6/11「日曜討論」で感じたこと テロ等準備罪はプライバシーを裸にし、警察官の大量増員を招く監視法案

2017-06-15 12:24:49 | 政治

 今朝(2017年6月15日)のNHKニュースが「テロ等準備罪」が参議院本会議で可決・成立していたことを伝えていた。 

 2017年6月11日放送のNHK「日曜討論」を見た。「テロ等準備罪」が監視によって成り立つ、あるいは監視なくして成り立たない法案であることを2017年4月23日当ブログ、《監視に始まり、監視が全てを決定する監視至上主義が蔓延しない保証はない安倍政権の「テロ等準備罪」 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》で書いたが、その思いを議論を通じて改めて強くした。     

 先ず「日曜討論」の議論を聞いていて感じたことを述べてみる。

 番組は、〈テロ組織や暴力団などの組織的犯罪集団が、重大な犯罪を計画し、メンバーの誰かが準備行為を行った場合、計画した全員を処罰の対象にする〉として、この三っつを「テロ等準備罪」の3構成要件に挙げている。

 NHKのサイトから、画像を載せておいたが、先ず組織的犯罪集団であること、重大な犯罪計画を行うこと、そして武器を集めたり、犯罪実施場所の下見に入る等の準備行為に入った段階で、いわば犯罪実行の前段階で逮捕することができ、取調べの段階に進んで、起訴相当と認めた場合は起訴し、裁判を通して定めた罪にかける。

 要約すると、犯罪を実行する前の逮捕を可能とする法律と言うことになる。

 この過程が既に監視を要件としている。例えば組織的犯罪集団に挙げているテロ集団、暴力団、薬物密売組織の内、暴力団の場合は組織的犯罪集団の看板を掲げて何らかの犯罪で組織を成り立たせていている団体だから、最初から目に見える存在であって、監視しやすいし、監視が正当化されている。

 警察組織の中で捜査4課等の暴力団担当の専門部署が設けられているのはそのためだろう。

 薬物密売組織の場合は、暴力団とほぼかぶっているか、暴力団と関係を築いているから、監視によって目に見える存在とすることができるし、その監視は正当化される。

 組織的犯罪集団とは「一定期間に存続する3人以上の者からなる系統的集団」だとネットで紹介されているから、個人的に海外旅行でかネットで薬物を入手し、それを売ってカネにする計画を立て、その準備に入ったとしても組織的犯罪集団に於ける犯罪行為の対象とはならないことになる。

 現実の問題としても監視の対象とすることは難しく、計画の段階で、「どうもあいつはヤクを手に入れて、誰かに売ってカネにしようとしているようだ」といった噂か、第三者にうまく売りつけることができた後、売りつけられた第三者が「どうもあいつはヤクをやっているようだ」といった噂を立てられた後でしか警察は監視を始めることはできないだろうし、その監視は正当化されることになる。

 正当化される監視の過程でそれが実際に個人一人の計画なのか、組織的犯罪集団の処罰対象となり得る3人以上の集団なのかは判別できることになる。

 だが、テロ集団の場合は組織的犯罪集団の看板を掲げてはいない。自由党の森ゆう子が番組で「テロリストは普通の市民の顔をしている」と言っていたが、同じ日本人が組織することになるテロ集団は多くの場合、反政府勢力に該当するはずだ。例え「イスラム国」の思想に同調してテロ組織を立ち上げるにしても、その時々の政府を支持する日本人が政府を追い詰めることになるテロを引き起こす目的でテロ集団化することはあり得ない。

 と言うことは、現在の安倍政権は右翼勢力だから、反政府勢力は左翼勢力か、厳正な民主主義を求める勢力と言うことになる。左翼勢力の内、極左勢力はかつて暴力革命を掲げていたが、左翼勢力全てが革命を掲げているわけではないし、厳正な民主主義を求める勢力にしても、多くの左翼勢力共々民主的方法での政権交代を求めていて、革命を掲げているわけではないから、テロ集団化する可能性は限りなく小さい。

 と言っても、ゼロだとは断言できない。安倍右翼政権が独裁化したとき(左翼政権が独裁化することもあり得るが)、民主的方法での政権交代の芽の消滅を意味することになって、民主政権の回復に革命以外に手段を失い、そのためのテロが頻繁に起きる可能性は否定できない。

 いわば安倍右翼政権にとって「テロ等準備罪」は反政府勢力の弾圧を通して独裁化の有力な手段となり得る。もしかしたら、独裁化に備えた「テロ等準備罪」と言うこともあり得る。

 最低でも、反政府デモや反政府運動を抑える手段に利用されない保証はない。

 いずれにしても「テロ等準備罪」が想定している主たる組織的犯罪集団とは既に警察の監視下にある暴力団や薬物密売組織ではなく、不特定多数の反政府勢力を対象としているだろうと言うことである。

