「ウソつきは泥棒の始まり」という諺は多くの邪事(よこしまごと――道理に外れたこと)がウソつきの性格を端緒としていることから夢々ウソをつくなという戒めを含んでいるはずだ。
野田首相や岡田副総理の発言にあまりにウソが多く、二人に「ウソつきは泥棒の始まり」という言葉を冠したいばっかりにこれまでも野田社会保障制度が不完全であることを何度も書いてきたが、改めてその不完全さやその他が二人に強いることとなっているウソ発言を取り上げてみることにした。
3月6日(2012年)衆議院予算委員会。社会保障と税について集中審議が行われた、その午前の質疑。
岡田康裕民主党・無所属クラブ「閣議決定した大綱の中に(消費税の)逆進性を踏まえて2015年度の番号制度の本格稼働定着実施を念頭に関連する社会保障制度の見直しや所得控除の抜本的な整備と併せて、総合合算制や給付付き税額控除など再配分に関する総合的な施策を導入するとしています。
この施策の実現までの間、暫定的な臨時的措置として簡素な給付措置を実施すると明記されていますけど、この文章をストレートに読むと、これはかつての平成元年の消費税導入時と平成9年の(3%から)5%への引き上げ時にワンショットで1年だけ臨時福祉特別給付金を1万円ずつおカネを配ることをなさっております。
配られた対象は生活保護受給者の方だったり、福祉年金受給者であったり、児童扶養手当受給者であったり、70歳以上高齢低所得者の方と。これは住民税非課税措置をされている方々です。
平成9年の消費税引き上げ時は65歳以上の高齢低所得者の方であったりと。そういうふうに1万円配っていたりする。
この制度のことを思い返すような大綱の書きぶりなんですけども、この時は1年ポッキリのワンショットです。その理由を聞いていけば、年金給付とか生活補給部が物価スライドしてくるところが1年ぐらいタイムラグあるので1回だけやったんだという理屈なんだろうと思うが、この大綱の書きぶりからすると、給付付き税額控除というのができるまでの間、何年かこういうことをするというイメージですけれども、そのあたりはそういう理解でよろしんでしょうか」
岡田副総理兼社会保障と税の一体改革担当相「これは委員、あのー、いま読み上げられたとことにも書いてあることでございますが、あのー、詳細な制度設計はこれからでございます。
で、給付開始時期とか対象範囲、基準サービスの考え方、財源の問題、そういったことについて今後検討していくということであります。
ただ、あー、我々がこういった簡素な給付措置を考えました。あー、その理由は今委員、ご指摘されたとおりですが、総合合算制は、あるいは給付付き税額控除、こういった、ま、いわゆる恒久的な制度を入れるに当って、これはやはり番号制度、マイナンバー制度などが、念頭にありますので、少し時間がかかると考えておりますので、まあ、そういった、あー、なんて言いますか、そういったことを含めて、えー、詳細な制度を考えていかなければならない。
従来型の1年だけの、オー、まあ、何て言いますか、バラマキ型と言ってしまっていいかどうですか、ま、そういったものとは違ったものになるのでないかと思っています」
岡田康裕議員の質問時間はこれで終わり。
岡田副総理の答弁を要約すると、野田内閣の社会保障制度の「詳細な制度設計はこれからで」、恒久的制度とするには、「詳細な制度を考えていかなければならない」から、「少し時間がかかる」ということになる。
いわば完成前で不完全だと言っている。
不完全なのは大綱自体が「検討します」、「見直します」といった将来的決定事項の言葉を氾濫させていることからも分かっていたことだが、不完全であるにも関わらず、「社会保障と税の一体改革」と称する以上、両者は内容決定に関して相互対応した一体性を備えていなければならないはずだが、社会保障制度の中身が決定しないうちに片方の消費税の増税率とその税収の配分対象と配分比率、さらに増税時期のみを早々と決定させてしまったことは「一体改革」というスローガンをウソにするだけではなく、野田首相や岡田副総理が「一体改革だ、一体改革だ」と言ってきた言葉までがウソだったことを証明するはずだ。
つまり二人はずうっとウソをついてきた。勿論二人だけではないが。
ウソをつく政治家は信用できるだろうか。
社会保障制度の「詳細な制度設計はこれからで」あるなら、まずは完成した設計図を国民に示すべきを、完成もしていないのに国民の理解を得ると称して新聞広告に3億円ずつ2度、計6億円も使った。
内容が不完全な社会保障制度を6億というカネをかけてまでして国民から理解を得るという逆説を伴った行為は詐欺そのもので、ウソつきは泥棒の始まりと言うようにウソから始まって詐欺にまで到達した一例と言える。
このことは同じ趣旨で関係閣僚が全国展開している対話集会についても言える。「詳細な制度設計はこれから」だという不完全な社会保障制度を担保にした消費税増税を、不完全な社会保障制度と共に理解してください、賛成してください、支持してくださいと訴えているのだから、ウソを言っていると同時に詐欺としか言いようがない。
いや、欠陥商品を高額で売りつけて消費者から大金をふんだくるのと同じで、不完全な社会保障制度で国民から消費税を出させるのだから、もはや泥棒と言える。
ウソつきは泥棒の始まりどころか、泥棒となるは目前である。
