北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

アメリカ国防総省、シリア軍事介入計画をオバマ大統領へ提出、化学兵器拡散阻止目指す

2012-03-01 23:44:02 | 国際・政治

◆政治的に難しい場所、中東情勢への配慮も必要

CNNによればオバマ大統領は、民主化運動が内戦化するシリアへ対して、米軍の介入の準備を指示しているとのことです。

Img_2861 シリアのアサド大統領による圧政に対し、民衆の抵抗運動が続けられるシリアでは、戦車や火砲による市街地への無差別攻撃など激化の一途をたどっています。このシリアは国内に化学兵器を貯蔵しており、シリア内戦が激化し、化学兵器の管理が難しくなる状況に乗じてテロリストへ化学兵器が流出する事態を避ける目的があるとのこと。

Img_4160 現段階では情報収集衛星によりシリア国内の情報を把握する程度に限られ、基本は外交交渉によるシリアアサド大統領の退陣を促す程度に収まっていますが、現在の状況のまま退陣を拒否すれば長期に及ぶ内戦へと展開する可能性が指摘されています。化学兵器貯蔵施設の警備には多数の兵員が対応していますが、この兵力が移動、もしくは撤退することで無防備になる可能性は十分考えられるでしょう。

Img_0770 米軍の今回の介入は化学兵器施設に対する無力化もしくは搬出を行うものであるのか、それともアサド大統領の退陣を軍事的に促すものか、これを示すこととなる投入される部隊規模や投入される装備、運搬手段なども含めて検討されているとのことですが、その詳細はまだ発表されていません。

Img_7174a 化学兵器の施設に関する無力化は、基本は高熱で燃焼させることで無力化することが可能で、空母艦載機や爆撃機もしくは巡航ミサイルにより実施することが可能となりますが、現実的ではないといえます、こういうのも同時に施設から化学剤の漏えいという可能性も高く、必然的に周辺住民への付随被害は避けられないものとなるでしょう。

Img_1430a 化学兵器貯蔵施設を海兵遠征隊や空挺部隊により緊急展開し制圧する、という選択肢も考えられるのですがやはり現実的ではありません。この理由としてシリア内戦が長期化すればそれだけ駐留期間が長期化しますし、また、自国内での化学兵器貯蔵施設が外国軍に占領されたとなれば、シリア正規軍が米軍に対して攻撃をかけることとなり全面戦争となる懸念を忘れてはなりません。

Img_0697f 恐らく、投入される地上部隊は目標情報を収集するための特殊部隊に限られ、主としての任務は航空攻撃によりアサド大統領指揮下の、特に市街地などに対して無差別攻撃を加えている部隊に対しての航空阻止攻撃が中心として行われるのではないか、当方はそう推測しています。

Img_2807 ただ、CNNの報道ではいずれの任務においても大規模な空輸能力が必要という内容があり、加えて米軍はシリア国内での人道支援任務も想定しているとのこと。場合によっては国際平和維持活動へ繋げる念頭の上での軍事行動、というものも考えられているのかもしれません。

Img_2845 すると、人道物資の空中からの補給、というだけではなく、イラク戦争においてイラク北部に対して実施された機甲支隊の空輸展開による圧力、というような限定的な地上部隊の投入も考えられる、ということになるのでしょうか。まさか、大規模な地上部隊進攻までは、恐らく考えてはいないと思うのですが。

Img_1781 さて、航空阻止攻撃による民主化運動武力弾圧に対する無力化は、昨年のリビア民主化運動内戦に対して米軍とNATOが実施した事例があります。今回はシリアへはイタリアのNATO基地からは距離があるため、ギリシャ国内のスーザスベイ海軍施設、第六艦隊の支援基地であると共に3850mと3000mの滑走路を持つ基地ですが、此処が使われるのでしょう。

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 また、トルコのインジルリク基地が使用される可能性があります。地中海に面しており、3000m滑走路と2400m滑走路を有する基地です。が、可能性がある、と記したのは政治的にトルコ政府がシリアへの攻撃拠点として自国内の基地に対し難色を示す可能性があるため、このあたりは今後の中東情勢に影響を与えることでもあり慎重な判断が求められるところ。

Img_8722 不安要素は、イラク国内の基地についてです。距離的には近接するイラク国内の基地を用いることが理想で、バクダッド近郊のバラド空軍基地、タジ空軍基地、ナシリア近郊のタルリル空軍基地、北部にはバシュル空軍基地やキルクーク空軍基地、西部のアルワリド空軍など多くの基地を維持しており、イラクの西隣はがシリアです。常識的には攻撃に最適の位置にありますが、イラクシリア関係に影響を及ぼす危険があり、政治的判断が必要です。

Img_2188 慎重慎重、政治判断政治判断と繰り返すのは、シリアは中東問題の核となるイスラエルとの過去の関係があり、中東戦争でイスラエルと激しい軍事衝突を繰り返しています。シリアの今後は、もちろんエジプトにおいても当てはまる事ですが、今後の中東情勢を左右することとなり、対応を誤れば第五次中東戦争の火種にもなりかねません。

Img_1802 他方で、化学兵器がテロリストの手に渡ることも避けなければならず、特に日本における地下鉄サリン事件では非常に純度の低い化学兵器であっても大きな被害を出していますので、軍用の高純度の化学兵器がテロリストへ流出した場合の危険性は、非常に深刻なものがあります。だからこそ、今回の策定に至ったのでしょう。

北大路機関:はるな

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