安住、前原等、岡田等が証明する「社会保障と税の一体改革」の非一体性と欠陥

2012-01-24 11:29:10 | Weblog

 菅前政権は2010年10月から社会保障と税の一体改革の検討を開始、民主党が09年マニフェストの工程表に掲げていた2010年度から2013年度までの子ども手当、高校無償化等の政策実施所要額16.8兆円を「殆ど犯罪に近い」と自民党財務相当時に批判し、自民党を離党し、たちあがれ日本を結党して、その2010年4月10日旗揚げ記者会見で、「民主党には政治に対する哲学や思想がない。自民党には、野党として闘う十分な気力がない。反民主として、非自民として国民のために闘っていきたい」と自身の立場を「反民主・非自民」に置いていた与謝野馨を菅前首相が2011年1月14日経済財政政策担当大臣に迎えて、野田首相ではないが、「最強、最善の布陣」と見たのだろう、「社会保障と税の一体改革」の策定に当たらせた。

 与謝野も、よくもまあ、あれ程激しく批判し、拒絶反応を見せていた民主党の閣僚にのこのこ乗っかったものだと思うが、菅前政権は与謝野の協力のもと、社会保障改革の安定財源確保と財政健全化の同時達成に向けた「社会保障・税一体改革成案」を取り纏めて、2011年6月30日に閣議報告に付した。

 与謝野の人格凛として気高い、有能な才能を以てしての成案である。非の打ちどころのない「社会保障と税の一体改革」であったに違いない。

 「社会保障・税一体改革成案」には年金改革について次のような記述がある。

○ 国民的な合意に向けた議論や環境整備を進め、「新しい年金制度の創設」実現に取り組む。

・ 所得比例年金(社会保険方式)、最低保障年金(税財源)

○ 年金改革の目指すべき方向性に沿って、現行制度の改善を図る。

・ 最低保障機能の強化+高所得者の年金給付の見直し
・ 短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大、第3号被保険者制度の見直し、在職老齢年金の見直し、産休期間中の保険料負担免除、被用者年金の一元化〉・・・・・

 「被用者年金」とは既にご存知だろうが、公的年金制度のうち、国民年金を除いた厚生年金保険と共済年金の総称であって、「被用者年金の一元化」とは当然、国民年金を除いた厚生年金保険と共済年金の一元化を図るというものである。

 要するに国民年金を一元化に加えるのは後回しということなのだろう。

 だが、成案とはできあがった案でありながら、「最低保障年金」を含めて「新しい年金制度の創設」は「実現に取り組む」、「被用者年金の一元化」にしても、「現行制度の改善を図る」と、成案とは程遠く、あるいは成案とは名ばかりで、今後の課題としている。

 民主党の2009年マニフェストの「年金一元化」と「最低保障年金」は次のような記述となっている。

 〈公平な新しい年金制度を創る

危機的状況にある現行の年金制度を公平で分かりやすい制度に改め、年金に対する国民の信頼を確保するため、以下を骨格とする年金制度創設のための法律を2013年までに成立させます。

(1)すべての人が同じ年金制度に加入し、職業を移動しても面倒な手続きが不要となるように、年金制度を例
 外なく一元化する


(2)すべての人が「所得が同じなら、同じ保険料」を負担し、納めた保険料を基に受給額を計算する「所得
 比例年金」
を創設する。これにより納めた保険料は必ず返ってくる制度として、年金制度への信頼を確保する

(3)消費税を財源とする「最低保障年金」を創設し、すべての人が7万円以上の年金を受け取れるようにするこ
 とで、誰もが最低限の年金を受給でき、安心して高齢期を迎えられる制度にする。


「所得比例年金」を一定額以上受給できる人には「最低保障年金」を減額する

(4)消費税5%税収相当分を全額「最低保障年金」の財源として投入し、年金財政を安定させる。〉・・・・・

 要するに与謝野の主導のもと菅内閣が纏めた「社会保障・税一体改革成案」は、少なくとも「年金一元化」と「最低保障年金」に関してはマニフェストの年金改革で示した、「これこれします」という予定表とさして変わらない地点に佇んだままであるということである。

 「社会保障・税一体改革成案」を取り纏めて2011年6月30日に閣議報告に付し、野田内閣が2011年9月2日に菅内閣を引き継ぎ、「社会保障と税の一体改革」を成案の上にも成案とすべく相務めたのだろう、2012年1月6日、「社会保障・税一体改革素案」を閣議決定。

 ここでは「被用者年金一元化」と一つの公的年金制度にすべての人が加入する「新しい年金制度の創設」を、よく意味が分からないが、個別に記述している。

 〈被用者年金一元化

○ 被用者年金制度全体の公平性・安定性確保の観点から、共済年金制度を厚生年金制度に合わせる方向を基本
 として被用者年金を一元化する。具体的には、公務員及び私学教職員の保険料率や給付内容を民間サラリー
 マンと同一化する。