 3人以上の構成員で成り立たせたその反政府勢力がテロ等の重大な犯罪計画を立てて準備行為に入る組織的犯罪集団かどうかを探索するためには監視をしなければならない。

 いや、それ以前の問題として、政府の政策に反対するデモの段階からデモ参加者が個人で参加しているのか、その政策に限って反対する目的で組織された集団なのか、あるいは恒常的に組織された何らかの反政府勢力に所属しているのか、監視を始めていなければ、重大な犯罪計画を立てて準備行為に入る可能性のある3人以上の者からなる恒常的な組織的犯罪集団になり得る可能性を特定はできないことになる。

 当然、個人のデモ参加であっても、組織された集団のデモ参加であっても、不特定多数者の監視から入ることになる。警察は犯罪実行前に逮捕しなければならない責任上、いわば犯罪実行後の逮捕は警察の失態ということになるから、不特定多数者に対する監視の徹底化と同時に大勢の不特定多数者を監視することになる監視の広範囲化を招くことになり、監視の徹底化・広範囲化は尾行、盗撮、盗聴、秘密裏な家族関係や友人関係の洗い出し、周囲への聞き込み等々、不特定多数者一人ひとりのプライバシーを裸にすることになるだろう。

 このプライバシーの裸は人権侵害に当たらないだろうか。

 それだけではない。犯罪実行前の逮捕に失敗した場合、その責任は警察上層部にまで及ぶことになることから、そのような責任を前以って避ける意味からも監視の徹底化と監視の広範囲化が必要となって、警察官の増員に迫られる。

 では、「日曜討論」での議論を見てみる。出演者は下村博文(自民党)、玉木雄一郎(民進党)、斉藤鉄夫(公明党)、小池晃(共産党)馬場伸幸(維新の会)、森ゆうこ(自由党)、又市征治(社民党)、中野正志(日本のこころ)。

 当日放送の内容を簡単に解説したサイトにリンクをつけておいたが、「テロ等準備罪」が“監視法案”であることを証明し得る議論を主として取り上げる。

 玉木雄一郎「テロ対策は重要。一方で権利侵害とならないようにバランスが必要です。最大の問題は誰が何をすれば罰せられるのか、極めて不明確。277の犯罪に対して準備罪をかけるわけだけど、倒産法制、会社更生法とか、地方税法、テロに関係ないものが入っている。テロのためにやっているという根拠がない」

 下村博文「テロ準備罪という法案は組織的犯罪集団が対象。組織的犯罪集団と言うのはテロ組織集団だとか、暴力団であるとか、麻薬組織であるとか、そういう組織集団のことで、そして重大な犯罪を計画している。

 なおかつ準備行為がある。この三っつが全部なったときにテロ等準備罪が対象になるのですから、先程野党が言われたような、これだけ厳密に法律的に縛っている」

 下村は単に法律の説明を表面的になぞっているだけで、そのような段階に進む過程を察知するための方法について何も触れていない。それが魔法という方法でなければ、尾行、盗撮、盗聴、秘密裏な家族関係や友人関係の洗い出し、聞き込み等の監視を決め手としなければならない。

 政府は正当な目的を持った一般の団体であっても、一定の犯罪を目的とした集団に一変した場合はテロ犯罪集団に認定される可能性があると説明している。司会の島田が一般人が処罰の対象となるかどうかを聞く。

 玉木雄一郎「普通の組織であっても、途中から一変した場合、(テロ等準備罪の処罰)対象になると。一変したかどうか調べないと分かりませんから、当然一般人も含めて捜査・調査の対象にするということです」

 その「捜査・調査」は監視が大部分を占めることになるはずだが、玉木はそのことに触れていない。いくら犯罪計画を立てたとしても、準備行為に入らなければ逮捕できないのだから、そこに至る過程を知るために直接的な捜査で接触した場合、途中でやめてしまう危険性が生じる。

 下村博文「先ずこれは一般の人は関係ないですね。なぜかと言うと、構成要員として、この構成要員、組織的犯罪集団、テロ組織とか暴力団とか、薬物密売組織ですね、このところに対象があって、なおかつ計画をし、それから実行準備行為があるということが対象なんですね。

 その中に組織に入っていないけども、組織の周辺の人たちが、つまり一般の人達が、関わることがあるのではないかという危惧で話がありましたが、関わるか関わらないかっていうのは、実行準備があるかないか。

 一般の人にとってそもそも実行準備行為はありませんから、それは実行準備行為に入ればですね、それは対象に入ることはありますが、それは一般の人ではないです。

 そういう意味で厳密に三っつのきちっとした枠の中で決められているわけですから、そもそも一般の人は対象になることをあり得ないわけです」

 単細胞というのは幸せである。一般人が組織的犯罪集団にその集団が目的としている犯罪の実行に同調する意図で加わり、さらに犯罪の実行準備行為に加われば、確かに一般人でなくなる。だが、そのような意図を持つに至ったかどうか、そして犯罪の実行準備行為に加わったかどうかを知るためには当たり前の接触する方法の捜査では計画を断念されてしまうから、尾行、盗撮、盗聴等々の監視を介在させなければならない。

