安倍晋三200兆円規模大型公共事業を橋下徹の「政治家と官僚の役割分担論」から読み解く土建国家逆戻り

2012-12-07 09:41:43 | Weblog

 橋下徹「日本維新の会」代表代行は衆院選公示後もツイッターで対立政党の政策を批判、公職選挙法違反の恐れのある呟きを繰返していたが、公職選挙法違反覚悟の強固な確信犯行為かと思ったら、1日で尻尾を巻いて撤退。但し公職選挙法違反に触れない範囲で持論としている、政治家は政策の方向性の提示が役割で、行政官僚は制度設計・工程表作成が役割だとする「政治家と官僚の役割分担論」だけは巧妙にも呟き続けている。

 橋下徹の12月5日ツイッターの呟きに入る前に、11月29日(2012年)、「日本維新の会」石原慎太郎代表と橋下徹代表代行の衆院選公約発表記者会見から、橋下徹の持論に触れた発言から。

 橋下代行「(政策の)工程表は官僚が作る。政治家に制度設計をつくれというのは無理だ。分かっていない国会議員は自分たちで工程表を作ろうとするが、ほとんど実行できない。メディアは旧太陽の党と一緒になったときに、橋下の原発政策は変わったと(指摘した)。書くだけでいいなら、なんぼでも書くが、実行するかどうかが問題だ。政治家の(示す)方向性は、原発をこのまま増やしていくか、新しいエネルギー供給体制を目指していくかだけだ。それを基に官僚に工程表を作ってもらう。

 (工程表が)2020年代(原発)ゼロになるのか、30年代ゼロなのか、40年代ゼロなのか、50年代ゼロなのか。それがいいか悪いかを最後判断するのが政治だ。30年代ゼロを気持ちとしては捨てていないが、選択肢ができていない。だから、今回の骨太では工程表を示していない。官僚では絶対できないセンターピン(重要なポイント)になるようなものをまとめた。『政策実例』は決まったことではない。議員がアイデアとして出したもので、まだまだ議論の余地がある」――

 橋下徹(脱原発の工程表を)「唯一言えるのは民主党ですよ。それは内閣持っててね、行政組織使えるわけですから」

 前の発言はまさしく政治家は方向性の提示、行政官僚は制度設計・工程表作成が役割であるとする政策の構築と実現に於ける「政治家と官僚の役割分担論」となっている。

 そういうふうな役割分担であるからこそ、後の発言が出てくる。前後の発言を通じた趣旨は、政治家ができることは方向性を提示することのみで、その方向性に従って官僚が制度設計・工程表作成の役割を担うから、行政組織を使うことのできる政権担当の民主党のみが工程表や制度設計を提示することができると。

 この発言を裏返すと、行政組織を使うことのできない野党はどの政党も脱原発の工程表を作ることも言うこともできないということになる。

 原子力の専門家や経済の専門家でもダメ、原子力行政、あるいは国のエネルギー行政に関わった元官僚でもダメ、現役官僚でなければ不可能だと制限を課している。

 現役官僚こそ、制度設計と工程表作成の全能者だと。

 この時点で既に橋下徹の「政治家と官僚の役割分担論」に悪臭が立ち、矛盾が潜んでいることに気づくが、12月5日のツイッター呟きは「政治家と官僚の役割分担論」に添いつつ、厳密であるべき政治家と官僚の役割対象を崩して、そこに専門家を加える巧妙な修正を忍ばせている。

 橋下徹「政治家が方向性を示して、官僚組織や専門家に議論させる。議論が膠着したら、政治家の決定で、先に進める。そして複数案の中から、最後選択する。これが政治家の役割であり、政治行政マネジメントだ。専門的領域まで政治家が議論・検討するなら、それこそ官僚組織は不要になる」――

 橋下徹「今は、脱原発依存体制の構築と言う方針を掲げ、官僚組織や専門家に徹底的に議論してもらい、具体的工程表を作ってもらう段階。具体的工程表が確定してから、国民の皆さんに宣言するのが、責任ある政治・行政」――

 公約発表記者会見では、(脱原発の工程表を)「唯一言えるのは民主党ですよ。それは内閣持っててね、行政組織使えるわけですから」と、方向性提示の役割と制度設計・工程表作成の役割を前者は政治家、後者は行政官僚と厳格に規定していたはずが、12月5日のツイッターでは「専門家」を官僚だけとしていた後者の役割に割り込ませている。

 この「専門家」の参入は公約発表記者会見での「専門家」否定に矛盾する発言となる。

 橋下徹「工程表作りなんていうのは選挙で選ばれた僕ら公選職が作れるわけないですよ。

 で、原発を、これを、可能な限り収束させていくね、プランなんていうものを、政治家とその周りの取り巻きのブレーンだけで作れなんて絶対あり得ない」

 この「ブレーン」の中に原子力を加えたエネルギー担当の元官僚や経済政策担当の元官僚、さらに民間の原子力発電の専門家、経済の専門家を入れることができるだろうし、基本は発想であり、創造性であるから、現役の行政官僚主導でなくても、「卒原発」のプランは作成できないわけではないはずである。

