安倍晋三語るに落ちる「総理のご意向」、講演での地域無関係の獣医学部新設の大盤振舞い

2017-06-25 11:54:16 | 政治

 「語るに落ちる」という言葉の意味を「コトバンク」が次のように解説している。

 《「問うに落ちず語るに落ちる」の略》問い詰められるとなかなか言わないが、勝手に話させると、うっかり秘密をしゃべってしまう。 》

 2017年6月24日、安倍晋三が神戸市中央区の神戸ポートピアホテルで開かれた神戸「正論」懇話会の設立記念特別講演会で講演していて、発言の詳細を「産経ニュース」が伝えている。    

 安倍晋三はお得意の「五七五」を一句詠んでいる。

 「逆風に 神戸の空は 五月晴れ」

 この一句の前の発言。

 「なかなか私も政治的な困難に、さまざまな困難に直面して参りました。その中で空を見上げたら、昨日は青空だったんですね。こんな一句が思い浮かびました」

 この逆風、困難の中には勿論、加計学園獣医学部新設に関わる安倍晋三の政治的関与疑惑に基づいた野党の国会追及、国民の批判も入っているはずだ。 

 句の意味は逆風の渦中にある自分だが、神戸に来たら五月晴れで、しばし心が晴れやかになったと言ったところなのだろうが、疑惑が謂れ(根拠)のない非難であるということを五月晴れに象徴させていたはずだ。五月晴れのように曇り一つないと。

 だが、実際には6月24日の神戸は晴れていなかった。五月晴れだったのは「昨日」、6月23日であって、そのときに思い浮かんだ句を講演で披露したということになる。

 ここで果たして6月23日は五月晴れだったのだろうかと疑った。疑うについては安倍晋三が巧妙なウソつきだからである。そうでない人間だったなら、疑いなど頭を掠めもしなかったろう。

 ネットで調べてみた。「神戸の過去の天気 6月23日-goo天気」によると、2017年6月23日の天気は午前中も午後も曇りとなっている。    

 念のために国土交通省気象庁「過去の気象データ検索」からも2017年6月の神戸市の天気を調べてみた。  

 〈6月23日 昼(06:00-18:00))曇時々晴  夜(18:00-翌日06:00) 薄曇〉となっている。

 6月23日の神戸市の天気はとても五月晴れとまではいっていない。要するに加計学園政治的関与疑惑の逆風の渦中にはあるが、その逆風を謂れ(根拠)のない非難とするためには五月晴れでなければなかったから、無理やり五月晴れに仕立てた。

 その気持は分からないではないが、巧妙なウソであることに変わりはない。もし事実謂れのない非難であるなら、俳句などで表現せずに国会証人喚問に応ずるなり、第三者委員会を設置するなりして、自ら積極的に謂れのない非難に過ぎないことを証明すればいい。

 そういったことはせずに、巧妙なウソまでついて俳句で自身は無実だという心境を披露する。ある意味卑怯である。

 加計学園獣医学部新設に関係した発言個所を見てみる。読みやすいように一個所のみ段落を設けた。

 安倍晋三「国会終盤では、国家戦略特区での獣医学部新設につき、行政がゆがめられたかどうかをめぐって大きな議論となりました。獣医学部は昭和41年を最後に新設がまったく認められていませんでした。しかし、半世紀以上の時が過ぎ、鳥インフルエンザ、口蹄疫など動物から動物、さらには動物から人に、うつるかもしれない伝染病が大きな問題となっています。

 専門家の育成、公務員獣医師の確保は喫緊の課題であります。それでも新設を認めない、時代の変化に対応できない制度であるならば、そちらの方こそ、ゆがんでいるのではないでしょうか。時代のニーズに応える規制改革は行政をゆがめるのでなく、ゆがんだ行政を正すものです。岩盤規制改革を全体として、スピード感を持って進めることは、まさに総理大臣としての私の意志であります。

 当然その決定プロセスは適正でなければならない。ですから国家戦略特区は民間メンバーが入った諮問会議や専門家を交えたワーキンググループにおいて、議論をすすめ、決定されています。議事は全て公開しています。文部科学省などの関係省庁もこうしたオープンな議論に参加し、主張すべきは主張します。最終的に関係省庁の合意の上で改革を進めていきます。むしろ、そうした透明で、公正、公平公正なプロセスこそが内向きの議論を排除し、がんじがらめとなった岩盤規制を打ち破る大きな力となる、これが国家戦略特区の発想であります。

