1月15日(2012年)フジテレビ放送「新報道2001」で、消費税増税の低所得対策を論じていた。出演者は須田哲夫アナ、吉田恵アナ、平井文夫フジテレビ解説副委員長、野口悠紀雄早稲田大学ファイナンス総研顧問、鈴木亘学習院大教授、そして安住財務省の面々。
先ず政府が導入するとしている低所得者対策としての「給付付き税額控除」が、低所得者全体に給付するのでは効果がないする専門家の声をビデオで伝えている。
森信茂樹中央大学法科大学院教授「私はこれはですね、バラ撒きだと思うんですよ。ワーキングプア対策、あるいは、あー、シングルペアレント対策、あるいは少子化対策としてですね、給付付き税額控除というのを使うことによって、えー、まあ、社会全体をですね、えー、活性化していく、効果が出てくるんじゃないかと」
単に給付付き税額控除を行うのではバラ撒きで終わるが、ワーキングプア対策やシングルペアレント対策、少子化対策等、対象を限定した給付付き税額控除であるなら、社会全体を活性化できると言っている。
「給付付き税額控除」の導入は1月6日(2012年)に閣議決定した「社会保障・税一体改革素案」に次のように記している。
〈所得の少ない家計ほど、食料品向けを含めた消費支出の割合が高いために、消費税負担率も高くなるという、いわゆる逆進性の問題も踏まえ、2015年度以降の番号制度の本格稼動・定着後の実施を念頭に、関連する社会保障制度の見直しや所得控除の抜本的な整理とあわせ、総合合算制度や給付付き税額控除等、再分配に関する総合的な施策を導入する。〉・・・・・
「導入する」としているが、「2015年度以降の番号制度の本格稼動・定着後」のことであり、「関連する社会保障制度の見直しや所得控除の抜本的な整理とあわせ」た導入としている以上、いわば検討段階であって、制度設計の全体像が一から十まで確定しているわけではない。
いわば全体像が確定しないうちに増税時期だけは2014年4月に8%、2015年10月に10%と早々と決めたことになる。
須田哲夫アナ「消費税増税の低所得者対策という、纏めて把えると、どういう考えを一番お持ちですか」
安住財務相「あのー、色んな世界をみますとね、あのー、このー、所得の低い方の対策っていうのがあるんです。
例えば、複数税率と言って、食料品だけは安くしましょうとか。様々な、あの、品目について、贅沢品はあー、法律のまま、生活必需品は安くとかね。
そういうことを採っているところもあれば、まあ、いわゆる所得税を、おー、控除対策を設けるとかね、所得税から、やっぱ、必要な増税分ぐらいは控除しますとか。
また、もっと、少ない方には給付をしたりとか給付状態は現金を直接お渡しするということですね。
あのー、所得全体がいくらか、それから貯蓄をいくら持っておられるのかなど、はっきり分からないので、そういうことを先ず、先程申し上げたましたけども、番号制度を導入させていただいて、やっぱり、ある程度、おー、そこは把握させていただいた上で、必要な方々に対してはですね、複数税率は今求めないで、あの、単一税率でいくつもりなんですね。
えー、これは、あのー、非常に複雑になりますから、じゃあ、食料品を扱っている会社は消費税かからないでやるのかですね、非常に複雑なもんですから、あの、今回は単一税率にさせていただく代わりに給付付き、イー、の控除制度等を設けると、いうことを基本に制度設計をしました」
単一税率にした理由の一つとして「食料品を扱っている会社は消費税」を掛けることにするのかどうか非常に複雑だと言っているが、商品流通の一番の川下である消費者から消費税を受け取っていないのだから、例えばスーパー等で販売したそのような商品に使用した原材料等に関しては消費税の支払いを免除していく逆の順序を取れば、何も複雑なことはないはずである。
日本から海外へ輸出する場合、消費税は内国税ゆえに海外の買い手に消費税を請求できない。海外輸出商品の仕入れや製造、完成までに発生した消費税は還付申請できる制度となっているが、還付制度ではなく、食品会社が扱うこれこれの原材料は流通の出発点まで遡って消費税は掛けないと最初から決めて、パソコンソフトに入力、売買伝票に自動的に記入されるようにしておけば、問題はないはずだと思うが、そうはならないのだろうか。
