1月6日(2012年)の細野原発事故担当相の記者会見。東電福島第一原発事故を受けて見直しを進めてきた国の原子力安全規制について新たな方針を示した。《原発の運転期間 法律で40年に》(jNHK NEWS WEB/2011年1月6日 18時15分)
●法律に規定のなかった原発の運転期間
を40年に制限。
●例外として延長する場合は施設の老朽
化の評価や安全確保ができる技術的能
力があるかを審査する制度を新たに法
律に盛り込む。
●地震や津波などに対する新たな知識や技術を取り入れた安全基準を国が設ける。
●運転中の原発が上記安全基準を満たすよう法律で義務づける。
このような新たな方針は福島第一原発事故が津波や過酷事故への対策が不十分で、電力会社の自主的な取り組みでは限界があると指摘を受けた措置だとしている。
要するに民間企業は信用できないから、国が厳格に規制するということなのだろう。
政府は新たな安全規制を盛り込んだ法律の改正案を今月中にも国会に提出し、ことし4月の原子力安全庁の発足に向けて法律を改正することにしているという。
細野原発事故担当相「40年が経過したら基本的には廃炉にする。したがって、それ以上の運転は極めて厳しい状況になる。原発の安全対策については電力会社任せにせず、最新の知識や技術を取り入れた対策を電力会社に義務づけることでたゆまぬ努力を義務化する」
40年を超える「運転は極めて厳しい状況になる」としつつも、原発の運転期間40年はあくまでも「基本的」な制限であって、いわば40年をベースとして、40年を超える運転が認められないわけではないと、例外規定を設けるという既定事実に添った、前後の脈略に矛盾のある発言となっている。
この矛盾は例外をさも少ないように見せかける必要上、「運転は極めて厳しい状況になる」と付け加えざるを得なかったために生じることになった矛盾ではないだろうか。
何とも胡散臭い感じがしないでもない。
民間企業は信用できないから厳格に規制する方針を示しながら、国の規制は必ずしも厳格でないというのは矛盾するが、それ以上の矛盾点は「地震や津波などに対する新たな知識や技術を取り入れた安全基準を国が設ける」としている以上、現在定期検査運転停止中の関西電力大飯原発3、4号機の「安全評価」1次評価結果(ストレステスト結果)は新たに国が設けた安全基準に則って評価するのが当然の措置のはずだが、経済産業省原子力安全・保安院がそういった措置は取らずに1月18日に「妥当」とする審査書案を纏めたのは矛盾も矛盾、最大の矛盾点ではないだろうか。
細野原発事故担当の1月6日の記者会見から11日経過した1月17日、内閣官房原子力安全規制組織等改革準備室が早くも原子炉の運転制限40年の例外延長は1回限度、期間は最長でも20年の考えを明らかした。《原発“例外延長 最長20年”》(NHK NEWS WEB/2011年1月17日 21時52分)
細野原発事故担当相は運転制限を40年とし、と同時に例外規定を言いながら、何年の延長かは示さなかった。細野一人で決めることではなく、内閣の関係者一同で決めたことだろうから、一度出しだと反響が大きくなるからと、ワンクッション置いて二度出しにした疑いが濃い。
工藤和彦九州大特任教授「原発の運転制限を40年と決めた根拠がそもそもよく分からないなかで、最長20年延長できるという考え方には疑問を感じる。どのような議論を経て決めたのか、その科学的根拠を明確にすべきで、老朽化した原発の運転のどこに問題があり、どう改善すべきなのかを詳しく検証したうえで制限を決めるべきだ」
発言を翻訳すると、期限の決め方に胡散臭いものがあるということだろう。
原子力安全規制組織等改革準備室「世界的に見ても運転の延長を認めるのは最長で20年が妥当で、厳しい基準を設けてハードルを高くするうえ、安全の観点からのみ厳格に判断する」
「厳しい基準を設けてハードルを高くするうえ、安全の観点からのみ厳格に判断する」ことに40年+20年例外延長の正当性を置いている。
原子力安全規制組織等改革準備室の20年延長公表翌日の1月18日、訪米中の細野原発事故担当相が訪問先のワシントンで発言している。
《細野原発相「40年で廃炉の原則、変わりない」》(asahi.com/2012年1月19日13時25分)
細野原発事故担当相「40年で廃炉という原則に変わりない。それぞれの原発で状況は異なり、個別に確認をしたうえで、例外を排除する必要はないという考えだ。(既存の原発にも安全性に対する新たな知識を盛り込んだ新基準への適合を義務づける「バックフィット」制度の導入を挙げて)40年を超える原発の稼働にとって極めて高いハードルになるという状況に変わりない」
いくら「バックフィット制度」を導入したとしても、40年超えの原発運転は「極めて高いハードルになる」というだけのことで、皆無ではないことになる。
皆無なら、例外規定を設ける必要はない。
「バックフィット制度」とは最初のNHK NEWS WEB記事が取り上げていた、国が設けるとしていた「地震や津波などに対する新たな知識や技術を取り入れた安全基準」を既存原発にも適用して、「運転中の原発が上記安全基準を満たすよう法律で義務づける」ということなのだろう。
だとしたら、なおさらに定期検査の原子炉に対するストレステストは新たな安全基準で行うべきだが、この点からして矛盾した、何とも胡散臭い政府の対策となっている。
原発に対してより厳しくは当然の措置のはずだが、より厳しくは細野原発事故担当相の言葉の中だけにとどまっていて、実際行動が伴っていない。
このことを以って胡散臭くないと言えるだろうか。
細野が訪米中の留守の間に原子力安全規制組織等改革準備室が例外は20年一回限度と公表したことについて。
細野原発事故担当相「私の知らないところで何かが決まることはない。伝え方も含め、不十分なところがあれば、私の責任。原発の規制のあり方に国民の関心が集まっているので、改めて丁寧に説明していきたい」
事務方が例外は20年一回限度だと事務的・機械的に公表する。細野がそれに対して、「極めて厳しい状況になる」だ、「極めて高いハードル」だとブレーキをかける。連携プレーではないと一概には否定できまい。
大体が延長の例外を設けることを決めた時点で、延長がどの程度の年数かを決めないまま細野が記者会見で発言すること自体がおかしい。細野訪米中を狙った連携プレーだと勘ぐられても仕方はあるまい。
そもそもからして例外延長期間を最初から「最長でも20年」とすることは、場合によっては40年+20年の可能性を前提としていることになる。
その可能性を前提としていなければ、「最長でも20年」は出てこない。
JNES(独立行政法人 原子力安全基盤機構)のサイトに次のような記述がある
〈定期事業者検査
電気事業法第55条の規定にもとづき、事業者(電力会社)は原子力発電所の運転を停止して、原子炉本体およびその附属設備は約1年ごとに、タービン設備などは約2年ごとに検査を実施すると同時に、記録保存・報告することが義務づけられています。 主な検査としては、ポンプ、弁などの分解検査、圧力バウンダリーなどの供用期間中検査、格納容器や主蒸気隔離弁などの漏えい率検査、計装機器の特性試験などがあります。〉・・・・・
原子炉本体およびその附属設備は約1年ごとの検査を受けることを法律で義務付けられている。
そこへ持ってきて、より厳しい新しい安全基準を国は法律で設けて、既存原発にも適用する。
当然、1年ごとの検査がより厳しくなることが予想される。にも関わらず、運転期間を法律で40年に制限すると言いながら、延長の例外を認めて、その期間を「最長でも」と断りながら、運転制限の40年の半分に相当する20年に一気に持っていくこと自体が胡散臭いではないか。
「40年で廃炉という原則」とは原子炉は一般的には40年で寿命がくるということである。少なくとも安全性の点で40年を寿命と看做すべきだということであろう。
80歳の高齢者にまだどうにか車の運転はできるが、万が一の安全を考えて免許証の返還を決めさせるということに喩えることができる。
それをまだ運転はできる、80歳の半分の40年は無理にしても、4分の一のあと20年は大丈夫だと運転を許容するようなものではないのか。
40年が寿命でありながら、寿命を超える耐久性を保持する原子炉は例外的に40年以上を認めるとしても、法律で40年の寿命で終わらせるところを寿命の半分の20年をさらに上乗せして、「最長でも60年」まで認めるとするのは、いくら例外だと言っても、耐久性の過大視に当たらないだろうか。
40歳の人間に40歳の半分の20歳の体力を期待するのに似て、胡散臭さを通り越していかがわしい印象さえ受ける。
また、40年の寿命の半分の20年の運転延長を最長でさらに認めるとするなら、40年の寿命とすることの根拠を逆に失うことになるはずだ。
どう見ても運転年数を60年近く認めるための、胡散臭いばかりの「40年で廃炉という原則」に見えて仕方がない。 |