 ですから、私の友人だから認めてくれ、などという訳のわからない意向がまかり通る余地などまったくありません。審議に携わった民間人のみなさんもプロセスに一点の曇りもないと断言されています。国家戦略特区は規制改革の突破口です。まずは、特区に限定して、岩盤規制に風穴を開ける。しかし、目指すところはあくまでも全国展開です。これまでこの特区を活用して79項目にわたる規制改革を行いましたが、このうち23項目は特区に限定することなく全国展開が実現しています。

 獣医学部の新設も半世紀以上守られてきた堅い岩盤に風穴をあけることを優先し、獣医師界からの強い要望をふまえ、まずは1校だけに限定して特区を認めました。

 しかし、こうした中途半端な妥協が、結果として、国民的な疑念を招く一因となりました。改革推進の立場からは、今治市だけに限定する必要はまったくありません。すみやかに全国展開を目指したい。地域に関係なく2校でも3校でも、意欲あるところにはどんどん獣医学部の新設を認めていく。国家戦略特区諮問会議で改革を、さらに進めていきたい、前進させていきたいと思います」

 前半は加計学園獣医学部新設に関わる国家戦略特区諮問会議での議論と決定の正当性の訴えとなっている。

 そしてその根拠として「獣医師界からの強い要望」を挙げて、その要望に従った「1校だけに限定した」認可だとしている。

 だが、6月月16日(2017年)の参院予算委で内閣府の藤原審議官の答弁によると、内閣府と文科省が従来の獣医師養成系大学の設置基準から獣医師養成系大学のない地域に於いてという原案を文科省に提示したのが10月28日。

 内閣府と文科省が折衝して、「広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とするための関係制度を直ちに行う」方針で行くことを決めたのが11月1日ということになっている。

 そして11月9日の国家戦略特区諮問会議がこの方針を決定。

 この決定以後、文科省はなぜか2カ月近くもかかって2017年1月4日に獣医学部設置の規定を一部改正、特区内で1校に限り獣医学部の設置申請を可能とする旨の告示を行っている。

 但し2017年6月22日付「日テレNEWS24」によると、日本獣医師会が2017年6月22日に総会を開き、蔵内会長がその後の会見で、「広域的に獣医師系養成大学等のない地域に限る」とする文言について、「この文言が付け加わった11月より前に要請したことはない」と発言したと伝えている。    

 この「11月」とは11月9日の国家戦略特区諮問会議での方針決定を指すはずだ。

 要するに11月9日に国家戦略特区諮問会議が「広域的に獣医師系養成大学等のない地域に限る」と方針決定以後に“1校限定”を要請したことになる。

 11月9日の国家戦略特区諮問会議の“1校限定”の方針決定から、文科省の獣医師養成系大学の設置基準の改正、告示に手間取ったのは文科省や内閣府と日本獣医師会の交渉が手間取ったからではないだろうか。

 この推測が当たっていなくても、日本獣医師会蔵内会長の記者会見での発言を踏まえると、“要請”と言うよりも、“念押し”に見える。「1校だけだよ」といった念押しである。

 このことは2017年6月22日日本獣医師会総会で発表された蔵内会長の、「国家戦略特区による獣医学部の新設に係る日本獣医師会の考え方について」公益社団法人日本獣医師会/2017年6月22日)で記された中の次の文言が証明する。  

 「今般、国家戦略特区制度に基づき獣医学部の新設が決定されましたが、全国的観点で対処すべき獣医師の需給問題の解決、及び長期的な視点で将来の在り方を十分に検証して措置すべき獣医学教育の改善については、特区制度に基づく対応は馴染まないと考えています。むしろ、現在優先すべき課題は、地域・職域対策を含む獣医療の提供体制の整備・充実、獣医学教育課程の改善にあり、このためにも獣医学入学定員の抑制策は維持する必要があるとの立場を従来から表明してまいりました」

 「獣医学入学定員の抑制策は維持する必要があるとの立場を従来から表明してまいりました」と言っていることが獣医学部新設に積極的ではなく、仕方がなく一校だけにして欲しいという念押しを証明することになる。

 そもそもからして日本獣医師会の基本的姿勢が「特区制度に基づく対応は馴染まない」ということであることも、安倍晋三が「獣医師界からの強い要望をふまえ、まずは1校だけに限定して特区を認めました」と言っているは疑わしい。

 また安倍晋三は通常国会閉会を受けた記者会見で、「公務員獣医師の確保は喫緊の課題」だと訴え、1月9日の国家戦略特区諮問会議では山本農水相が「産業動物獣医師の確保の必要性」に言及していたが、これらの問題点について蔵内会長は上記「考え方」で次のように述べている。

