野田首相が消費税増税の経済に与える影響として経済活性化の要素もあるとする国会答弁を《消費増税で「経済活性化」=首相、歳出削減に努力表明》(時事ドットコム/2012/03/16-13:12)が紹介している。
3月16日午前参院予算委員会集中審議。自民党の片山さつき議員への答弁である。
野田首相「将来への不安をなくしていくことで消費や経済を活性化させる要素もある」
記事は続いて、〈社会保障の安定化によるプラス効果を強調〉したと解説――
野田首相「総合的に勘案すべきだ」
この発言は、〈増税への理解を求めた。〉内容だとしているが、要するに経済抑制の側面からのみ見ないで、活性化の面も見て、総合的に勘案して欲しいという理解要請ということなのだろう。
その一方で――
野田首相「全世代で公平に分かち合う安定財源だ」
いわば消費税増税は経済抑制の要素もあるし、経済活性化の要素もあるし、「全世代で公平に分かち合う安定財源」としての要素もあると並べ立てている。
具体的には次のように国会答弁している。
野田首相「消費税の経済への影響でありますが、勿論、影響がないようにするためのポリシィミックスというか、いろいろな政策は講じなければいけません。
そのことは与野党協議の中でじっくりと議論させていただきたいというふうに思いますが、一方で、あの、先程我が党の議員との遣り取りにもありましたけれども、将来に対する不安をなくしていくことによって消費や経済を活性化という要素もあるんで、その辺は経済への影響は総合的に勘案しなければいけないというふうに思います」
無学ゆえに「ポリシィミックス」という単語の意味を知らなかったから、インターネットで調べてみた。「マクロ経済において、いくつかの政策手段を同時に使い、政策目的を実現すること」だそうだ。
「消費や経済を活性化という要素もある」とする発言は巷間広く言われている経済抑制の要因となるという、要するに景気を悪化させるという指摘を半ば肯定し、その肯定を前提としている。決して後者の確固とした否定ではなく、また前者の自信を持った肯定でもない。
後者の絶対的否定の上に前者の絶対的肯定は成り立つはずだし、そのように成り立たせてこそ、消費税増税実現の不退転の正当性を得ることができるはずだが、そうなっていないところを見ると、景気や国民の生活よりも安定財源の確保、財政の安定化をより優先させた消費税増税のようだ。
だから、「全世代で公平に分かち合う安定財源だ」とする発言を口にすることになったのだろう。
頭の中に記憶している野田首相の国会答弁だが、同じ趣旨の発言をしている。
野田首相「社会保障が充実することによって国民が生活に安心を得て、その安心が消費に向かってモノが売れると、企業活動が活発化して景気が回復し、雇用が生まれる」
こういった趣旨の発言をしていたと記憶している。
充実した社会保障制度の提供による景気循環説である。
要するに野田首相は消費税増税を安定財源とした社会保障制度を、「消費や経済を活性化という要素もある」との発言とやや矛盾するが、いずれにしても経済活性化・景気回復の契機として位置づけ、持論としているということになる。
野田内閣は消費税増税を財源としてそのような充実した社会保障制度を国民に提供する。
果たして野田首相が掲げるこの景気循環説は可能だのだろうか。
上記片山さつき自民党議員が質問をした同じ3月16日の参院予算委員会のトップバッターは川合孝典民主党議員であった。
先ずパネルを提示、『少子高齢化』、「雇用環境の変化』、「家族のあり方の変容』、「経済成長の停滞』の項目が並んでいて、『少子高齢化』は「人口減少社会の到来・急激な高齢化」、『雇用環境の変化』は、「非正規労働者の増加」。『家族のあり方の変容』は、「三世代同居の減少」、「高齢独居世帯の増加」、『経済成長の停滞』は、「少子高齢化等による構造的停滞」とそれぞれに説明がついている。
川合議員「このパネルは近年の社会情勢の変化を大きく纏めたものの資料をパネルに纏めさせていただきました。ここ30年、40年の間で、この日本という国がどういう形で変わってきたのか、表しているわけでわけですが、えー、少子高齢化、雇用環境の変化、そして経済成長の停滞、えー、こういうことでありますし、併せて、私、注目しておりますのは家族のあり方の変容というところであります。
経済の方では少子高齢化のこと、雇用環境のことについてはよく議論されるのですが、家族のあり方が変容していることにつては実は、分かっているようであまり認識されていない問題で、1970年代に、世帯主65歳以上の単身・夫婦のみ世帯、960万世帯が2010年の時点では何と、1081万世帯まで増えている。
こういう形で家族のあり方が変容してきている。従来、2世帯、3世帯同居によって家族が担ってきた部分自体を国が担わなければいけないという形に変容してきている。
こういう近年の経済の変化を踏まえてということだが、今なぜ社会保障と税の一体価格を行わなければいけないのか、野田総理から分かりやすく説明していただきたいと思います」
野田首相「お早うございます。今の社会保障制度の根幹は国民皆年金、国民皆保険、約半世紀に前に作られました。その後、今、パネルでお示しいただいたようにですね、人口構成も、経済、雇用をめぐる状況も、ご指摘いただいた家族のあり方だけを見てもですね、まあ、いまよく、またよくテレビでサザエさんやっていますが、あの、波野家の3世代が住むような、そういう家族は少ないようですね。
(注意されて、笑いが起きる。自身も笑いながら、)磯野波平でした。ごめんなさい。磯野家。
