野田首相の震災10カ月後を以てして被災地復興、「よりスピード感を持って対応したい」の不見識な認識能力

2012-01-12 10:34:57 | Weblog

 野田手首相が1月8日(2011年)の被災地福島県訪問に続いて1月10日に被災地宮城、岩手両県を視察した。《首相 被災地で住民と意見交換》NHK NEWS WEB/2011年1月10日 18時2分)

 宮城県では先月操業再開の水産加工会社を訪れ、その後1000人余りが暮らす石巻市内の仮設住宅を訪問、住宅の中に上がって寒さ対策の現状などを確認したあと、住民らと意見交換。

 午後には岩手県大船渡市に移動し、去年11月に操業を再開し、被災地で出た瓦礫を燃料や原料の一部として使用しているセメント工場を視察、瓦礫処理の仕組みを質問、その後、大船渡市内の仮設住宅を訪問。

 未だ操業を再開できずに藻掻き苦しんでいる企業の経営者や自営業者を集めて、再開できないでいるのはどこに問題があるのかといったことをこそ意見交換すべきだと思うが、政治の成果をインスタントに示すには前者の視察が効果的で、後者は逆効果となりかねない危険性があるということで避けたのか、あるいは最初からそういった発想はなかったことからのスケジュールだったのだろうか。

 大船渡市内仮設住宅住民「寒さ対策も必要だが、雇用の確保に力を入れてほしい」

 記事はこの要望に対する野田首相の直接の発言は伝えていないが、「力を入れます」と確約したことは視察後の記者会見での発言が証明してくれる。

 野田首相被災者の生活がかかっているので、よりスピード感を持って対応したい。来月にも発足する復興庁で、被災者の声を受け止めながら、事業を行っていく態勢にしたい」

 記事はこの発言を、〈被災地の復興に引き続き全力を挙げる考えを示しました。〉としている。

 〈引き続き全力を挙げる〉とはこれまでも全力を挙げてきたということでなければならない。いわば野田内閣発足当初は「安全運転」と言いつつも、一国の指導者の責任として復興対応に最初からフルスピード、フル回転で取り組んできた。

 まさか、「安全運転」の宣言そのどおりに復興対応に関してもフルスピード、フル回転で取り組まずに、ソロリソロリの安全運転で進めてきたというわけではあるまい。

 フルスピード、フル回転で震災対応に当たってきた。また首相という立場上、そのように全力で当たらなければならなかった。

 だとすると、「被災者の生活がかかっているので、よりスピード感を持って対応したい」という認識能力は不見識極まりないことになる。

 もし当初から震災対応にフルスピード、フル回転で的確・迅速に当たることができ、着実に成果を挙げていたなら、今更「よりスピード感を持って対応したい」などと言う必要に迫られることはないはずだからだ。

 大体が「被災者の生活がかかっている」ことは最初から分かっていたことで、今更言うべきことではなく、このことを理由に「よりスピード感を持って対応したい」などと言うのはこれまでの「スピード感」に欠陥があったことの証明以外の何ものでもないからだ。

 大船渡市内仮設住宅の住民が「寒さ対策も必要だが、雇用の確保に力を入れてほしい」と要望した。寒さ対策の不備・不足の存在を指摘した上に、それ以上に「雇用の確保」に関わる不備・不足の存在を訴えた。

 イコール政府の復興対策の「スピード感」の欠如・欠陥を突いたということであろう。

 野田首相は元々の「スピード感」の欠如・欠陥を認識もせず、さも今までも「スピード感を持って対応した」が如くの前提に立って、「よりスピード感を持って対応したい」と応じたのである。

 根づいてもいない樹に接木をして、さあ、すくすくと育ちますよと言うようなものであろう。

 野田首相は岩手県でも宮城県でも操業を再開した企業を視察した。だが、被害を受けた多くの企業、あるいは自営業者が仕事を再開することができずに苦しんでいる。

 あるいは被災した企業から解雇を言い渡されて再就職できないでいる被災者が多く存在する。野田首相1月8日福島県視察の前日、1月10日宮城、岩手県視察の3日前の1月7日放送の《NHKスペシャル 東日本大震災「“震災失業”12万人の危機」》が菅前内閣・野田内閣の震災対応の「スピード感」の欠如・欠陥を余すところなく暴いていた。

 この放送は「NHK NEWS WEB」記事――《震災で今も失業 推計12万人に》(2011年1月7日 16時41分)でも伝えていて、この記事も参考にしてみたい。

 先ず記事から。

 NHKは去年10月から11月にかけて1100世帯が入居できる宮城県石巻市の大規模な仮設住宅「開成団地」ですべての世帯を対象に聞き取り調査を行い、757世帯から回答を得た。

 757世帯のうち約半数が失業状態。
 757世帯のうち3分の1が1か月の収入が10万円未満。

 年金生活者等を除く497世帯のうち、
 「震災で仕事を失った」――47%の235世帯が失業状態

 失業状態の年代別世帯主

 50代――29%
 60代――23%
 40代――13%
 30代――13%

 失業状態世帯の34%――失業給付等を合わせても1か月の収入が10万円未満
 自営業者――67%が失業状態

 「収入が全くない世帯」――21%

 NHKが日本総合研究所に依頼して行った調査――震災で今も仕事を失ったままの被災者が、被災地で推計12万人に上るという試算結果。
 
 さらに記事は、厚労省の推計として、岩手、宮城、福島の3県では今月から来月にかけて最大でおよそ4000人の失業給付が切れると伝えている。

 記事は最後に、〈被災者の生活再建と地域の復興に欠かせない雇用の創出が緊急の課題になっています。〉と政府の震災対応の不備・不足、いわば「スピード感」のなさを伝えて結んでいる。

