稲田朋美は問題発言を記者会見で撤回しても、防衛相としての判断能力の程度の低さは撤回できない

2017-06-29 11:15:59 | 政治

 仕事よりもオシャレにより神経を注いでいるような防衛相の稲田朋美が6月27日(2017年)夕方の東京都板橋区で、「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と都議選での自民党公認候補の応援演説をしたことが自衛隊の政治利用、選挙の私物化、自衛隊法違反、公職選挙法違反、憲法違反との批判を受け、野党は即時辞任を求めている。

 対して官房長官の菅義偉は6月28日午前の記者会見で次のように述べている。

 菅義偉「稲田大臣は発言を撤回し、『政府の機関は政治的にも中立であって特定の候補者を応援することはあり得ない』と述べている。稲田大臣には、しっかりと説明責任を果たし、今後とも誠実に職務にあたってもらいたい」(NHK NEWS WEB

 稲田朋美は発言を撤回した、防衛省・自衛隊の政治的中立性はちゃんと弁えていて、特定の候補者を応援することはあり得ないと言っている、要するに防衛省と自衛隊の名前を使って特定の候補者を応援などしてはいないのだから、その点の説明責任を果たしさえすれば、野党が要求している辞任の必要などないと擁護したことになる。

 昨日のブログに、公職選挙法は「第1章 総則 第1条」で、「その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によって公明且つ適正に行われることを確保し」と規定しているように防衛省の職員にしても自衛隊員にしても、選挙で誰に投票するかは自由意思に任されていて、日本国憲法「第3章 国民の権利及び義務 第19条」が規定している「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」に深く関係することになって、稲田朋美が「防衛省、自衛隊としてもお願いしたい」と特定候補への投票を依頼したことは両組織全体がその特定の候補者を支持しているかのように装ったことになり、防衛省の職員や自衛隊員の自由意志、思想及び良心の自由を踏みにじったことになるから、公職選挙法と日本国憲法の侵害に当たると書いた。

 だが、菅義偉に言わせると、稲田朋美は防衛省・自衛隊の政治的中立性はちゃんと弁えていて、防衛省と自衛隊の名前を使って特定の候補者を応援などしていないが事実その通りなのだったら、ブログ記事を抹消、謝罪文を載せなければならない。

 「産経ニュース」(2017.6.28 01:07)が問題発言当日の午後11時半過ぎからの記者会見の詳報を伝えているから、事実その通りかどうかを確かめてみる。

 詳しいことは産経ニュースの記事に目を通して貰うことにして、大体のところを拾ってみる。

 先ず冒頭発言。

 稲田朋美「記者の皆さま方におかれましては、このような夜分遅くにお集まりをいただいて、大変恐縮でございます。今夕のですね、私の演説に関してでございますけれども、自衛隊、防衛省の活動に対して、地域の皆さま方、板橋区での今日は演説だったんですけれども、近くに練馬駐屯地もございますので、大変応援をいただいていることに感謝をしておりますという趣旨で演説を行ったわけでありますが、その中で誤解を招きかねない発言があったことに関しまして、その誤解を招きかねない発言に関して、撤回をいたしたいと、そのように思っております。もとより防衛省、自衛隊に限らず、政府の機関が政治的にも中立であって、特定の候補者を応援するということはあり得ない。これは当然のことだと考えているところでございます」 

 「誤解を招きかねない発言に関して、撤回をする」、そして「もとより防衛省、自衛隊に限らず、政府の機関が政治的にも中立であって、特定の候補者を応援するということはあり得ない」と、防衛省と自衛隊の名前を使った特定の候補者への応援は否定している。

 応援演説の趣旨そのものは近くに自衛隊の練馬駐屯地があることから、「大変応援をいただいていることに感謝をしておりますという趣旨」だとしている。

 つまり自衛隊になり代わって防衛大臣である稲田朋美が自衛隊が地域の皆様に「大変応援をいただいていることに感謝」の言葉を述べたのだと。

 稲田朋美はこの手の趣旨のことを何度も繰返している。

 稲田朋美「やはり自衛隊の基地が近くにある地域の皆さま方、そして、そういった地域の皆さま方に理解がなければですね、自衛隊の活動というものも、しっかりと結果を出していく、また、しっかりと活動をしていけるということはできません。そういう意味において、地域の皆さま方に非常に感謝をしているということを申し上げたかったということです」

 記者「実際、練馬駐屯地が1キロあまりということで、関係している方がその選挙区内に住んでいることも考えられると思うが、関係する方々に投票行動を呼び掛ける意味合いもあったと受け止められるが」

 稲田朋美「そういう趣旨で申し上げたのではなくて、また実際に板橋区の近くに駐屯地もございます。そういう意味において、練馬駐屯地に限らず自衛隊の活動自体がですね、地域の皆さま方の理解なくして成り立たないということについて、感謝をしているということを申し上げました」

 稲田朋美「私の発言の趣旨自体は、いま申し上げた通り、地域の皆さまの理解なくして、活動ができないという意味を込めてというか、趣旨で申し上げたところですが、いまお尋ねにあったように、そういった誤解を招きかねない発言であったということで、しっかりと訂正をしたいということであります」

