
先ず安倍晋三は30年来の腹心の友である加計学園理事長の加計孝太郎から「獣医学部をつくりたい。さらには今治市にといった話は、一切ございませんでした」、獣医学部申請のことを知ったのは「加計学園の申請が正式に決定した(今年の)1月20日だ」と国会で答弁している。
例えば2017年7月25日の加計学園問題閉会中審査参議員予算委では蓮舫の質問に次のように答えている。「産経ニュース」
文飾は当方。
安倍晋三「国家戦略特区については今治市が提案しておるわけなので、これは国家戦略特区制度が誕生して2年前の11月から私が議長を務める諮問会議において、今治市の特区指定を受けた議論が進む中で、私は今治市が獣医学部を提案していることは知った。
これはもう答弁した通りだが、しかしその時点においてもまだ、またその後のプロセスにおいても、事業主体が誰かという点について提案者である今治市からは説明がなく、加計学園の計画は承知していなかった。
最終的に本年1月に事業者の公募を行い、加計学園から応募があったその後、分科会でのオープンな議論を経て1月20日に諮問会議で認定することになるが、その際私は初めて説明を受けて加計学園の計画について承知したところだ」
安倍晋三が言っている1月20日(2017年)というのはその日に開催された「第27回国家戦略特別区域諮問会議」を指す。この会議で内閣府が2017年1月4日に1月11日までの期限で今治市獣医学部新設の事業主体を公募し、1月10日に応募した加計学園の獣医学部が国家戦略特区指定の今治市への新設が認められた。
このときに安倍晋三は「加計学園の獣医学部のことを知った」と言っているが、諮問会議の議事録から決定の過程を見てみる。文飾は当方。
山本幸三「このうち、今治市の『道の駅の設置者に係る特例』は、今月11日に制定した要綱に基づく事業です。 また、『獣医学部の新設』についても、今月4日に制定した告示に基づくものでありますが、本事業が認められれば、昭和41年の北里大学以来、我が国では52年ぶりの「獣医学部の新設」が実現します。 全ての項目について、関係大臣の同意を得ております。 これらにつき、御意見等はございますでしょうか」 (「異議なし」と声あり) 山本幸三「ありがとうございました。それでは、速やかに認定の手続きを行いたいと思います」 |
獣医学部新設認定についてはこれだけの記述のみである。但しこの決定は諮問会議に提出された「参考資料2」に基いている。
「国家戦略特別区域区域計画(案)」(参考資料2)に基いている。文飾は当方。 (6)名称:獣医師の養成に係る大学設置事業 内容:獣医学部の新設に係る認可基準特例 (国家戦略特別区域法第 26 条に規定する政令等制事業) 学校法人加計園が、獣医学部の設置認可を受けた上で愛媛県今治市において、獣医師が新たに取り組むべき分野における具体的需要対応するための獣医学部を新設する。【平成30年4月開設】 |
参考資料に「学校法人加計園」の名前が付されているが、諮問会議自体の議事録ではその名前は記されていない。あくまでも国家戦略特区指定の今治市への新設という体裁を取っている。
国家戦略特別区域諮問会議の議長を務めている安倍晋三はこの「参考資料2」によって初めて国家戦略特区指定の今治市への獣医学部新設の事業主体が加計学園であることを知ったということなのだろう。
この点については、「第26回」以前の「国家戦略特区諮問会議議事録」の中には「今治市」の文言はあるが、「加計学園」の文言は存在しないことから、安倍晋三の言っていることは一応の説明がつく。
但し安倍晋三の国会答弁、「事業主体が誰かという点について提案者である今治市からは説明がなく、加計学園の計画は承知していなかった」と言っていることからすると、この状況は戦略特区担当の山本幸三も、その他の出席大臣も、民間有識者議員も、同じく今治市への獣医学部新設の事業主体が加計学園であることを知らずに議論してきたことを示すことになる。
と言うことは、「第27回国家戦略特別区域諮問会議」以前は、いわば「第1回」から「第26回」までは出席者は「加計学園」という言葉を一言も発せず、参考資料の中にも「加計学園」なる文言は一切なかったことの証明ということにもなる。