 「NHKスペシャル」では、NHKのアンケートで失業者の39%が「死んだ」、「生きていても意味はない」、「絶望しかない、何で助かったのだろう」と考える深刻な精神状態に陥っているとしている。

 番組は石巻市の基幹産業である水産業の復興が遅々として進まない原因を次のように伝えている。

 港一帯が地盤沈下して、土地を1.5メートルから嵩上げしないと事業を再開できない。嵩上げは水産業者が県に申請し、県が申請を基に国の補助金を使って工事を行うが、国や県は計画づくりや手続きに半年かかるとしているという。

 資金のある業者は県の決定を待てないからと、自己責任で嵩上げを行う計画でいると話している。

 だが、自己資金のある業者は極く僅か。水産業の復興が遅れれば、当然雇用の回復も遅れる。

 野田首相は操業を再開した企業を視察し、記者団に向かって、震災発生から10カ月も経ってから「被災者の生活がかかっているので、よりスピード感を持って対応したい」と発言したが、操業を再開できないでいる事業者や再就職できないでいる失業者の状況からしたら、彼らを慰める十分な言葉とはならなかったはずだ。

 仮設住宅開成団地に済む自営業者に対するアンケート。

 自営業者の67%に当たる3人に2人が被災によって仕事を失う。

 自営業者の30%超が月に5万円以下の生活。
 このうちの65%が無収入。

 国も自治体も、失業した自営業者が被災地全体で実際にどのくらいいるのか正確には把握していないとのこと。

 何という不備・不足なのだろう。欠如・欠陥そのものの震災対応を示す事例ではないだろうか。

 番組は1年半前にローンを組んで、2人の美容師を雇って美容院の経営に乗り出したが、津波で店を失った40歳の女性を登場させる。店を再開するには再びローンを組まなければならない。これまでのローンが月々月8万円の返済。新たに同じ金額のローンを組むと、二重ローンとなって月々16万円の返済となり、返済可能かどうか、店を再開していいものかどうか迷いが生じている。

 そこで二重ローン問題に対応するために国が設立した「産業復興機構」に相談する。

 「産業復興機構」は事業者の相談を受け、現在の借金を買い取って、その返済は10年間の猶予を与える、真に結構毛だらけ、猫灰だらけの仕組みだが、借金の買取は再建の可能性が高いと判断した事業者限定で、要するに石橋を叩いて渡る式の産業復興のお手伝いとなっているらしい。しかもお役所仕事だからだろう、手続きに時間もかかるという。

 だからだろう、1000件余りの相談の内、認められたのは岩手県の1件のみという立派な成果だそうだ。

 これでは「産業復興機構」の役人を食わせるために国が設立した組織と見做さざるをえない。

 女性美容師「制度を考えてくれるのは嬉しい。だけど、使える制度を作って欲しいんですね。みんなが求めるのは何か、それを出すべきなのに、自分たちが提供するのに合わせなさいになってるんですね」

 これでは「スピード感」が問題ではなく、復興対策の中身が問題だということになる。それが不備・不足、欠如・欠陥の様相を描いている。
 
 女性は離婚していて、自分一人の美容室経営の稼ぎで月々8万円を返済しながら、2人美容師を雇い、子どもまで養い、なおかつ再建を目論んでいる。

 再建の目論見はこれまでの経営状況(=店の入り)、月々の返済を上回る採算状況が後押ししている目論見であろう。

 このことはかつての利用者や近所の住人から証言を得ることができるはずである。ある種冒険をしないことには、あるいは、「被災者の生活がかかっているので、よりスピード感を持って対応したい」と言っているだけでは復興の歩みに「よりスピード感」を与えることは決してできまい。

 女性は石巻市役所に救済を求める。

 女性美容師「自営業者は失業保険がない。家がなくなった被災者は市から援助があるが、店がなくなった被災者には市からの援助はゼロだったんです。

 二重ローンを一本化して欲しい。今こそ公的な援助が欲しい。せめて市民なんだから、払う年数が長くなっても、月々の返済が少なくなれば、生きていけるのになあと思います」

 涙声になって訴えていた。

 石巻市役所担当者「被災自治体の厳しい財源では限界があり、市独自には支援できない」

 国は去年の11月、「東日本大震災事業者再生支援機構」の発足を決定。困窮する自営業者の対策につながるとしているが、実際に制度がスタートするのは2月からで、利用できるよになるのはさらにその先だと番組では伝えていて、「今まさに事業を再建しようとしている人たちの支援にはなっていない」と批判している。

 女性は降りた地震保険で新たに土地を購入、その土地を担保にカネを借りて、「イチかバチかやってみる。前に進まなければ、何も始まらない」と二重ローン覚悟で店再開に向けてスタートを切る。

 番組は初めから終わりまで国の震災対応の不備・不足を突き、その欠如・欠陥を洗い出している。

 だが、野田首相は視察先で、これまでの「スピード感」が功を奏しているとする前提に立ち、「被災者の生活がかかっているので、よりスピード感を持って対応したい」と請け合った。

 何と言う認識能力ある見識なのだろうか。 

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