 稲田朋美「 いま申し上げた通り、やはり地域の皆さまの理解なくして自衛隊は活動できないということは事実だと思います。しかしながら、いまご指摘になったように、誤解を招きかねないことでもございますので、そのへんはしっかりと撤回をした上で、防衛省、自衛隊はもとより、政府の機関が特定の候補者を応援するというようなことはあり得ないということでございます」

 稲田朋美「 今日の私の趣旨は、まさしく防衛省、自衛隊に対して地域の皆さん、それは別に練馬だけではなくて、日本中そうなんですけども、その感謝の気持ちを伝えたいという趣旨であったということを、しっかりと今日お話をした上で、誤解を招きかねない発言については、いまご指摘になったように、しっかりと撤回をしておきたいと思います」

 要するにどの発言も、応援演説で問題となった個所は「自衛隊の活動自体が地域の皆さま方の理解なくして成り立たない」、だから、地域の皆さま方の理解に「感謝をしている」という趣旨だったと説明している。

 事実その通りの趣旨で発言していたなら、至極尤もな心遣いとなる。誰からも非難を受ける筋合いはない。当然、この手の趣旨で話したことのどこが「誤解を招きかねない発言」で、なぜ、どのような理由で撤回しなければならなかったのだろうか。

 と言うことは、そういった趣旨で発言したことが問題発言としてマスコミに報道され、野党などに批判を受けることになったのはなぜなのだろうかという問題が生じる。逆に稲田朋美自身が、これこれの趣旨で話したことがなぜマスコミや野党の批判に曝されなければならないのかと逆ネジを食らわさなければならないし、食らわすべきだったろう。

 ところが、非難もせず、逆ネジも食らわさず、発言を撤回した、これこれの趣旨の発言だったと繰返し弁明に務める一方だった。

 記者が会見の最後で問題視した発言の目的を聞いている。 

 記者「自民党としてもお願いしたいと発言する前に、防衛省、自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたいとお話をされているが、このお願いしたいは、何をお願いしたいと発言したのか」

 稲田朋美「自民党としてはですね、やはり自民党の、自民党としてですよ、としては、やはり自民党の候補者についてお願いをしたいという趣旨でお話をしましたが、その前に私は、やはり防衛省、自衛隊として地域の方々に対して感謝を申し上げたいという気持ちがあって、誤解を招きかねいような文脈になったことについて、しっかりと訂正をしたいということでございます」――

 「防衛省、自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」との発言は「自民党の候補者についてお願いをしたいという趣旨」であったということは、特定候補者への投票をお願いしたことになる。

 但し、そのようにお願いをする前に「防衛省、自衛隊として地域の方々に対して感謝を申し上げたいという気持」があって、「誤解を招きかねいような文脈」になってしまったと弁解している。

 「自衛隊の活動自体が地域の皆さま方の理解なくして成り立たない」から、地域の理解に感謝する気持があり、その気持に基づいて「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と都議選での自民党公認候補への投票を呼びかけたことになる。

 果たして前後の意味内容がどう繋がるのだろうか。論理的整合性を持たせて前後の意味内容を矛盾なく繋げることができるなら、誤解を招きやすい発言でも何でもなくなる。当然、発言を撤回する必要性も生じない。

 自衛隊に対する地域の理解への感謝をどれ程に持っていたとしても、あるいは目に大きな付けまつ毛を装着することを忘れる程にも感謝の思いに気持を奪われていたとしても、防衛省の職員にしても自衛隊員にしても、個々それぞれの思想及び良心に従って自らの自由意思で決めるそれぞれの一票であることも構わずに、まるで稲田朋美自身が両組織全体を自民党公認候補への支持で既に固めているかのように装い、その支持の大きさと広がりを以てして有権者を同じ投票行動に駆り立てようと策したのだから、防衛省や自衛隊の名前を使った特定候補への投票の呼びかけそのものであって、公職選挙法と日本国憲法に抵触することに変わりはない。

 当然、「もとより防衛省、自衛隊に限らず、政府の機関が政治的にも中立であって、特定の候補者を応援するということはあり得ない」は公職選挙法と日本国憲法に抵触する問題発言をしてしまった後の弁明のために用意した後付けの認識であったことになる。

 防衛大臣という重要な役目に就いていながら、抵触する危険性に前以って気づかずに問題発言をしてしまう稲田朋美の判断能力については、発言の趣旨を自衛隊の活動自体に対する地域の理解への感謝にいくら置き換えようとしても、論理的整合性を見つけ得ない以上、その程度の低さは変わりはないことになり、閣僚の適格性にモロに関係していくことになる。

 稲田朋美の軽い発言は今に始まったことではない。多くの防衛省の職員、自衛隊員はまたやってしまったかと思っているに違いない。防衛省の最高責任者として、また自衛隊組織の統督者として上に立つ者の信頼をも軽くしてしまったはずだ。

 選挙に対する政治的中立性が弁明のための後付けの認識に過ぎない以上、官房長官の菅義偉のように発言を撤回したことを理由に問題無しとすることはできない。発言を撤回しても、稲田友美の防衛相としての判断能力の程度の低さは撤回できない。

 安倍晋三は判断能力の程度の低い政治家を国家の安全保障に深く関わる防衛大臣に任命し続けることになる。これまでも何度か見せてきたように自身の任命責任逃れのために再び安倍晋三らしい逆説を見せることになる。

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