◆前回の特集に続いて“護衛艦”の話題
前回の特集ですが、護衛艦は大型であるべきか中型であるべきか、という主旨に対し多用途支援艦やミサイル艇の話題を提示し、少々焦点がぼけてしまいました。
哨戒任務ですが、海上保安庁の巡視船に対応させるべき、という視点、お寄せいただいたのですけれども、現行法では例えば外国艦艇、駆逐艦などに巡視船で臨検することはできません。そもそも海上保安庁は法執行機関ですので、甲斐奥艦船に対処する任務は軍事機構が法執行機関の機能を標的としているのですし、その任務ではありません。また、巡視船では潜水艦の浸透に対応することも出来ません。米沿岸警備隊のように海軍の一部という扱いを明確とし、巡視船にソナーや軍艦に準じた法的権限を付与すれば、とも考えることはできるのですが、予算面を中心に難しいでしょう。
こうしたなかで、海上自衛隊、相手方方向から接近することを想定したばあいの護衛艦の位置づけです。汎用護衛艦は中型を重視するべきなのか、大型を重視するべきなのか、という論題の中型は、4000tが中型、6000tを大型、という考えです。正直3000tを越えれば大型水上戦闘艦、という区分もあるそうd寿司、4000tの水上戦闘艦は世界では大型水上戦闘艦に分類され、6000t以上の大型水上戦闘艦となりますと欧州では少数派で、中国海軍でも11隻と、全体にしめる割合は決して多くはありません。
今回の論題は、海上自衛隊では大型護衛艦途中型護衛艦という区分は存在しないのですが便宜的に、満載排水量4000~5000tの中型艦、海上自衛隊にとっての中型艦という意味ですが、こちらを量産するのか、それとも6000~7000tの護衛艦をこれを大型護衛艦という区分で考えまして、充分な数は揃えられなくとも最大限の能力を盛り込んだ艦へ特化するべきか、というところです。中型艦といっても、諸外国で考えられるような2000t台の、3000t以下のフリゲイトを、という視点の下で考えているのでは無い、という事をご理解ください。
今年はイージス艦こんごう型就役から20年、新しく感じるイージス艦も古くなってきました。海上自衛隊の護衛艦はどんどん旧式化しているのですが、これをどう代替するのか、艦隊規模を維持するうえで避けて通れない重要な問題です。そこで、イージス艦やヘリコプター搭載護衛艦、特に過去の記事にあるように北大路機関としてはヘリコプター搭載護衛艦を護衛隊群護衛隊全てに充当させる、という提案を行っていますので、建造費を縮減できる可能性は汎用護衛艦のみ、ということ、ここから考えてゆくこととしました。
4000t級はつゆき型の艦体規模であっても、海上自衛隊では大きくはないと感じるかもしれませんがそれは隣に米海軍が8000tのアーレイバーク級をならべているからでして、火器管制装置の射撃指揮装置2型所謂FCS-2の処理能力を高める、もしくはFCS-3から派生される簡略型のOPS-50は搭載できますし、大型哨戒ヘリコプターも搭載できます。この大きさ、中国海軍の最新量産型である江凱Ⅱ型が3963t、アメリカが51隻量産したOHペリー級が3638~4100t、イギリスの外洋型汎用フリゲイト23型が4200t、世界的には充分大型、というところ。
そもそも汎用護衛艦とは、について。海上自衛隊は、護衛艦をヘリコプター搭載護衛艦、ミサイル護衛艦、汎用護衛艦と分けてきました。ヘリコプター搭載護衛艦は海上自衛隊が最も重視した対潜掃討の中枢艦としてヘリコプター巡洋艦的な運用が求められ大型化しましたし、ミサイル護衛艦はターターシステムやイージスシステムの搭載を行うべく大型護衛艦となっています。大型護衛艦を支えるのが対潜対空対水上に突出はしないものの想定するあらゆる任務への対応が求められる汎用護衛艦が求められることとなり、海上自衛隊では、4000tから4200tの護衛艦はつゆき型12隻、4800tの護衛艦あさぎり型8隻、6200tの護衛艦むらさめ型9隻、6300tの護衛艦たかなみ型、7000tの護衛艦あきづき型が建造中を含め4隻、年々大型化してきました。
4000t級の水上戦闘艦であっても、海上自衛隊が想定するソマリア沖などでの長距離任務や南西諸島での任務を行うに十分な航続距離を確保し、ステルス性を考慮した船体に、SH-60KやMCH-101を一機程度収容し、もしくはSH-60Kと無人機を搭載できる格納庫、OPS-50等の多機能レーダ装置、中央部に艦対艦ミサイル、32セル程度のVLSを前甲板に配置し、アスロック対潜誘導弾やESSM艦対空ミサイルを搭載、20mmCIWSかRAMのようなミサイル防護装備を搭載し、76mm砲を搭載することはできるでしょう。
