円以内に抑えるものとする」と努力目標としたことで、逆に大幅に超えることはできない制約を自らに課すことになった。
内閣はなぜ予算編成の足を自分から縛るようなことをしたのだろうか。暫定税率の廃止を撤回、暫定税率分維持を既定路線としていたからだと見ると、理解しやすい。暫定税率を廃止したときの税収減を補い、プラスとなって財源に振り向けることができる分、回りまわって国債発行に余裕が生じるからだ。
その余裕を前以て読んでいたからこその「約44兆円以内に抑えるものとする」努力目標
ではなかったのではないだろうか。
暫定税率を現在の租税水準を維持して別の税に振り替えるとする代案は暫定税率をそのまま維持する遣り方でははあまりにもストレートなマニフェスト違反となるから、それを和らげる緩衝策として現在の租税水準維持による別の税への振り替えといったところではないのか。鳩山首相が「私は廃止すべきだと申し上げてきた」と言ってきた手前もある。
この国債発行額「44兆円」の根拠は〈選挙期間中の鳩山氏が当時の麻生政権批判を意識しつつ「国債をどんどん増発するようなことはしない」と言った発言が、結局、補正予算を含めて麻生内閣が発行した新発国債44兆円を超えないことを意味するものと解されるにいたり、鳩山氏がこれに拘った。小泉内閣の時に問題になった額が30兆円だから、まさか44兆円は超えまいと思ったのかも知れないが、民主党のマニフェスト実行に伴う支出の拡大と不況による歳入の大幅減少で、44兆円が予算の制約として意味を持つようになった。〉と経済評論家の山崎元氏が《「44兆円」をめぐる鳩山政権の迷走》(Diamond Online/2009年12月17日)と題した記事に書いている。
そして12月16日の民主党による鳩山内閣に対する小沢重点要望。暫定税率廃止の撤回、現在の租税水準を維持した新税の設置と子ども手当の所得制限。
この小沢重点要望の暫定税率分の維持に対して翌17日に鳩山首相は「私は廃止すべきだと申し上げてきた。国民に対する誓いだと思っている。最終的には私の方で結論を出す」と記者団に語り、維持に否定的な考えを示している。いわば小沢重点要望に従わない姿勢を示した。
このことに不快感を持った小沢幹事長は一旦はキャンセルしようとしたが出席した同じ17日の首相と3与党幹事長の会談では腹の虫が収まらない小沢氏はほとんど無言だったと「asahi.com」が伝えている。
さらに「FNN」記事――《民主・小沢幹事長、鳩山首相に対し電話で暫定税率について直談判》によると、鳩山首相が21日に暫定税率の現行水準維持の方針を発表したその午前中まで暫定税率の税率を引き下げるよう藤井財務相らに指示していたことが小沢幹事長に知れて、周囲に怒鳴りつけるなど不快感を示し、直接、鳩山首相に電話して直談判に及んだが、結局は小沢幹事長に押し切られる形で鳩山首相は「暫定税率の実質的な維持」に舵を切ったため、午後2時の役員会の時点では小沢氏もすっかり上機嫌になっていたと伝えている。
そして22日朝、鳩山首相は記者団に「民主党の声を聞き、国民の思いがその背後にあると理解する必要があると判断した」と話すに至ったと書いている。
いわば二つの記事が提示している鳩山首相と小沢幹事長のちょっとした“確執”は鳩山首相に対して首相としての指導力や主体性に疑問符が付くことになるが、暫定税率分の維持も子ども手当の所得制限も鳩山首相の意に反したことだと際立たせる場面設定となっている。
この状況は国債発行額を「約44兆円以内」抑制の努力目標に据えた時点で暫定税率維持を既定路線としたのではないのかとする見方に反することになる。
だが、暫定税率分の維持も子ども手当の所得制限も鳩山首相の意に反し政策転換だとすることによって、マニフェスト違反という批判を和らげるメリットを生じせしめるし、暫定税率の廃止に関しては「私は廃止すべきだと申し上げてきた国民に対する誓いだと思っている」(日経ネット)、子ども手当に関しては「子供を社会全体が育てる発想。子供に関して裕福だとか、必ずしも裕福でないという発想ではない。所得制限は、まず考えないのが基本線だ」と言ってきた約束にウソをついたことになる批判をかわすメリットが生じる。