 果たして現役官僚が全能者の地位を与えることができる程に有能・優秀と断言できるのだろうか。

 2000年9月21日、森喜朗内閣総理大臣が衆参両院本会議(第150回国会)の所信表明演説で、日本型IT社会の実現を目指す「E-ジャパンの構想」を発表。

 2001年1月、森内閣は内閣官房設置の「IT戦略本部」で「e-Japan戦略」と銘打ってIT国家戦略を策定。次のように謳った。

 「我が国は、すべての国民が情報通信技術(IT)を積極的に活用し、その恩恵を最大限に享受できる知識創発型社会の実現に向け、早急に革命的かつ現実的な対応を行わなければならない。市場原理に基づき民間が最大限に活力を発揮できる環境を整備し、5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指す」(Wikipedia

 橋下徹の現役官僚こそ全能者だとする「政治家と官僚の役割分担論」から言うと、森内閣は「知識創発型社会の実現」という方向性と、行政組織を使うことができる与党の立場として官僚に計算させたのだろう、「5年以内」という工程表で、「世界最先端のIT国家となることを目指す」とする方向性を提示した。

 その方向性に添って現役の行政官僚は制度設計と工程表を具体的・精密に作成し、方向性通りに実現させる役割分担を担っていたはずが、「5年以内」どころか、10年以上経過するのに今以て「知識創発型社会」も、「世界最先端のIT国家」も実現していない。

 実現していないどころか、現在に於いても情報後進国とか、IT後進国とか、非常に有難い名称を戴いている。

 もし日本が政治家の方向性通りに行政官僚が「世界最先端のIT国家」の地位をつくり出して、その地位に相応しい才能を発揮、「知識創発型社会」を実現し得ていたなら、グーグルやツイッターやフェイスブック等々の「知識創発型」情報サービス企業の誕生も夢ではなかったはずだ。

 官僚が橋下徹が言っていることに反して全能ではないことの証明でしかないが、全能と殆ど逆だからこそ、かくまでも経済の低迷や財政の悪化、社会の矛盾が是正されないままに10年、20年と放置されている。

 政治家は常に常に方向性を示している。バブル崩壊後もリーマンショック後も、景気対策、経済回復策、財政再建策等々の方向性を示し、「行政組織を使える」内閣として行政官僚のアドバイスも受けていたはずだ。

 だが、行政官僚は政治家の方向性に基づいて、政策の実現を図ることができなかった。

 かくまでも官僚が無能であるなら、官僚こそが日本国家低迷のA級戦犯ということになって、橋下徹の「政治家と官僚の役割分担論」は無意味化する。

 制度設計や工程表作成に官僚以外に専門家を入れたとしても、政策の実際の実現に関わるのは行政官僚である。実行部隊の官僚が無能であったなら、画竜点睛を欠くことになる。

 かつて自民党政権時代、バブル崩壊後、公共土木事業を主体として景気浮揚策を採ってきたが、その方向性に官僚は応えることができず、単に建設して終わるだけで経済的な波及効果は見る程のこともなく、赤字国債を積み上げるのみで推移し、なお一層の財政悪化に手を貸すことになった。

 要するに橋下徹の官僚こそ全能者だとする「政治家と官僚の役割分担論」自体を否定する政治と行政を日本は歴史の実体としてきたということである。

 日本の官僚がかくも政治家からの公共事業の方向性に応える能力を持っていなかったにも関わらず、自民党安倍晋三は政権を獲った場合、再び200兆円規模の大型公共事業という景気浮揚の方向性を示そうとしている。

 官僚がこうまでに政治家が示す方向性に応えることができていない実績から言ったなら、安倍晋三は日本を以前の土建国家に逆戻りさせるだけの功績しか上げることができないはずだ。

 自民党は2012年衆院選マニフェストに「世界に勝ち抜く製造業の復活」を掲げているが、日本の製造業の活躍自体、アメリカ経済任せ、中国経済任せ、ヨーロッパ経済任せ等々の世界経済任せの従属性を性格としてきたのである。

 だから、かつてアメリカがくしゃみをすると日本は風邪をひくと言われていた。現在では中国がくしゃみをすると、日本は風邪を引く状況にある。日本自らが世界の経済をリードする主体性を持ち得ているわけではない。

 グーグルの2009年の米国での経済効果は540億ドル(4兆円前後)だそうで、全世界的に見た場合、相当な金額の経済効果となるはずだが、直接的な金銭価値的経済波及効果にとどまらず、グーグルやツイッター、フェイスブックを介して容易に手に入れることができる知識・情報によって高められたスキルが職業や社会活動を通して生み出す経済波及効果、共同体的効果は計り知れないものがあるに違いない。

 土建国家の再現が疑わしい安倍式大型公共事業や世界の景気に従属する製造業の復活のみを国の経済活性化の主たるエンジンとするのではなく、「知識創発型」の情報サービス産業を育成して日本経済復活のエンジンに加えることも、日本のモノづくりの製造業等を含めた経済活動や人的活動と相互作用し合って、経済活動を超えた全体的な活動に新たな多様化と新たな可能性を広げる素地を提供するはずである。

 さらに日本型の情報サービス産業の育成による知識・情報の発達・高度化は公共事業の単純な経済構造――工事を発注して雇用を生み、工事が終わると同時に雇用も終わるから、工事を発注し続けるが、経済波及効果は左程のことはなく、赤字国債を積み上げていくだけという従来からの経済構造を破る手立てを創造する素地をも提供するはずである。

 だが、その素地ができていない現況での大型公共事業はやはり土建国家逆戻りの水平しか見通すことはできない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする