北朝鮮が金日成生誕100年に合わせて4月12日から16日までの間に「ロケットを使って人工衛星を打ち上げる」と発表。《北朝鮮“人工衛星”打ち上げ発表》(NHK NEWS WEB/2012年3月16日 13時7分)
北朝鮮国営メディア「来月12日から16日までの間に、地球観測衛星『クァンミョンソン3号』を積んだ運搬ロケットを、西部ピョンアン北道にある発射場から南の方向へ打ち上げる」
国家財政と国家経済の脆弱性に反した軍事面に限った頭デッカチの独裁者国家の危険性は、よく言われているように、その脆弱性を支えきれなくなって国内的に混乱し、それが収拾のつかない状態で騒乱化した場合、そのような事態は国家権力の正当性を否定することになるゆえに国家権力は自らの権力の正当性を維持するために国内の騒乱を隠す目的で対外的な暴走へと走ることであろう。
衛星打ち上げはそれを口実として、実際には過去の例と同様にミサイルの発射実験だという。〈人工衛星の打ち上げの発表は、事実上の長距離弾道ミサイルの発射を予告したものと言え、先月のアメリカとの協議で北朝鮮は長距離ミサイルの発射の凍結を約束したばかりであるだけに、国際社会からの強い反発が予想されます。〉――
北朝鮮国営メディア「強くて盛んな国、強盛国家の建設を進めている、わが軍隊と人民を力強く鼓舞するであろう」
鼓舞されるのは独裁権力層とその層と利害関係を一蓮托生としている一部人民だけなのは否定できない。日々の食料に満足にありつけない大多数の人民にとって、ミサイル発射に費やす国家財政は国民の食糧をなお遠ざける腹の足しにもならない阻害材料、あるいはマイナス材料となることは間違いない。
《北朝鮮の発射費用、709億円 コメ141万トンに相当》(47NEWS/2012/03/20 12:01 【共同通信】)
3月20日付韓国紙「朝鮮日報」が韓国政府筋の話としての報道だとしている。
打ち上げの関連費用が計約8億5千万ドル(約709億円)と推定。〈8億5千万ドルは今年2月の相場でコメ141万トンに相当。〉――
これだけで終わらない。〈故金日成主席の誕生日である4月15日を中心に行われる生誕100周年の記念行事には20億ドルが費やされる見通しという。〉と補足している。
金正日の後継者金正恩は自身の国家権力就任の正統性獲得の一方法として年内に食糧配給を計画しているということだが、その配給を外国からの食糧支援に依存しようとしている以上、優先させるべきはミサイル発射実験ではなく、食糧配給でなければならないはずだが、一方で外国からの食糧支援に頼りながらミサイル発射や式典に膨大な国費を費やすところを見ると、国家権力者の最大の務めである国民の生命・財産の保障は熱意を向けるべき対象とはなっていないようだ。
北朝鮮のミサイル発射予告に国際社会は当然反発し、様々に警告を発しているた。だが、警告は変わり映えのしない批判の展開となっている。朝鮮半島の平和と安定、国連安保理決議違反、国際社会全体に対する脅威等々、繰返してきた批判・警告の改めての繰返しとなっている。
またミサイル発射は金正日からその子の金正恩への権力継承に期待した淡い“変化”を水の泡とさせ、失望させる転換点とのなるはずだ。
《韓国大統領“北朝鮮は変化の機会”》(NHK NEWS WEB/2012年2月22日 14時46分)
残り1年程となった2月22日(2012年)のソウルの大統領府での記者会見。
李明博大統領(金正恩が新たな最高指導者になった北朝鮮について)「変化するにはよい機会であり、誠実な姿勢を見せるならば、対話も受け入れる。
今は、未来に向けて変化するには非常によい機会だ。南北の平和と安定のため、北が誠意ある姿勢で話をしようというならば、われわれは心を開いて受け入れる」