結構毛だらけ、猫灰だらけ。今治市から事業主体は誰かと説明がなかったからと言って、政府側から誰も尋ねなかったと言うのは常識ではあり得ない。多分、「今治市も事業主体が加計学園であると決まったのは2017年1月20日だから、それ以前は今治市に尋ねたとしても答えることができなかっただろう」と言い逃れるかもしれないが、今治市に自分の所に新設を希望している特殊なケースの、それゆえに一大事業となる獣医学部の事業主体を何ら想定もせずに新設を申請するということはあり得ない。
2016年9月21日に山本幸三や内閣府、文科省、農水省の関係省庁の役人や民間有識者議員などが出席して行われた「今治市分科会(第1回)」で、元愛媛県知事の加戸守行今治商工会議所特別顧問が「最後に、今治市あるいは愛媛県におきましては、経済界を挙げて獣医学部新設の実現を強く期待しております」との発言を受けて、2016年10月4日開催の「第24回国家戦略特別区域諮問会議」で、今治市への獣医学部新設を認定することを全員一致で了承、山本幸三が認定の手続きを行うとした発言に際しても、「加計学園」なる文言は表に出ていない。
要するにどの大学が今治市への獣医学部新設の事業主体になるのかといったことは一切考えずに獣医学部新設のことだけを議論してきたことになる。
だが、同じく国家戦略特区指定を受けた京都府は獣医学部設置を希望、その事業主体を京都産業大学と決めて、と言っても、京都産業大学の方から京都府に働きかけたのだと思うが、2016年10月17日に内閣府に資料を提出、同じ2016年10月17日にWGでのヒアリングを受けている。
先ず資料から目次を適宜簡単に拾ってみる。
《京都産業大学獣医学部設置構想について》 (10 / 17WC 京都府提出資料) 目次 1 獣医師の現状 2 獣医師への新たなニーズ 3 創薬分野における新たな研究開発の進展 5 新たな獣医学部の設置構想 (1)ライフサイエンス分野への獣医師の関わり・・・・・・・・・・13 (2)京都産業犬学が目指す獣医学部 ア 京都産業犬学獣医学部設置構想に至る経緯・・・・・・・・・T5 イ 京都産業犬学が目指す獣医学教育・・・・・・・・・・・・・15 ウ 獣医学鎖域における京都産業犬学の強み・・・・・・・・・・16 エ ライフサイエンス分野を重視する教育・研究プログラム・・・17 オ 地域貢献に資する産業勤物獣医学教育の実施・・・・・・・・18 カ 国際貢献のできる多彩な獣医学教育の実施・・・・・・・・・19 キ 新たな獣学部設置に伴う経済的社会的効果 |
では、同日のWGヒアリングから、提案者や事業主体を見てみる。文飾は当方。
「国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング」(議事要旨) (開催要領) 1 日時 平成28年10月17日(月)11:11~11:43 2 議事 新たな獣医学部・大学院研究科の設置のための抑制解除 <提案者> 中村 繁男 京都府農林水産部副部長 大西 辰彦 京都産業大学副学長 大槻 公一 京都産業大学教授 上村 浩一 京都府農林水産部畜産課長 中路 幾雄 京都府商工労働観光部特区・イノベーション課担当課長 |
そして内容から言って要望書なのだろう、京都府は2016年11月25日に内閣府、厚生労働省、農林水産省、文部科学省に対して提出している。一部抜粋してみる。
「創薬分野等新たなニーズに対応する獣医学部の設置について」(平成28年11月25日 京都府) 【担当省庁】内閣府、厚生労働省、農林水産省、文部科学省 (冒頭)関西圏国家戦略特区における獣医学部の新設 ● 国家戦略特区における規制改革事項「先端ライフサイエンス研究や地域における感染症対策など、新たなニーズに対応する獣医学部の設置」について、関西圏での実施を認めていただきたい。 ●京都府では、iPS細胞等再生医療の開発を推進するため、国家戦略特区を活用し、健康・医療分野における国際的イノベーション拠点の形成を目指しており、特に創薬分野などの再生医療技術や医薬品開発の加速化には、動物実験を担う獣医師を育成する必要がある。 ・・・・・・・ <特区の提案状況> ・京都府では新たな獣医学部の設置を提案 実施主体京都産業大学 実施場所綾部市(新設キャンパス)、京都市(既存) <11月9日開催の国家戦略特別区域諮問会議の状況> ・現在、広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とする関係制度の改正を直ちに行うとされた。 ・・・・・・・ ◎ 京都産業大学獣医学部設置構想について国家戦略特区ワーキンググループのヒアリング(平成28年10月17日) 委員からは、「大変説得力のある構想であり、今後は特区でなければならないというインパクトを高めるよう事務局も含めて協議していきたい。」とのコメント |
ここではっきりと事業主体は実施主体京都産業大学であると謳っている。
京都産業大学の方は事業主体を京都産業大学として獣医学部の新設を計画し、その詳しい資料を提出してヒアリングを求め、事業主体の京都産業大学の副学長と教授、そして京都府の役人が獣医学部の規模や内容、獣医学教育その他の説明を行っている。
いわば計画内容を先に提示している。
だが、2017年1月4日の告示で「平成30年4月開学」となったために新設を断念、撤退することになった。
一方の加計学園は内閣府が2017年1月4日に行った今治市新設の獣医学部公募に対する1月10日の応募によって初めて事業主体として顔を表した。そして応募の際に提出し応募用紙に獣医学部の規模や内容、獣医学教育その他の説明を併せて記載している。
加計学園の場合の順序を改めて振り返ってみる。
今治市への獣医学部新設決定→内閣府による事業主体の公募→応募の際に獣医学部新設計画内容の説明→事業主体の決定。
一方の京都産業大学。
事業主体を京都産業大学とする獣医学部新設の計画内容の内閣府への提出・WGでの説明→決定待ち→「平成30年開学」が告示されて、断念・撤退。
常識的に考えても、ある地域に獣医学部の新設を決める際、政府が目的とする獣医学教育や規模、体制が決めるに相応しい内容をその獣医学部が提示できているかどうを先に審査するのが順序であるはずだ。
京都産業大学はその常識的な順序に則った。一方の加計学園の場合は常識的な順序に則らなかった。しかも今治市が想定していないはずはない今治市への獣医学部新設の事業主体として加計学園が顔を出したのは、今治市への獣医学部新設をほぼ決めてから、〈現在、広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とする関係制度の改正を直ちに行う〉としてから2カ月以上も後であった。
「事業主体が誰かという点について提案者である今治市からは説明がなかった」としても、特殊なケースで、それゆえに一大事業となる獣医学部の事業主体を、今治市が想定していないはずはないという点、要するに安倍晋三を筆頭に戦略特区担当の山本幸三も、その他の出席大臣も、民間有識者議員も、今治市への獣医学部新設の事業主体がどこかの馬の骨である危険性がゼロとは言えないないのにどこの誰とも考えずに議論してきたという点、そして政府側から今治市に対して事業主体は誰かと誰も尋ねもしなかったという点、にも関わらず家計学園に落ち着いたという点、この4点は2017年1月4日の内閣府の事業主体公募に対して加計学園が応募するまで加計学園隠しを徹底的に行ってきたと見る他説明がつかない。
加計学園隠しではないと言うなら、安倍晋三が言っているが、「事業主体が誰かという点について提案者である今治市からは説明がなかった」ことに対して政府側から今治市に対して事業主体は誰かと誰も尋ねもしなかったことの説明を行うべきだろう。
少なくとも、「事業主体にどの大学を想定しているのか」と聞かなかったことの説明をすべきだろう。
あるいは安倍晋三を筆頭に戦略特区担当の山本幸三も、その他の出席大臣も、民間有識者議員も、今治市への獣医学部新設の事業主体がどこかを考えもせずに国家戦略特区諮問会議等で獣医学部新設の議論をしてきたことの不自然さを解消して、自然だと納得のできる説明を行うべきだろう。
“加計ありき”だったから、今治市への獣医学部新設のみで議論を進め、加計学園についても事業主体についても一切触れずに加計学園隠しを徹底しなければならなかった。