◆イラン政府による自衛隊機の受け入れ可否が重要
イラン情勢緊迫化の際には自衛隊機の邦人救出派遣を検討、防衛大臣の発言です。果たして、ホルムズ海峡へ護衛艦派遣を表明している自衛隊の航空機をイランは受け入れるのでしょうか。
田中防衛大臣は5日の衆議院予算委員会においてみんなの党山内康一代議士の質疑への答弁として、イラン情勢が悪化した場合には輸送機もしくは政府専用機または空中給油輸送機といった自衛隊機を邦人救出へ派遣することを防衛省として検討していることを明らかにしました。先日PKO協力法を改正し、文民護衛への武器使用基準改定を行う議論が始まりましたが、新しい難題が発生したというところでしょうか。
海外での騒乱事態への自衛隊機派遣は過去に湾岸戦争などで検討された事例があり、1998年のインドネシアスハルト大統領退陣要求騒乱などで、実際に海上保安庁の巡視船と共に航空自衛隊の輸送機派遣が行われ実行は為されませんでしたが、タイのウタパオ航空基地への前方展開が行われています。しかし、騒乱状態ではなくイラン正規軍と米軍の戦闘が予想される事態、というのは今回の特徴、武器使用基準含め難しい現状があります。
他方で昨年のリビア民主化動乱では邦人が内戦状態となったリビア国内において孤立したものの、日本政府としては全く手を打ちませんでした。これは東日本大震災前にリビアでの邦人孤立が発生していたもので、当時としては余力があり、邦人救出へ自衛隊派遣を行わなかったのか、当時の菅政権の政策決定に大変な疑問を持っているところ。
しかし、イランに対しての派遣は、重要なのは相手国が受け入れを行うか、というところで、無断で乗り込んでしまっては領空侵犯となります。イランでは近年でも領海内で活動をしていたとしてイギリス海軍の要員が拘束される事態があり、イラン国内へ航空自衛隊の航空機が乗り入れられるのか、特に今回はイランが海峡封鎖を宣言することで発生する事態ですので大きな問題となるでしょう。
隣国へ法人に自力での渡航を行ってもらい、そこから日本本土へ輸送機へ輸送する、という方策は考えられるのですが、残念ながらイランと国境を接しているのはイラクで、イランイラク国境はイランイラク戦争時の地雷原が残っているため通行できず、湾岸戦争の際にはBBCクルーがイラク国内へ通行を図り行方不明となったほど、南北朝鮮国境に次いで危険とされているほどで難しい。
ほかの隣国は、北部の山間部を超えてトルコ国境を抜けるか、隣国のアフガニスタン国境を目指す、沿岸沿いにパキスタン国境を目指す経路が考えられます。ただ、トルコ国境は4000m級の高山が続く山間部であるとともにNATO加盟国であるトルコの国境を無事に通過できるのか、現実的ではないように考えます。
イランと国境を接している国、アフガニスタンはタリバーンの活動地域が近く危険が大きい。沿岸部沿いのパキスタン国境はホルムズ海峡近くを通り戦闘地域となる可能性がありますので、こちらも現実的ではありません。結果自力での避難は難しく、イラン南部地域で孤立法人という事案ではパキスタンのカラチ近海にヘリコプター搭載護衛艦か輸送艦を派遣し、領海外からヘリボーンで救出を行う、これも困難を伴うでしょう。
問題は邦人救出ですが、どの時期を発動のタイミングとするのか、速すぎれば緊張感を煽りますし、遅すぎれば入れません。ホルムズ海峡とイランの首都テヘランとはかなりの距離を有しており、ホルムズ海峡での米軍や有志連合とイラン軍の衝突事案が発生したとして、イラン軍への攻撃がテヘランなど内陸部を含めた全面攻撃や、核関連施設への攻撃に展開するのか、というところが大きく左右します。
同時に海上自衛隊によるホルムズ海峡での護衛艦によるタンカー護衛任務やイラン海軍の動静を監視するべく哨戒機の派遣が検討されていることから、アメリカと歩調をある程度併せている自衛隊の航空機による救出任務を果たして受け入れられるのか、交戦国に近い位置にある日本が同時に任務を行うことが可能なのか、こちらも難しいのではないでしょうか。
また軍事的、自衛隊の能力として難しい部分があることも事実です。一番数が多い輸送機であるC-1輸送機は航続距離が短く使用できません、C-130であれば航続距離に限界がある戦術輸送機ですから、ジブチ航空拠点を用いることも可能なのでしょうが、ジブチ政府との施設使用での協定が必要になりますし、KC-767空中給油輸送機は四機、政府専用機は二機、即応状態の機体がどの程度なのか、稼働率を念頭に運用計画を練らなければならず、いつ、どこで、どのくらいの、輸送が必要となるか。
C-2輸送機が実用化されていれば、あの機体はフェリー航続距離で10000kmと欧州まで無給油で飛行できますから違うのでしょうが、まだ部隊訓練どころか部隊に引き渡されてもいません、無いものを今さら考えても難しいところ。もちろん、民間旅客機の航空航路が封鎖され、自衛隊機でなければ救出不能の状態となった時点でどの程度の邦人が取り残されるのか、未知数なのですが厳しい任務ということだけは間違いありません。
北大路機関:はるな
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