国民の人権を何とも思わない、抑圧一方の独裁者に「誠意ある姿勢」を期待するのは逆説以外の何ものでもない。誠意なき姿勢が”保障している独裁権力だからである。独裁者の「誠意ある姿勢」は二律背反そのものであって、両立することは決してない。
ブログに書いてきたことでもあるが、金正恩は自身の権力の正統性は父親の金正日の国家権力者としての存在自体とその独裁権力を正義と位置づけることによって獲得可能となり、自身をも国民に対して正義の存在とし得る。
父親を否定した場合、自身の権力継承をも否定することになる。独裁権力を正義と価値づけること自体が逆説そのものであるが、金正日総書記生誕70年記念の行事を2月16日(2012年)を盛大に欠いさしたことも、金日成生誕100年の祝賀行事を今年4月に予定していることも、父祖対自身とその権力の連続性を正義と価値づけていることからの行事であろう。
独裁権力の父子継承自体を止めることができなくても、国際社会が賛成でないことを知らしめ、圧力を加えるためにもその権力の継承に反対の声を上げるべきだったが、さしたる声を上げることはなかった。
ミサイル発射予定に対する各国の変わり映えをしない警告を見てみる。
《米大統領 打ち上げ計画撤回求める》(NHK NEWS WEB/2012年3月25日 19時37分)
オバマ大統領は3月26日からソウルで開催の核セキュリティーサミットに出席するため、韓国を訪問し、25日午後5時半過ぎから1時間余り李明博韓国大統領と会談した。記事は二人が、〈国連安保理の決議に違反し、国際社会に対する挑発だという認識で一致したことを明らかにしました。〉と伝えているが、決議違反も国際社会に対する挑発も常套句となっている警告・批判の類いに過ぎない。北朝鮮の国家権力者たちは耳にタコができている、聞き慣れた言葉と映るに違いない。
さらに李明博大統領が、〈北朝鮮が挑発に踏み切れば断固とした措置を取ることを表明し、北朝鮮の出方を牽制するとともに北朝鮮が核やミサイルを放棄すれば国際社会が支援する用意があると表明し、北朝鮮に対し、打ち上げ計画の撤回を求め〉たと伝えている。
オバマ大統領「ミサイルの発射は国連安保理決議に違反しており、北朝鮮の孤立を深めるものだ。脅しや挑発によって得られるものは何もない」
強行することが強い指導者としてのイメージ、姿を演出することができる。警告を受けて中止したなら、強い指導者としてのイメージ、姿を自ら引っ込めることになり承服し難く、張子の虎の悪評を恐れることになる。オバマ大統領は「脅しや挑発によって得られるものは何もない」とは言っているが、何らかの経済的な見返りを得なければ、強い指導者としてのイメージ、姿を維持したままの中止の正当性は獲得不可となる。
我が日本の野田首相。《北朝鮮:ミサイル発射予告 野田首相「自制求める」 PAC3、首都圏配備》(毎日jp/2012年3月26日)
3月26日午前の参院予算委員会。ソウルで開催の核安全保障サミットで関係国と連携し、北朝鮮に自制を求めていく考えを表明した上で――
野田首相「明確な国連安保理決議違反だとしっかりと主張する。北朝鮮が発射を行えないように強く自制を求め、国際社会と問題意識を共有して一緒に働き掛けたい」
しっかりと主張してくださいと言いたいが、そんなことで思いとどまる北朝鮮ではないし、そんなことで踏みとどまった過去の例もなかったはずだ。
記事題名の「PAC3、首都圏配備」の由来。
田中防衛相(人工衛星の打ち上げが強行された場合に備えて、「パトリオット(PAC3)」について)「(09年の)前回例にならい、首都圏でも配備をしていくことを考えている」
前回、国際社会の批判に関わらず、発射は強行された。
同じ3月26日の参院予算委員会。《野田首相:北朝鮮「衛星」打ち上げならペナルティーを》(毎日jp/2012年3月27日 0時52分)
