自民党は参院選公約最終案のうち原発に関しては「安全性が確認された原発の再稼働は、地元自治体の理解が得られるよう最大限努力する」と謳っている。安倍晋三と復古主義的国家主義のベッドで添い寝している政調会長の高市早苗が自らも関わって参院選公約を作成したからだろう、原発再稼働を優先させる発言をしている。
但し単純な再稼働発言とは趣を大きく異にする。素直には受け取ることはできない問題発言の部類に入る。
《「原発事故による死亡者は出てない」自民・高市政調会長》(asahi.com/2013年6月17日18時2分)
高市早苗「事故を起こした東京電力福島第一原発を含めて、事故によって死亡者が出ている状況ではない。安全性を最大限確保しながら活用するしかない。
産業競争力の維持には電力の安定供給が不可欠で、原発は廃炉まで考えると莫大(ばくだい)なお金がかかるが、稼働している間のコストは比較的安い」(下線部分は解説文を会話体に直している)
原発再稼働を前提としている以上、「安全性を最大限確保」は当然の措置だが、安全性の「最大限確保」が絶対安全を保証するものではない。
絶対安全を保証するとしたら、「原発安全神話」に回帰することになる。
このことも危機管理の前提としなければならない必須事項であるはずだ。
いわば、「安全性を最大限確保」したつもりでも、事故の可能性をゼロとすることはできないことになる。
事故の可能性をゼロとすることはできない姿勢で安全性の「最大限確保」に努めなければならない。
以上のことを前提とすると、「事故を起こした東京電力福島第一原発を含めて、事故によって死亡者が出ている状況ではない」と言っていることは、「安全性を最大限確保」するものの、事故の可能性をゼロとすることはできない関係から、死者さえ出さなければ、原発事故は止むを得ないと言っていることになる。
国家主義者にして復古主義者の高市早苗はこのように認識することによって、原発事故直接死が発生しなければ、原発事故関連死が発生していたとしても無視することができ、「事故によって死亡者が出ている状況ではない」と言うことができる。
高市早苗のこのような認識は勿論、人間生命の尊厳の否定、人間生命の軽視に当たる。
このような生命観の軽い人間が自民党の役員を務めている。その責任は問われて然るべきだろう。
安倍晋三は人間生命の尊厳を否定し、軽視する人間を自民党役員に任命した。安倍晋三と高市早苗が人間生命の軽視という点で感性を響き合わせているからこそ、任命できたのだろう。
安倍晋三のそのような生命意識とその任命責任も問わなければならない。
因みに復興庁発表、2013年5月10日付け「NHK NEWS WEB」報道の、今年2013年3月末時点までの震災関連死者数と、その多くが原発関連死と推察される福島県の震災関連死者数を挙げてみる。
震災関連死――2688人
福島県 ――1383人
福島県の震災関連死者数が全体の震災関連死者数の半数以上を占める。岩手県389人、宮城県862人に対して福島県のこの1383人という圧倒的多数は明らかに原発事故が関係していることを物語っているはずだ。
どのくらい関係しているのか、2013年3月13日付け「TOKYO Web」(東京新聞)の集計ではあるが、〈福島県内で震災関連死と認定された1337人のうち、少なくとも約6割にあたる789人は原発事故の避難などに伴う「原発関連死」〉だとしている。
「少なくとも約6割」である。
上記「NHK NEWS WEB」と「TOKYO Web」記事の震災関連死者数に若干の違いがあるのは、「NHK NEWS WEB」が2013年3月末時点の死者数を挙げているのに対して、「TOKYO Web」記事の発信日は3月末から18日遡る2013年3月13日発信という違いからだろう。
「TOKYO Web」はこの記事の中で福島県内で少なくとも12人が自殺した可能性があるとしている。
また、2013年3月27日付け「NHK NEWS WEB」記事は、2011年3月11日の原発事故で福島県南相馬市の高齢者施設から避難した患者たちの1年間の死亡率が事故前の2.7倍に上ったとする東京大学などの研究グループが纏め調査結果を伝えている。
福島原発事故は原発事故直接死を出さなかったが、自殺等、様々な形の原発事故関連死を出した。そして今なお、関連死の危険に曝されている少なくない被災者が存在するはずだ。
国政に関与する政治家が国民の生命・財産を預っていると言うなら、今なお関連死の危険に曝されている少なくない被災者が存在するというところまで認識しなければならないはずだが、「事故によって死亡者が出ている状況ではない」からと、原発事故関連死を無視できる。
その理由は断るまでもなく国家主義者だからである。
これまで国家主義の意味を『大辞林』(三省堂)を参考にしてブログに何度も書いてきたが、今回も書かなければならない。
【国家主義】「国家をすべてに優先する至高の存在、あるいは目標と考え、個人の権利・自由をこれに従属させる思想」
高市早苗はこのような思想を抱えているからこそ、国家優先の国家経営のためにコストの面から原発再稼働を主張することができ、国民を従に置いて原発関連死者を無視することができる。
安倍晋三も然り。
素晴らしい政治家を日本は抱えているものである。