このことは小沢幹事長自身が「誰かが言わねばならないことで、自分が憎まれ役を買って出た」(毎日jp)と言っている狙いに合致する。鳩山首相が悪いのではない、全部俺が悪いのだ、と。
そして12月21日夕方、鳩山首相は小沢幹事長と会談。鳩山首相は「最終的には私の方で結論を出す」と言っていた結論を伝える。暫定税率分の維持に関しては小沢重点要望に添う決定であったが、子ども手当所得制限に関してはマニフェスト通り、鳩山首相が言ってきた通りの所得制限なし、恰も指導力を発揮した決定に見えるが、もしこれが国債発行額「約44兆円以内」の努力目標決定時の既定路線とした“決定”だとすると、マニフェスト違反の批判や鳩山首相がこれまで公言してきた約束にウソをついたことになる批判を和らげる効力のみならず、「最終的には私の方で結論を出す」とした指導力を僅かながらでも演じることができたと見せかける効力を演出できる。
尤もマスコミは素直に取らなかった。殆んどが小沢主導と解釈している。平野官房長官が「相談しにいくのではありません。決まったことを伝えにいくのです」といったことを記者団に話しているのをテレビが流していたが、「相談しにいくのではありません」とわざわざ断って立場が逆ではないことを殊更に伝えなければならないのは実際はそういうふうになっていないからだろう。
民主党は暫定税率を廃止して2・5兆円の減税を実施するとしていたから、国債発行額を「約44兆円以内」抑制の努力目標に据えた時点で暫定税率維持を既定路線としていたなら、2・5兆円は「約44兆円」の中に入れた計算ではないことになって、その分の余裕を織込み済みだったことになる。
逆に既定路線としていなかった場合、景気の先行きが怪しい中で、その怪しさに反して予算編成の足を縛りかねない「約44兆円以内」の努力目標は設定できただろうか。
「44兆円を上限としない」と思い切ってフリーハンドにしておいた方が、景気対策によりよく対処可能となるはずである。
一方子ども手当の財源は「asahi.com」記事――《子ども手当財源、地方・企業も負担首相が方針》によると、鳩山首相は22日、子ども手当の財源問題について「今まで地方が払ってこられた分はそのままご理解いただこうということになりました」と、小学生までの子ども1人当たり月額5千円(3歳未満と第3子以降は1万円)を支給していた現行の児童手当の地方負担分と企業負担分を維持、子ども手当の財源に振り向ける考えにしたことを記者団に表明と伝えている。
児童手当今年度支給総額1兆160億円のうち、地方が5680億円、企業が1790億円を負担しているということだから、来年度も維持することになった場合、子ども手当半額支給(月額1万3千円)の来年度約2兆3千億円の財源必要分のうち、地方と企業を合わせた7470億円は政府の負担軽減となって、1兆5530億円に抑えることができる。
これに所得制限をかけたとしても、〈現行の児童手当と同様、860万円の所得制限をかければ、1割の子どもが支給対象外になり、2000億円以上の財源が確保できる。だが、支給対象外となる世帯は、控除廃止の影響で「手当はもらえないのに増税」となってしまう。所得制限を年収2000万円とする案もあったが、その場合の予算削減額は約20億円にとどまる。財源を確保しようとすれば、一部世帯の増税は避けられず、増税のみの世帯を減らそうとすれば、財源捻出効果が期待できないことから、所得制限は見送られた。暫定税率存続に対する「マニフェスト違反」との批判をかわしたいとの思惑もありそうだ。〉(《クローズアップ2009:公約破り、小沢氏圧力(その2止) 背景に財源不足》毎日jp/2009年12月22日)ということなら、所得制限をかけた場合のマニフェスト違反の批判の声、あるいは支持率への影響はかけない場合よりも遥かに悪い方向に向かうことが予想される。
こういったことは前以て予測できなかったことではないはずである。暫定税率分の維持と子ども手当の所得制限とどちらが国債発行により負担をかけないで済むか、予算編成にどちらがより余裕を与えてくれるか、そして政権にどう影響するかを天秤にかけて二者択一したとき、暫定税率分の維持の方に軍配が上がり、国債発行額「44兆円」の制約も「努力目標」とすることで保証可能となって既定路線としたということではないだろうか。 |