野田首相「国連安全保障理事会決議違反の形で強行されれば、あらゆるペナルティーを科すべく知恵を出さないといけない」
北朝鮮は国際社会からの金融制裁や経済制裁等々を潜り抜けてきて、再びミサイル発射を強行しようとしている。要するにペナルティーは功を奏さない歴史を担ってきた。
27日の第2回核安全保障サミットの演説では次のように表明する予定だそうだ。
野田首相「国際社会の(核)不拡散の努力にも反し、国連安保理決議に違反している。北朝鮮が発射を自制することが国際社会の強い要請だ」
「国際社会の強い要請だ」に効き目があれば、我が日本の優れたリーダーたる野田首相が核安全保障サミットの会議の場でわざわざ「北朝鮮が発射を自制することが国際社会の強い要請だ」などと言わずに済むはずだが、「国際社会の強い要請」がどの程度のものか合理的に判断する能力を欠いているわけではないだろうから、他に言うことがなくて紋切り型の常套句を口にしたといったところなのだろう。
百万遍同じことを聞かれたなら、百万遍同じ言葉を繰返したに違いない。
国際社会が朝鮮半島の平和と安定、国連安保理決議違反、国際社会全体に対する脅威等々のみを問題とするのは極度の経済的困窮を味わわされ、人権抑圧に苦しんでいる人間扱いされていない北朝鮮国民の存在性自体に対する視線、問題意識を比較欠如させているからだろう。
もし北朝鮮国民の経済的困窮、人間らしさの剥奪に主眼を置いていたなら、北朝鮮国家を対象とした対外的な影響としての朝鮮半島の平和と安定、国連安保理決議違反、国際社会全体に対する脅威等々の批判ではなく、国民を対象とした国家権力の質そのものへの批判、程度の悪さに対する嫌悪の感情を展開するはずだ。
このことに関しては既に2010年2月7日の当ブログ記事――《北朝鮮独裁者金正日の「トウモロコシ飯」から「白いご飯」への約束を阻む独裁政治のパラドックス - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に次のように書いた。
〈国家指導者の為すべきことは満足のいく衣食住の保障を含めた国民の生命と財産と基本的人権の保障を確立し、維持することであるにも関わらず、独裁者の存在自体がその保障を蹂躙する元凶であり、国家指導者としての資格を失うなら、国際社会は独裁者を排除する行動を一致して取るべきだが、北朝鮮に限ってはテーブルに就く交渉によって却って独裁者の地位にとどまることを許している。
さらには金正日が自身の独裁権力をその子ジョンウンに父子世襲すべく企み、北朝鮮国民の生命と財産と基本的人権の保障蹂躙の元凶である北朝鮮の独裁政治が維持されようとしていることに対しても手をこまねいている。
そういうことなら、国際社会が最低限すべきことは北朝鮮に対して、「国家予算を国民を満足に食べさせる方向に有効に支出せずにその多くを核開発、ミサイル開発等の軍備増強にまわし、尚且つ外国からの食料援助をムダにし、国民生活の困窮を放置状態に置いて、結果として国民の生命・財産と基本的人権を保障せずにいるのは国家指導者としての責任の放棄に当たり、国家指導者としての資格がない」とするメッセージを常に発して、国民生活向上への政策へ転換させるせめてもの圧力とすべきではないだろうか。〉――
ミサイルの開発・発射、核開発に国家の貴重なカネを使うよりも北朝鮮国民の飢え・食糧不足にこそ、そのカネを使うべきで、そうすることが国家権力者の最大の務めであり、それを果たすことのできない指導者は国家権力者としての資格を失うといった批判に重点を置いて、そういった批判を通してミサイルの開発・発射、核開発を断念させるべく圧力をかけるべきではないだろうか。
またそうすることによって、変わり映えのしない警告により強いメッセージ性を込めることができるように思えるが、どんなものだろうか。