○ 公的年金としての職域部分廃止後の新たな年金の取扱いについては、新たな人事院調査等を踏まえて、官民
 均衡の観点等から検討を進めるものとする。

(注) 企業年金を実施している事業所数は、厚生労働省「平成20 年就労条件総合調査」から推計すると37.5%となり(厚生労働省年金局資料による)、すべての企業に企業年金があるわけではない。

☆平成19年法案をベースに、一元化の具体的内容について検討する。関係省庁間で調整の上、平成24 年通常
 国会への法案提出に向けて検討する。〉・・・・・

 〈新しい年金制度の創設

○ 「所得比例年金」と「最低保障年金」の組み合わせからなる一つの公的年金制度にすべての人が加入する新
 しい年金制度の創設について、国民的な合意に向けた議論や環境整備を進め、引き続き実現に取り組む。

<所得比例年金(社会保険方式)>

○ 職種を問わずすべての人が同じ制度に加入し、所得が同じなら同じ保険料、同じ給付。
○ 保険料は15%程度(老齢年金に係る部分)。
○ 納付した保険料を記録上積み上げ、仮想の利回りを付し、その合計額を年金支給開始時の平均余命などで割
 って、毎年の年金額を算出。

<最低保障年金(税財源)>

○ 最低保障年金の満額は7万円(現在価額)。
○ 生涯平均年収ベース(=保険料納付額)で一定の収入レベルまで全額を給付し、それを超えた点より徐々に
 減額を行い、ある収入レベルで給付額はゼロ。
○ すべての受給者が、所得比例年金と最低保障年金の合算で、概ね7万円以上の年金を受給できる制度。

☆ 国民的な合意に向けた議論や環境整備を進め、平成25 年の国会に法案を提出する。〉・・・・・

 「平成19年法案をベース」とは、「Wikipedia」によると、自民党政府が「2007年4月、共済年金の1・2階部分の保険料率を厚生年金の保険料率(18.3%上限)に統一し、給付を厚生年金制度に合わせる『被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律案』」のことで、国会に提出されたものの、審議されずに継続審議となっている。

 だが、どちらも「検討する」「引き続き実現に取り組む」となっていて、具体化を果たしているわけではなく、今後の課題だと先送りしている。

 だが、「社会保障と税の一体改革」と称して、社会保障改革の財源とすべく消費税を5%の増税、現行と合わせて10%と決めたのである。増税は決めたが、社会保障改革については今後の課題だとして、決定は先送りでは一体改革とは名ばかり、虚構の改革となる。

 1月21日(2012年)の当ブログ記事――《野田内閣の“一体改革”となっていない社会保障と税の一体改革 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に次のように書いた。

 〈「社会保障と税の一体改革」と言う以上、社会保障と税はそれぞれが相互対応の関係を持った具体像を描いていなければならない。それぞれの具体像が非対応の関係にある構成となっていたなら、一体改革とは言えない。〉
 
 〈社会保障のこれこれの改革にはこれだけの財源を必要とする、必要とする財源から消費税の税率を算出するという、先に社会保障の改革を持ってきて、それに対応する消費税増税という税の改革を持ってくる手順を取ることによって相互対応の一体改革となるはずだが、5%増税分の使途変更は逆に税率(に相当する税収)を使途に当てはめることになって、先に増税率ありの手順を踏むことになり、社会保障の改革にはこれだけの財源が必要だからという相互必要性からの算出にはならないことになる。〉

 一体改革となっていないから、矛盾が噴き出すことになる。《長谷川代表幹事「改革の名に値しない」と手厳しく 会談で安住財務相に》

 1月23日(2012年)安住財務相と長谷川閑史経済同友会代表幹事との都内ホテルでの会談。

 長谷川閑史経済同友会代表幹事(政府がまとめた改革素案について)「毎年1兆円ずつ増える社会保障制度の抜本改革に切り込んでいない。

 少なくとも将来の本格的改革への姿勢は出していただかないと国民の納得が得られない」

 要するに「社会保障・税一体改革素案」は不備があり、「本格的改革」とはなっていない、未完成だと言っている。

 だから、「将来の本格的改革への姿勢」を示さなければならないと警告した。

 成案、あるいは素案の何々しますが、マニフェストに書いてある何々しますから大きく踏み出しているわけではないにも関わらず、消費税の増税率を決めて、それを以て「一体改革」だとし、3月末までに今国会に法案を提出すると言っている。

 この欠陥をどう説明するつもりなのだろう。

 安住財務相改革はまだ第一歩だ。次に本格的な社会保障改革をしっかりやっていく。

 (消費税の増税分は)社会(保障)目的化をしっかりやって、年金・医療・介護・子育てに予算を充当していきたい。

 (24日召集の通常国会について)歴史に残る節目になるよう野党の皆さんの理解を得て一体改革を成し遂げたい」

 「改革はまだ第一歩だ。次に本格的な社会保障改革をしっかりやっていく」、いわば安住も一体改革は本格的なものではない、第一歩を踏み出したに過ぎない、本格的な改革はこれからのことだと言いながら、そのような未完成の法案を以てして、「歴史に残る節目になるよう野党の皆さんの理解を得て一体改革を成し遂げたい」と矛盾したことを言っている。