しかし、汎用護衛艦はどんどん大型化します。ターターシステムを搭載し艦隊防空に当たるミサイル護衛艦はたかぜ型は5900tですので、満載排水量では、むらさめ型が大型となっています。そして、あきづき型の満載排水量7000tは、ヘリコプター搭載護衛艦しらね型の7200tに迫るものとなっていまして、その分高性能化し、大型艦は航続距離も大きくなっているのですが、建造費も大きくなっている。実のところ、海上自衛隊は汎用護衛艦を多数必要としていまして、特に1980年代から1990年代にかけ大量建造された、はつゆき型の除籍が進んでいるほか、あさぎり型は延命予算が認められているのですが、機関部などの運用上事故が生じない範囲内の延命が行われており、近代化改修が行われているわけではありません。
ここで建造費が大きな護衛艦に特化すれば、その分建造数が予算の壁に阻まれ、必要な数の護衛艦を維持するためには最新鋭の大型護衛艦と最古参の旧式護衛艦が護衛隊毎の任務遂行能力についてその均衡を崩しつつ混在することとなります。もちろん、数の維持をおこなうことは達成できるでしょうが各艦の能力にバラつきが生じることは避けられず、かつて、四個護衛隊群について、広報の1群・訓練の2群・書類の3群・ダメ押し4群、といわれ、旧式艦の多い4群と3群が皮肉られていたことが分かります。
90年代に護衛艦定数が防衛大綱改訂により60隻から50隻と下方修正された際、護衛艦隊の数は維持され、地方隊の護衛艦が削られましたので、それまでは沿岸警備用の小型護衛艦、もちろん小型とはいいつつ満載排水量で、あぶくま型護衛艦などは沿岸警備用で2800tありましたし、その他の護衛艦についても2000t前後あったのですが小型護衛艦を新造せず、護衛艦隊用の大型護衛艦を分けて建造していたのを、護衛艦隊で旧式化した護衛艦を充当し、質的向上で量的不足を補おうとしました。
護衛艦ですが、建造からの運用期間と新造艦の建造度合は、即ち、あさぎり型をいつまで使うのか、というところに焦点を合わせて考えるべきでしょう。現在の大型護衛艦は、現在の防衛費の規模から建造できる護衛艦がミサイル護衛艦やヘリコプター搭載護衛艦を併せ五年間の中期防あたり4隻程度、という実情を併せて考えてみましょう。あきづき型、それに続いて建造される対潜掃討艦も満載排水量では7000t規模となる大型艦の指針が示されているのですが、現行の防衛費から、せめてGDP比率で1%台、NATOは加盟国にGDP比率2%の国防費を求めていることを考えれば1%はどうにかなりそうなものの、それを確保できる見通しが無い中では、この大型艦よりは、4000t台でも数を確保しなければならないのでは、と。
ただ、護衛艦の建造費に無視できない要素となったのが搭載する電装品の費用です。仮に中型の護衛艦であってもレーダーやソナーに射撃指揮装置と誘導弾一式を搭載すれば安価とはなりません。電装品などは護衛艦隊護衛隊群で右脳する以上中途半端なものでは必要な任務を達成できないからです。ただ、中型であれば、船体の建造費、搭載機関の出力、それら維持費、小さくなります。これは、安くはなるのだけれども、排水量が半分になっても水上戦闘艦は建造費が半分とはならない、ということ。
大型艦に特化すれば、その分建造費が割高となり、一隻当たりの運用期間が長くなります。台湾海軍などは近代化に近代化を重ね第二次大戦中の駆逐艦を無理やり21世紀まで、60年ちかく現役としていましたが、そこまで行かずとも延命に延命を重ね、40年以上護衛艦を使わなければならなくなるかもしれません、そうしなければ数を維持できなくなることを示します。しかし、40年間仮に現役期間を延長するとした場合、例えば護衛艦あきづき型のFCS-3は高性能ですが、就役から40年後の2050年代まで第一線で通用するとは考えにくく、搭載器材、レーダーや射撃指揮装置の全面更新を行わなければならなくなるでしょう。ヘリコプター搭載護衛艦であれば艦載機を置き換えるだけでかなり近代化が出来ますが、汎用護衛艦ではそうはいかず、そのための近代化改修費用も大きくなることを考えてゆかねばなりません。
電装品と射撃指揮装置が建造費に占める割合が大きくなる、と記したばかりですから、当たり前ですが40年間運用する際に一回全面的な能力刷新を行う場合、近代化改修で二年近く、はるな型、たかつき型の近代化改修は二年近く要していましたが第一線から離れると共に、かなりの費用を投じても現役期間はそこまでおおきくなるわけではなく、費用対効果では25年程度で置き換えるのと40年間の現役期間で電装品を一新するのと、どちらが高いのかを比較検討してみる必要はあるやもしれないでしょう。すなわち、汎用護衛艦の大きさは、一定期間内で新型に置き換わる4000tはつゆき型か、今日視点では考えにくいほどかなり長期間運用する6000tむらさめ型か、どちらが理想なのかということ。
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