 監視の結果、犯罪計画に加わり、実行準備入ったならいいが、そうでない場合は、処罰の対象にはならないものの、プライバシーを裸にされたままで終わることになる。

 そこに思い至らないままに相変わらず法律の表面的な説明に終始して、一般の人は対象外だと言うことができる。

 既に触れたように実際に犯罪を計画し、準備行為に入った者を監視の成果として逮捕する以前の問題として「テロ等準備罪」が想定している組織的犯罪集団は主として反政府勢力を対象としていて、不特定多数者に対する監視の徹底化・広範囲化が展開されることになるだろうということである。

 ここで共産党の小池晃が一般人かどうかの判別は監視が要件となるということを言う。

 小池晃「(組織的犯罪集団の)周辺の人かどうかを(判断するために)監視するためには一般人が対象になる。それから(テロ集団が)人権団体等を隠れ蓑にしている場合、日常的に人権団体を監視しなければ、隠れ蓑かどうかは分からないわけですよ」

 要するに反政府勢力を形作っている団体という団体の全てを監視していなければ、それが一般的な団体を隠れ蓑とした犯罪組織かどうかは判別できないということを言っている。不特定多数者に対する監視の徹底化・広範囲化を指す。

 維新馬場伸幸「一般人が(テロ等準備罪の)3要素を構成するわけはない」

 単細胞は素晴らしい。ある団体が3要素を構成する組織的犯罪集団かどうかを特定するためには団体という団体、特に反政府勢力に属する団体に対する監視を必要とし、その集団が何人の構成員によって運営されているかを特定するためにも周辺の不特定多数の一般人を監視して絞っていかなければならない。

 最終段階だけを取り上げて、一般人は無関係だと言う。

 自由党森ゆうこ「捜査の対象と処罰の対象、これをね、ごちゃまぜにして説明しないで頂きたいと思います。最終的に処罰の対象になるのは先程の要件、構成要件を満たさなければならないと思いますけども、テロを未然に防ぐわけでしょ。

 だから、そのためにはどんな話し合いをしているのか、どんな共謀をしているのか、絶えず監視をしなければ、それを探すことができないわけです。だから政府の説明は全く矛盾しているんです。

 先程申し上げましたが、テロリストは普通の市民の顔をしてテロを行っている。つまり普通の市民を捜査の対象にしなければ、テロそのものが防げませんし、だから全く矛盾した説明をしていると思います」

 要するに下村を含めた政府の説明は組織的犯罪集団だと認定できて、処罰できる段階に至った集団、その構成員を対象に3構成要件を満たしているとか、一般人ではないと説明しているだけで、認定に至る以前の段階での捜査、主として監視と言うことになるが、その説明が全然ないから、矛盾しているということなのだろう。

 しかし誰もが下村に対して組織的犯罪集団と特定するための捜査方法を教えて貰いたいと直接的に尋ねはしなかった。共産党の小池晃が実際の人権団体なのか、人権団体を隠れ蓑としたテロ集団なのか、日常的に不特定多数の人権団体を監視していなければ特定できないといった趣旨のことを発言していたが、下村に直接、どう特定するのですかと聞けばよかった。

 聞いたとしても、下村は答えることはできなかったろうが。監視することが必要になるますとは言えないからだ。

 下村博文「今回の法案と言うのは実行準備段階で逮捕して、そして犯罪を防止することにあるわけですね。ですから、犯罪を犯したあとの話なんです。

 ですから先程のような話(監視されるという発言)がありましたが、それはテロ等準備罪の中で整理していますから、そして組織的犯罪集団、あるいはそこに関わっている、そういう人しかそもそも対象になりませんから、国民全てが監視される何てことはあり得ない。 

 真っ当な生活をしていて、重大な犯罪を計画するとか、準備行為をするなど、あり得ない話ですから」

 お目出度い話をしている。「犯罪を犯したあとの話」としているから、「国民全てが監視される何てことはあり得ない」と言うことが可能となる。

 そしてこのような説明に多くの国民が納得して、テロを防ぐためにはこの法律が必要だと信じている。

 既に触れたように不特定多数の一般人を、あるいは不特定多数の団体、特に反政府団体を監視して絞っていかなければ、その組織が組織的犯罪集団かどうか、犯罪計画を立て、武器を調達したり、犯罪実施場所の下見等を行う準備行為に入ったかどうかを特定することができないことが重要な問題であって、特定の方法が主として監視以外にないということである。

 そのような監視によって不特定多数の一般人のプライバシーが裸にされる危険性は決して否定できない。

 プライバシー侵害となりかねない監視という名の捜査の徹底化・広範囲化とそのための警察官の大量増員、さらに安倍右翼政権によって反政府デモや反政府運動を抑える手段に利用されかねない、あるいは独裁化に備えているかもしれない危険性が予想できないわけではないにも関わらず、その予想を排除したとしても、与党自公は否定できない監視という名の捜査を否定し続ける。

 この一事を以てしても、「テロ等準備罪」のいかがわしさを証明して余りある。

コメント (1)
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