 文飾は当方。

 「獣医学部の新設は、産業動物診療分野や家畜衛生・公衆衛生分野の公務員獣医師の採用難の改善に寄与するとの意見もあるようですが、これらの分野の採用難は、新規免許取得者の就業志向が小動物診療分野に偏在していること、民間に比べて就業環境が過酷で処遇が低いことが原因です。地方に獣医学部を新設し入学定員を増やしても、解決する問題ではありません」――

 6月5日当ブログでは、2016年9月公表の農林水産省の「分野別獣医師数」を基に獣医師は、〈小動物診療(ペット関係)に最も集中して15000人の人気分野となっていて、次に身分保障にしても各種手当がしっかりしている公務員が約9500人の人気分野、小規模経営が多い養豚や養牛関係の診療、種付け、出産を扱う極くごく地味な現場労働である産業動物診療が4300人程度と最も不人気分野となっていることが偏在を生んでいることのより大きな理由であるはずだ。〉と書き、〈四国に獣医学部を新設してもペット関係にのみ就職が集中して、それも都市部、あるいは東京圏への就職が集中して、公務員の獣医師ばかりか、最も必要としている産業動物関係の就職は少数にとどまり、応募数に対して定員不足が生じる同じ現象が起きる可能性は否定できないことになる。〉と書いた。

 6月23日の当ブログでは、〈四国に獣医学部を新設してもペット関係にのみ就職が集中して、それも都市部、あるいは東京圏への就職が集中して、公務員の獣医師ばかりか、最も必要としている産業動物関係の就職は少数にとどまり、応募数に対して定員不足が生じる同じ現象が起きる可能性は否定できないことになる。〉と書き、〈広域的に獣医師養成系大学が存在しないことを理由に四国今治市にその学部を新設をしても、必ずしも獣医師の地域偏在ばかりか、分野(職務)別偏在の解決策とはならない。〉と書いたが、これらのことと符合する。

 いずれにしても日本獣医師会は基本的には獣医師の需給関係から獣医学部の新設に反対だった。文科省も獣医師会の意向に従って反対の姿勢でいた。そして加計学園獣医学部新設決定に関しては安倍晋三の政治的関与が疑われているが、内閣府と文科省との折衝、国家戦略特区諮問会議での議論と方針決定、そして文科省と日本獣医師会との折衝という経緯を取った。

 加計学園獣医学部新設に関わらず、今後如何なる獣医学部新設であっても、この経緯を外すことはできないはずだ。

 だが、安倍晋三はこの経緯を無視した発言をしている。

 「改革推進の立場からは、今治市だけに限定する必要はまったくありません。すみやかに全国展開を目指したい。地域に関係なく2校でも3校でも、意欲あるところにはどんどん獣医学部の新設を認めていく」

 四国に獣医学部を新設しても獣医師の地域偏在や分野(職務)別偏在の解決策となるかどうかも不明であるのに、このような偏在の問題も獣医師の需給の問題も無視しているばかりか、各関係機関や関係部署に於ける各段階での議論や決定という欠かすことができない経緯までも無視して、「地域に関係なく2校でも3校でも、意欲あるところにはどんどん獣医学部の新設を認めていく」と、自らの一存(=「総理のご意向」)で獣医学部新設を大盤振舞いしている。

 これらのことを無視できるのは、勿論、中途過程に各関係機関や関係部署に於ける各段階での議論や決定という経緯を挟んでいたとしても、大枠としては加計学園獣医学部新設が安倍晋三自身の一存(=「総理のご意向」)で始まり、その一存(=「総理のご意向」)で決定した経緯を取ったからであって、そのような経緯を反映した、相互対照としてある「2校でも3校でも獣医学部の新設を認めていく」という一存(=「総理のご意向」)でなければならない。

 もしそこに自身の一存(=「総理のご意向」)という戦略特区私物化の要素が毛程も入り込ませていなくて、獣医師の偏在問題や需給問題をも含めて関係機関や関係部署が厳格な段階的経緯を経て決定した加計学園獣医学部新設の決定であったなら、安倍晋三自身そのことを承知しているはずだから、「2校でも3校でも獣医学部の新設を認めていく」といったさも一存(=「総理のご意向」)で決めることができるかのような発言は決して出てこない。

 安倍晋三はこれまで加計学園獣医学部新設決定に自らの政治的関与を否定してきた。だが、この発言によって、意図しないままに自らの政治的関与を認めてしまった。

 「語るに落ちる」とはまさにこのことである。

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