但し、「社会保障・税一体改革素案」が〈食料品等に対し軽減税率を適用した場合、高額所得者ほど負担軽減額が大きくなること、課税ベースが大きく侵食されること、事業者の負担が増すこと等を踏まえ、今回の改革においては単一税率を維持することとする。〉と言っているように、実質的には低所得者対策よりも、「課税ベースが大きく侵食され」て税収が減ることの回避を優先させた単一税率ということなのだろう。
しかし欧米では実施している軽減税率である。
須田哲夫アナ「鈴木さん、如何ですか。給付付きということになりますと、鈴木さんなりにいつも批判している、バラ撒きになるんじゃないかと指摘しておりますが」
鈴木教授「ですからね、まあ、そういう分配をやるときにはですね、きちんと所得が把握されていないと、まあ、ニセ弱者に、弱者だけじゃなくて、ニセ弱者にも分配してしまうということになるので、まあ、背番号制を入れるということはいいことなんですけども、ただ、背番号制もですね、きちんと試算を把握できるような、まあ、結局、所得を把握するためには、資産も一緒にみないとですね、あの、なかなかよく分からないということなので、まあ、ぜひ、資産の分かるような番号制にしていただきたいというふうに思います」
須田哲夫アナ「野口さん、共通番号制についてどうお考えですか」
野口総研顧問「あの、共通番号制を導入しても、直ちに所得が、あのー、把握できるわけではないんですね。ですから、これは大変なことで、10年や20年ではできないと思います。
ですから、給付付き税額控除など、実行不可能だということなんですね。で、あのー、消費税、あるいは付加価値税をやっているのはヨーロッパなんですが、ヨーロッパ、ヨーロッパの国では先程、大臣がおっしゃったように複数税率を採用しています。これが、あの、本当の措置なんですね。
イギリスでは食料品にはゼロ税率というのは適用してるんですね。で、本当はそれをやるべきです。ところが日本ではできないんです、技術的に。
ちょっと技術的な複雑な話になりますけれども、日本の、消費税はインボイスという制度がないんです。で、複数税率を実行するためにはインボイスがどうしても必要なんです。
今まで5%でしたからね。まあ、欠陥税でも何とか行ったんですが、10%の税率になったら、インボイスがないと、非常に大きな問題が起きます。
ですから、税率の引き上げということを言う前にですね、日本の消費税の制度を、きちんとした制度にするようにインボイスを導入する」
須田哲夫アナ「インボイスというのは、売値ですとか、消費税率を、その、含めた伝票ではっきりしている」
野口総研顧問「伝票です。あのー、取引に使う――」
安住「取引の段階でアカウント(=勘定)のところに、あのー、きちんと税率を入れた書類を、あのー、つくるというのが・・・・」
「インボイス」が何か、インターネットで検索した中で一番分かりやすい説明は、「製造元・卸売・小売と商品が流通する間の二重課税を回避するために、仕入商品のインボイス(納品書)に前段階までの支払税額が記され、次段階の税額からそれを控除する。EU諸国で採用されている。」で、このコンピュータ発達時代に複数税率であっても、各原材料・商品の税率が前以て数値化されていたなら、コンピューターが自動的に差引き計算してくれないということがあるのだろうか。
インボイス導入によって、脱税や租税回避防止につながるという指摘もインターネット上に散見する。
須田哲夫アナ「やっぱり指摘のとおりですか」
安住「これはね、あのー、確かにそういう意見が税調でも、政府税調でも相当に議論はしたんです。ただ、日本の商取引の仕組みが複雑なんですね。この、仕入れからですね、まあ、生産からですね、非常に多くの複数の会社が関わってきますので、そういう点から言うとですね、まあ、非常に、あの、簡易課税方式を取り入れたりしてきた、歴史があるのもですから、それで、その、今回は単一税率でやはり引き続きやらせていただいくと。