同じ日の午後の質疑。
坂口力公明党議員「政府・民主党は年金一元化(所得比例年金と最低保障年金の一元化)の試算を発表しないことにした。論議を重ねてマニフェストにも書いたし、詳細な試算を出した。
拝見したが、かなり詳しい試算だと思っているし、十分な分析だと思う。マニフェストに書いてあるのだから、その前の党内でも議論を尽くして合意を得て、マニフェストに出した。
しかし試算を発表しないことにしたのはどういう意味なのか。ちょっと使いものにならないと思ったのか、そうではなくて、5%の消費税の話を言っているときに別途7.1%の、消費税に換算してのお話だが、7.1%が必要になるというような議論をするのは議論を混乱させるから先送りしようということになったのか、その辺の事情を総理からお聞かせいただきたい」
岡田副総理兼社会保障と税の一体改革担当相「今、ご指摘の、おー、議員の発表しないことにしたというのは、最近の話をお指しになったというふうに理解いたします。
えー、まあ、党の中の一部で、えー、試算をしたものがあったと。
おー、ただ、それは党として、えー、何か決定したものではなかったと、いうことが先ずございました。私は当時幹事長でしたが、試算したことは自身も知りませんでした。しかしその数字が、あー、メディアなどを通じて明らかになったと。
えー、但し、どうしてもメディアの扱いも含めてですね、消費税7%とか、まあ、あの、4つのケースがあるにも関わらず、その4つの、ま、一番手厚いものが、しかもすぐに上がるような印象を持って伝えられましたので、少しこれは一区切り置いた方が混乱を招かないだろう、ということで、えー、とりあえず試算は、あー、先送りすると発表は、いうことにしました。
結果的には約1週間経って、そういう報道も少し収まったところで、えー、そういうものが、えー、あるということについては党の方から発表させていただいたと。
勿論それは党が決定したものではないという、そういう説明も含めて発表させていただいたと、いうことでございます」
平気でウソをつくとはこのことをいうはずだ。
メディアが誤解を与える扱い方で伝えたことが国民に間違った印象を与えたから、発表を差し控えたと言っている。
試算したなら、直ちに公表して抜本改革を目指すとしたらこうなると詳しく説明して国民に覚悟を求めるべきを、それが不退転の決意というものだが、そういった手順を踏まずに公表しないまま隠した。
その結果、あれこれと不必要な憶測まで呼んだのであって、それをメディアに責任転嫁するのはウソを言っている類に入る。
このことは「不退転」だと言っている姿勢をも結果的にウソにしていることになるはずだ。
また、「約1週間経って」「報道も少し収まった」から公表したというのもウソもウソ、ウソっぱちである。野党が公表しないのは「隠蔽だ」と反発、公表の激しい要求に抗し切れずに止むを得ず従ったというのが実態である。
自分たちの立場を都合よく見せるためによくもまあ次々とウソがつけるものだと感心させられる。天下の副総理がである。
野田首相は3月4日の日本テレビに出演、発言している、その要旨を、《首相発言要旨》(時事ドットコム/2012/03/04-20:36) が伝えている。社会保障と税の一体改革に触れた発言のみの抜粋。
小沢一郎元代表が消費税増税に反対していることについて。
野田首相「一体改革の議論は昨年1年間ずっとやってきた。丁寧に時間をかけた。特に素案了承の時は深夜まで100人残り、拍手で終わっている。100対0で決まっている。その党内手続きを経て、法案を提出しようとする。基本的に皆さんの理解をいただけると思う。説明が必要な方がいるならば、当然お会いしたい」
発言が前後で矛盾している。
素案了承は「100対0」で決めた、それを以て党内手続きを踏んだとするなら、その時点で「皆さんの理解をいただけ」たということになって、今の時点になって「基本的に皆さんの理解をいただけると思う。説明が必要な方がいるならば、当然お会いしたい」と言うのは「100対0」と言っていることをウソにすることになる。
2月29日(2012年)の谷垣自民党総裁との党首討論でも同じ趣旨のことを発言していたが、現実には否定し難い事実として党内に消費税増税反対派を相当人数抱えているのである。その事実はウソとすることはできない。
にも関わらず、党首討論で党内手続きを踏んだ、民主的プロセスを経た、党議として決定した等々と言ったのは反対の事実をウソとするウソをついていることに他ならない。
社会保障と税の一体改革の発言ではないが、野田首相がメディアとのインタビューでも国会答弁でも、「尖閣諸島は我が国固有の領土で、領土問題は存在しない」と言っていながら、日本の排他的経済水域(EEZ)を確固とした形で根拠づけるためにEEZの起点としている離島の国有化に動いたが、尖閣諸島周辺4島の国有化を対象外としたのは「領土問題は存在しない」の発言をウソにする国有化であろう。
「領土問題は存在しない」から国有化の対象から外したのだと言ったとしたら、ウソを通り越して国民に対する詐欺となる。
なぜなら尖閣諸島周辺の排他的経済水域(EEZ)をこそ、国有化というこれ以上ない確固とした形で誇示しなければならない必要に迫られているはずだからだ。
「ウソつきは泥棒の始まり」である。
国民は首相や副総理にウソつきを望んだわけではないはずだ。