 こいつの頭の中はどうなっているのだろう。欠陥中古車を、「整備は万全です。新車と遜色のない走りを保証します」と売りつけるようなものではないか。

 一体改革裏切って、「改革はまだ第一歩」なら、この5%は何を根拠に算出したのだろうか。

 社会保障改革の具体的な全体像の構築を以てして、それを実現させるための財源としての消費税の増税率が決定するはずだが、その一体性に反して増税率を決めた。

 この非一体性はどう説明するのだろうか。

 前原政調会長にしても1月23日(2012年)に東京都内で講演し、「社会保障と税の一体改革」の非一体性を鈍感なまでに平気で口にしている。《前原氏“年金改革の全体像提示”》NHK NEWS WEB/2011年1月23日 23時51分)

 前原「公明党は、『年金制度改革の全体像を示しさえすれば協議に応じたい』と言っている。われわれは、最低保障年金、年金の一元化を案として持っているので、政府と相談をしながら、協議に応じてもらえるよう環境整備を行いたい」
 
 「最低保障年金、年金の一元化を案として持っている」と言っても、成案、素案が何々しますの段階にとどまっているのだから、マニフェストからニ、三歩しか出ていない、一体性を獲得しているとはとても言えない案に過ぎない。

 輿石幹事長(記者会見)「いつから、どのくらいの財源が必要か示さなければ、年金の改革案として通用しない。通常国会で示すことを前提に取り組む」
 
 本格的な年金制度改革案を示すについては、どのくらいの財源が必要か示す必要があると言っている。

 要するに消費税5%増税分には本格的な年金制度改革は入っていない、新たに増税する必要があるということである。
 
 「社会保障と税の一体改革」が非一体性の欠陥を抱えていることを無視して、消費税増税だ、増税反対は国を潰す、一体改革だ何だと今まで何のために騒いできたのだろうか。

 岡田副総理も輿石幹事長と同じ事を言っている。《将来的に消費税10%超必要…岡田副総理》YOMIURI ONLINE/2012年1月22日20時59分)

 1月22日(2012年)フジテレビ番組。

 岡田「年金抜本改革に必要な財源は(2015年に引き上げる消費税の)10%に入っていないから、さらなる増税は当然必要になる」

 藤村官房長官も右へ倣え、かくして大合唱の体をなしている。

 《年金抜本改革でも10%超 消費増税で藤村長官》MSN産経/2012.1.23 13:22)

 1月23日記者会見。年金一元化と最低保障年金制度創設を柱とする民主党の年金制度抜本改革が導入された場合、消費税率を将来的に10%よりも引き上げる必要があるとの認識を示した上で、

 藤村「現行制度を維持したとしても財源が(将来)不足するのは事実だ。新しい制度創設でも同じだ」

 開き直りとしか受け取ることのできない発言となっている。

 「現行制度を維持したとしても財源が(将来)不足するのは事実だ」は事実そのとおりだろうが、だからこそ時間をかけて「新しい制度創設」を図ったはずである。「新しい制度創設でも同じだ」と言うなら、何のための「社会保障と税の一体改革」であり、消費税増税率を+5%に決めたのかということになる。

 野田首相の側近だけのことはあって、まさしく図々しいばかりの開き直りそのものである。

 要するに「社会保障と税の一体改革」と言いながら、管前無能首相が2010年7月参議院前に自民党の消費税増税10%を参考にすると言った手前、それを踏襲するために10%の税収の範囲内の社会保障改革にとどめた。

 いわば年金改革を民主党マニフェストに従って本格的な抜本改革としたなら、10%以上の増税率となってしまうために最低保障年金も年金の一元化も、年金改革は後回しにした。

 だが、公明党が年金制度改革の全体像を明確に示さなければ、一体改革を巡る与野党協議には応じないと主張し始めたことから、公明党を与野党協議に引き込むために取り組まざるを得なくなったが、そのためにはなお消費税を増税しなければならないために党役員や各閣僚等が連携プレーで言及し始めた。

 だが、年金制度改革の抜本改革、本格的改革を言い、その財源として消費税10%超の増税の必要性を言うたびに菅前内閣と野田内閣が取り組んできた「社会保障と税の一体改革」が一体改革とはなっていなかったこと、その非一体性と欠陥をさらけ出すことになっている。

 にも関わらず、野田首相もそうなのだろう、安住にしても前原にしても岡田にしても藤村にしても、鈍感に出来上がっているのだろう、さらけ出していることに気づいていない。 

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