2年後の、2年3年後の話なんですね。野口先生の言うように、この制度は設計難しいものですから・・・・」
「簡易課税方式」とは、これもインターネットで調べたところ、預った消費税の計算は原則課税方式と同様だが、支払った消費税の計算は一切せず、その代わり預った消費税に一定率(みなし仕入率)を掛けて算出した額を支払った消費税と看做して、簡便的に納税額を計算する方式だそうだが、サービス業を営んでいる場合、簡易課税のみなし仕入率は50%の半分だそうで、メリットが生じることになる。
中小企業の事務煩雑化の防止のための制度導入だそうだが、消費税でメリットが生じること自体が問題となるはずで、その簡易課税方式を放置して、消費税のあるべき姿として提案されているインボイス制度を導入しないまま済まそうとしている。
さらに軽減税率の導入は「生産からですね、非常に多くの複数の会社が関わって」いる「日本の商取引の仕組みが複雑」さが障害となっていると言っているが、以前は生産者と消費者の間に卸問屋だ中卸問屋だ、小売業者だといくつもの中間業者が間に存在していて、それぞれが自分で相場を決め、手数料を決めて取っていたために不必要に高い商品・製品を消費者は買わされていたが、スーパー等ができて生産者からの直接の買い入れによって安い商品・製品が出まわるようになった。
また電化製品や自動車製造といった場合でも、中小の多くの下請が関わっているといっても、下請ごとに前以って単価を決められたほぼ一定の数の部品を扱っているのだから、単に下請け業者の数が多いというだけのことで、安住が言うのとは反対に日本の商取引の仕組みはかなり簡素化しているはずである。
要するに税収を増やそうとするための口実に持ち出した“日本の商取引の複雑さ”といったところで、このことから分かることは安住は財務省の回し者だということである。
平井解説副委員長「そうすると、共通番号制は時間がかかりますよねえ。それまでの間、この低所得者対策というのは例えば、失業対策とか、そういうことになるのですか」
このことに関して素案には次のように書いていある。共通番号制に基づいた総合合算制度や給付付き税額控除等の〈再分配に関する総合的な施策の実現までの間の暫定的、臨時的措置として、社会保障の機能強化との関係も踏まえつつ、給付の開始時期、対象範囲、基準となる所得の考え方、財源の問題、執行面での対応可能性等について検討を行い、簡素な給付措置を実施する。〉
「簡素な給付措置」を行うものの、どういう形を取るのか、あくまでも今後の検討で決めることであって、全体像が確定したわけではないことをさらけ出している。
安住「過去ですね、消費税を引き上げたときには、やはり、その、おー、福祉寄付という形でおカネを、やっぱり渡してるんですね。
そういう点ではですね、そういうことも参考にしながら、先ず給付をするということで、先ず、あの、サポートしたいなと、私、今、思っております」
現金給付ありきで、公平性という視点は持ち合わせていないらしい。
吉田恵アナ「直接現金を配るという――」
安住「方向としては、そういうことになるかもしれません」(以上)
野口悠紀雄早稲田大学ファイナンス総研顧問は、共通番号制は10年や20年ではできない、給付付き税額控除などは実行不可能だ、消費税はヨーロッパのように食料品はゼロ税率の複数税率を採用するのが本当の措置だ、そのためには税率の引き上げということを言う前に日本もヨーロッパのようにインボイス制度を導入すべきだと、公平性の観点から提言しているが、安住だけではなく、野田内閣全体が公平性の観点も正確さの観点も持ち合わせていないからだろう、消費税増税の全体像が決定しないうちから増税時期を決定し、預金しないでタンス預金することで隠すことができる、正確な資産状況の把握不可能な、またいつ導入できるかも不透明な共通番号制を持ち出して、バラ撒きになると指摘を受けている給付付き税額控除を以てして税収増優先の観点を隠して低所得者対策だと言い募っている。
全体像が確定しているわけではないから、国民に具体的に説明することもできない。
無責任な消費税増税姿勢となっている。 |