第一線に責任押し付けず真の原因究明を
私事ながら先日、別法にて名古屋に展開し、早く着きすぎたので巡視船を撮影したり三省堂にて書籍を物色していると幾度か携帯電話に四件程メールが入る。これが小生が知った海上自衛隊情報漏洩事件の第一報であった。
海上自衛隊の情報漏洩は、佐世保地方隊の護衛艦“あさゆき”乗艦の1等海曹からのもので、流出した情報は500点以上とされる。“軍事研究 06年4月号”から引用の形で列挙すると『自衛艦識別時のコールサイン一覧』『暗号表一覧表』『符号変更装置操作手順』『側方観測換字表』『監視経過概要』『訓練計画表・評価書』『乗員名簿(注:緊急連絡簿や福利厚生など)』。他に聞くところでは『電信室ジュースアイス争奪戦(禁酒の海自艦艇にあってはこうした嗜好品を如何に分配するかが海曹の力量で決まる)』など、合計500点以上の情報が流出し、“秘”扱いの情報が100点以上含まれていたことで、関係者の中には「太平洋全体の安全保障に深刻な影響を及ぼす恐れがある」との声も上がっている。
結果的に海上自衛隊は暗号体系を再構築する必要に迫られ、これに費やされる費用は莫大な額に及ぶものと見られている。
原因は、私物のパソコンWinnyをダウンロードしたところ、情報流出ウィルス“仁義なきキンタマウィルス”に感染し、21日頃から発覚する23日まで流出が続いていたとされている。
当然ながら、機密区分が為されている情報を自宅に持ち帰った事は問題である事は確かであるが、その深層原因として業務用パソコンの旧式化が挙げられる。伝聞にして聞くところ、業務用パソコンはPC9801世代が未だ現役であったりするようだ。同ソフトはNECの国産ソフトで、登場当時は様々なバリエーションと上位互換性を有する傑作ソフトとされていたが、時代はウィンドウズ、しかもXPの時代である。
会計検査院的な発想からすれば電源が入る以上、経年劣化は深刻ではなく「現用の業務用パソコンはまだ充分、実用に耐えうる」と判断し、代替を“予算節減”の美名の下、遅らせてきたことは想像に難くない。残念ながら、パソコンは三年間、若しくは四年間で陳腐化する。しかし、業務量は扱い情報量を含めて増大する一方であり、仕方なく私物の使用という事になるのだろう。
また、自宅に情報を持ち帰った海曹は当然、情報漏洩を期しての訳はなく、いわば在宅勤務の一環として、若しくはノートパソコンであれば官品のパソコンが性能不足であり、対して私物デスクトップを艦に持ち込むわけにも行かず、業務改善という努力の末に生じた結果であり、責める訳にも行かない。
即ち、深層分析を行えば“性能劣化”で図るべき命題を“経年劣化”で図った為、こうした結果に至った訳である。
小生が最も恐れるのは、ノモンハン事件の責任を第一線に押し付けたように、若しくは高校球児の喫煙を無理やり全体責任として終えるように、情報漏洩を行った海曹に責任を押し付け、旧式のパソコンで21世紀の仕事を行う事を強いるものである。根本的に“私物を使用せずとも対応できる環境を”と提言したいわけだ。
さて、「暗号に関する情報漏洩を招いた事で自衛官を危険に曝した」との批判があるが、性能劣化を看過した責任は、そのままパソコンを旧式化著しい74式戦車や62式機関銃に置き換えれば、同様の結果にたどり着く。赤外線アクティヴ暗視装置を用いる74式戦車や、発射連射機能に欠陥が提唱されている62式機銃は、平時には創意工夫にて機能するものの、経年劣化ではなく、性能劣化の観点に立てば残念ながら、有事の際には自衛官を危険に曝す結果になる。
今回の情報漏洩事件は、即物主義的な官僚機構に一石を投じた事案である。これを機に、“経年劣化”から“性能劣化”へ、深層結果を是正する動きに転じれば、幸いである。
HARUNA