「皇室典範特例法」が一代限りであることと男系男子皇位継承論から見る安倍晋三が内心に抱えた男女差別主義

2017-06-11 10:59:35 | Weblog

 「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」2017年6月9日の成立を受けて、安倍晋三が記者団の質問を受けた。文飾は当方。

 安倍晋三「先程、『天皇の退位等に関する皇室典範特例法』が成立いたしました。本法の重要性に鑑み、衆参両院の議長、副議長に御尽力をいただき、また、各会派の皆様の御協力をいただき、静謐(せいひつ)な環境の中で速やかに成立させていただいたことに対しまして感謝申し上げ、改めて敬意を表したいと思います。

 光格天皇以来、実に200年ぶりに退位を実現するものであり、この問題が国家の基本、そして長い歴史、未来に関わる重要な課題であることを改めて実感いたしました。政府としては、国会における御議論、そして委員会の附帯決議を尊重しながら、遺漏なきようしっかりと施行に向けて準備を進めてまいります」

 記者の安定的な皇位の継承に関する質問に対して。

 安倍晋三「安定的な皇位の継承は非常に重要な課題であります。政府としては附帯決議を尊重して検討を進めてまいります」(首相官邸サイト)       

 安倍晋三が「この問題が国家の基本、そして長い歴史、未来に関わる重要な課題であることを改めて実感いたしました」と言っていることは「天皇制は国家の基本」という自らの認識を示す言葉であろう。

 さすが天皇主義者=国家主義者である。

 「天皇制は国家の基本」と考えているから、天皇の問題は「長い歴史、未来に関わる重要な課題」だと言うことになる。

 安倍晋三は天皇主義者=国家主義者だから、天皇制、あるいは天皇を日本国家の基本、もしくは中心に置く。

 だが、日本国憲法は国家の中心に日本国民を置いている。日本国憲法前文は、〈日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。〉との文言で国民主権を謳っている。

 主権者である国民が国家の中心、基本でなくて、何だというのだろうか。

 安倍晋三の考え方は天皇に主権があった戦前のそれである。戦前の日本は天皇を国家の最上位に置いていた。そして日本国民は天皇と国家に奉仕する下の存在と見做された。

 戦後の日本国憲法が国民主権を謳い、国民を国家の中心に置いているということは戦後の天皇は国家の中心を国民に譲ったことを意味する。このことは日本国憲法「第1章天皇 第1条」が示している。

 〈天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。 〉

 日本国と日本国民統合の象徴という天皇の地位を決めるのは主権者である日本国民であると規定している。このことの意味は解説するまでもなく、天皇の地位の基本的な決定者は日本国民であって、天皇はその決定に従って象徴的な存在として位置づけられているということであろう。

 戦前は天皇が日本国民の地位の決定者であった。

 戦後に於いて基本的な決定の行使権が日本国民にあることは天皇の地位に関してだけではなく、何事につけても日本国民にある。だからこその国民主権である。

 だが、安倍晋三は「天皇制は国家の基本」と考え、天皇を日本の中心に置く戦前と同様の思想を自らのそれとしている。

 自民党には安倍晋三のような天皇主義者=国家主義者が多く集まっている。自民党憲法改正草案前文冒頭で、〈日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴(いただ)く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。〉と規定しているが、「戴く」という言葉はそれが地位上の存在に対して言うとき、「崇め(あが)仕える」という意味を持つ。

 要するに「国民主権の下」と言っているが、「天皇を戴く」という言葉で国民主権に反して天皇を国民よりも上に置いている。この上下関係は戦前の大日本帝国憲法に於ける天皇と国民の関係――主権者と奉仕者という関係程ではないが、上下に位置させている点では近親関係にあるといえる。

 そして自民党憲法改正草案「第1章天皇 第1条」は「天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」と規定して、天皇を日本国の元首としている。

 自民党憲法改正草案の前文と「第1章天皇 第1条」の双方から浮かんでくる天皇と国民の関係に抱えている思想は国民主権と言いながら、国の中心を国民から天皇に軸足を移そうとしている考え方に基いていると言うことができる。

 戦前天皇制への接近であり、それとない回帰である。このことはまた天皇主権への接近であり、それとない回帰を意味する。

 天皇主権は天皇の絶対的存在化を意味する。「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が恒久法ではなく、現天皇の一代限りとしたのは実際には戦前同様に天皇の価値を絶対としたいがために天皇として生き続け、天皇として死ぬことでその偉大性を表現することを望んでいたにも関わらず、現天皇が退位を望んで、それを無視できなかったために安倍晋三等天皇主義者たちのギリギリの許容範囲が一代限りに押しとどめておくといったところなのだろう。

 「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が、与野党話し合って決めたと言っているが、このように天皇主義=国家主義を思想とした安倍晋三たちが主導したという点に留意しなければならない。

 天皇主義=国家主義の思想を背景としているから、皇室典範で男系男子に限られている皇位継承資格の拡大について男系男子派の官房長官の菅義偉や安倍晋三は皇位継承資格の拡大に反対し、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」の付帯決議で女性宮家の創設に触れているものの、単にその検討と検討したことを国会に報告することを謳っているのみで、何ら法的拘束力もない不熱心さを表している。

 自由党の小沢一郎共同代表は記者会見で「我々は当初から皇室典範の改正を主張してきた。付帯決議案に『女性宮家』との文言が入ったが、何の法的効果も持たない」(日経電子版)と発言、発言通りに採決に棄権している。

 2017年6月8日の記者会見で菅義偉は皇位継承権について次のように発言している。

 菅義偉「男系継承が古来例外なく維持されてきた重みを踏まえると同時に、現在の皇室典範に男系男子と書かれているので、そうしたものに取り組んでいく」(NHK NEWS WEB

 男子男系に変わりませんと宣言している。

 2012年1月10日発売「文藝春秋」2月号での安倍晋三の発言。

 安倍晋三「私は、皇室の歴史と断絶した『女系天皇』には、明確に反対である」

 日本国憲法も自民党憲法改正草案も「皇位継承」について、〈第2条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。〉と同じ文言の規定となっている。

 だが、日本国憲法が意味するところでは、日本国と日本国民統合の象徴という天皇の地位を決めるのは主権者である日本国民であって、天皇はその決定に従って象徴的な存在として位置づけられているとしているのであって、それ以上の特別な存在でないことを示唆している。

 であるなら、皇室典範「第1章皇位継承 第1条」〈皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。 〉とし、日本国憲法がその規定に追随していることは同じ日本国憲法が「第3章国民の権利及び義務 第14条」で、〈すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。〉と規定している、その中の男女平等の原則にそもそもから反していることになる。

 同じ憲法の中に矛盾した規定が併存している。日本が独裁国家とならない限り男女平等の原則は廃止することができない基本的人権なのだから、皇室典範の〈男系の男子が、これを継承する。 〉を廃止して、男女平等の原則に合わせるしかないはずだ。

 要するに主権者たる国民を国家の中心に置くのではなく、天皇を特別な存在と見做して天皇制、あるいは天皇を日本国家の基本、もしくは中心に置く安倍晋三たち天皇主義者=国家主義者は男系の皇位継承に拘ることによって実際は男女平等の原則を踏みにじっている。

 口では男女平等を唱えていたとしても、腹の底では男女差別主義の思想を抱えている。

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