というように、相当変わってきています。こうやって人口だけを見てもですね、えー、かつては制度が作られた頃は、たくさんの人が一人の高齢者を支えるから、よく申し上げるんですけども、あの、胴上げの社会が今は、まさに、3人が1人を支えるという、そういう、騎馬戦型の社会になり、2050年代が1人が限りなく1人を支えるという時代を迎えますので、そういう劇的な変化を踏まえて、社会保障制度を持続可能なものにしていかなければならないという状況が生まれてるというふうに思います。
特にそういうふうに人口構成で申し上げましたけども、従来は給付は、え、高齢世代中心、負担は現役世代中心、ということで、ございました。
それでは持続可能性がなくなってしまいます。現役世代中心というよりも、今は将来世代のポケットに手を突っ込んで、赤字国債で対応すると、いう状況ですから、これも問題であります。
そういう意味から、給付に於いてもですね、全世代対応型、特に支える側、人生前半の社会保障の子育てのところにも、これまで手薄だったものですから、その手厚くしていかなければいけないということと、それから、ご負担をいただく面に於いても、現役世代中心で支えるんではなくて、これは全世代で、即ち、社会保障の恩恵、サービスを受けるとき、どの段階、どういう形で我々受けるか分かりませんが、どの方も対象になり得ると思うんです。
子どもを育てる、老後を迎える。失業するかもしれない、病気をするかもしれない。そういうことであらゆる人がこの社会保障とは無縁ではないというふうに思いますので、その意味では全世代で公平に分かち合うという意味に於いて、安定財源支える財源として消費税で支えたらどうかという、今、ご提起させていただいているということで、こういうことをしっかりと国民の皆様にご理解いただくように説明を尽くしていきたいというふうに思います」
要するに野田首相は消費税増税を安定財源として充実した社会保障制度を提供する。その充実した社会制度が老後の心配はない、病気しても心配はないということになって国民の生活に安心を与え、その安心が生活を豊かにする消費へと向かい、社会を活性化し、経済を活性化する。
だが、そのような活性化した社会、活性化した日本の国は2010年に1億2806万人だった人口が2048年に1億人を割り込み、2060年には約4000万人少ない8674万人になると予測されている人口減少社会を前提としている。
このことは「かつては制度が作られた頃は、たくさんの人が一人の高齢者を支えるから、よく申し上げるんですけども、あの、胴上げの社会が今は、まさに、3人が1人を支えるという、そういう、騎馬戦型の社会になり、2050年代が1人が限りなく1人を支えるという時代を迎えます」という発言が証明していることであり、だからこそ、人口減少社会に対応した全世代対応型の社会保障制度ということであって、他の多くの場でも人口減少社会を前提とした似た趣旨の発言を行なっている。
一例として、1月24日(2012年)第180回国会野田首相施政方針演説での発言を見てみる。
野田首相「 団塊の世代が『支える側』から『支えられる側』に移りつつあります。多くの現役世代で一人の高齢者を支えていた『胴上げ型』の人口構成は、今や三人で一人を支える『騎馬戦型』となり、いずれ一人が一人を支える『肩車型』に確実に変化していきます。今のままでは、将来の世代は、その負担に耐えられません。もう改革を先送りする時間は残されていないのです。
過去の政権は、予算編成のたびに苦しみ、様々な工夫を凝らして何とかしのいできました。しかし、世界最速の超高齢化が進み、社会保障費の自然増だけで毎年一兆円規模となる状況にある中で、毎年繰り返してきた対症療法は、もう限界です」
人口減少を前提とし、そのことに対応させる社会保障制度であり、毎年一兆円規模となる社会保障費自然増を前提とし、そのことに対応した社会保障制度改革だとしている。
いわば、すべてに於いて現状追認となっている。人口減少という現状を追認し、毎年一兆円規模の社会保障費自然増という現状を追認した対処療法で国家経営を図ろうとしている。
「肩車型」から「騎馬戦型」、さらに「胴上げ型」という、現状追認に逆らう発想――原因療法はどこにも見当たらない。
国家経営とは自身が思い描いたカタチで国をつくることである。当然、野田首相は人口減少社会を基盤とした国のカタチを模索していることになる。
だが、人口減少社会は同時併行で生産年齢人口の減少を伴う。上記の2060年に向けた人口減少予測は同時に労働力の中心となる15歳から64歳までの生産年齢人口が現況から半数近く減少して4418万人になると予測している。
その分、高齢者が社会を占めることになる。
野田首相は消費税増税を安定財源とした社会保障制度が「将来への不安をなくしていくことで消費や経済を活性化させる要素もある」と主張しているが、人口減少社会を基盤に据えて国のカタチとするとは明確に説明していない。
果して人口と共に減少していく生産年齢人口の生産と消費を上回る生産と消費を国民に生活の安心を与える、対処療法としての社会保障制度一本槍で創出可能かどうかの具体的かつ詳細な説明もない。
勿論、様々な景気政策を打っていくだろうが、現在の少子高齢化と共に年々の生産人口減少化に伴う経済の縮小・生産減少を相殺可能とする設計図を示しているわけでもない。
要するに人口がこれだけ減っても、経済縮小に向かわせることはありません、経済大国としての地位と経済大国にふさわしい国民生活を確保することを約束しますという説明である。
社会保障制度の充実ばかりを言う国のカタチとなっている。