◆新田原で原子力空母信濃シリーズを思い出しつつ
今回はファントムの緊急発進展示と共に続いて行われる近接航空支援の様子です。
緊急発進展示として編隊離陸してゆくファントム。新田原基地といいますと、小説や映画でいろいろと活躍した基地だったりします。映画ですと東宝の“東京湾炎上”、松竹の“宇宙大怪獣ギララ”で、小説ですと“原子力空母信濃”シリーズや“死都日本”というところでしょうか。どれもお勧めの作品です。
新田原基地が登場する様々な小説と映画の中で、とりわけ印象に残るのは私としては鳴海章氏の人気シリーズ“原子力空母信濃”シリーズです。私が手にした文庫版が出たのが当方中学生の頃でしたか、今話題の中二病ではありませんが、日本がニミッツ級空母を導入したら、と当時心躍らせましたが、面白かった。
現実の視点に依拠すれば、日本がニミッツ級を自衛隊の戦力として運用するのはほぼ不可能です。ローテーションを考えた場合最低二隻、しかし単一海域以上の任務を考えるならば三隻から四隻が必要になる航空機当社のための航空母艦ですが、乗員が航空機整備要員を併せ5000名にもなる空母を何隻も整備できるものではありません。
ただ、フィクションと割り切った上で、フィクションならば定期整備中で造船所に入っているときに有事は起きませんので、一隻の空母と共に、という内容は楽しめるものでした。まあ、現実味と言いますと、F-4EJ改の装備では航空母艦から運用はできませんし、E-2Cについても同じことが言え、このあたりを深く掘りすぎるのは無粋というもの。
原子力空母信濃とは、中曽根政権時代に日本がレーガン政権と1997年に就役するニミッツ級原子力空母を海上自衛隊が導入する密約を交わした、というフィクションで、日本列島不沈空母論とはこのカモフラージュであった、との設定、海上自衛隊は米海軍空母を利用し密かに大量の空母要員を養成、一方、艦載機であるファントムを航空自衛隊から集め、新田原基地へ空母航空団を創設する、というはじまり。
アメリカから引き渡された新空母は、太平洋戦争で悲運の最期を迎えた巨大空母信濃の名前を冠され、海上自衛隊はヘリコプター護衛艦しらね、イージス艦こんごう、ミサイル護衛艦はたかぜ、ミサイル護衛艦あさかぜ、の四隻を空母の直衛とする信濃艦隊を創設、様々な日本を取り巻く国際関係の激変へ臨む、というもの。
シリーズは、南シナ海海戦、激突ファントム飛行隊、中米侵攻作戦、最後の出撃、と進んでいきます。対米関係の微妙な変化と日中関係の悪化で、信濃は中国のソ連製大型空母海南龍やアメリカ空母インディペンデンス、カールビンソンと戦いを繰り広げ、イランのペルシャ湾封鎖に出動したり、南米のクーデターによる政府要人と邦人人質事件への対処など、進んでゆきます。
ファントムは作中で、特にAMRAAMを遠距離から運用する米海軍のF-14や、中国海軍が空母艦載機として運用するSu-27を相手に苦戦する描写が多く、ベテランパイロットや、米空母に対する対処法の研究などでF-15を思いもよらない方法で運用するなど、物凄い損害が出てくるものの何とか乗り切ってゆく、印象的でしたね。
原子力空母信濃へは、ファントムがどんどん近代化改修され、火器管制装置を新型とした現実のF-4EJ改よりも高性能を目指した機体が出てきますし、新しくEF-4電子戦戦闘機が出てきます。EF-4はサンダーファントムという名称で、主翼下及び垂直尾翼上に電子戦アンテナを搭載、電子戦機でF-14に挑む姿はEF-18GがF-22に模擬空戦で接近に成功し撃破できた近年の話と繋がるやも。
作品はシリーズを通してパイロットの視線が特に多く、日本の原子力空母計画を進めた政治家や空母航空団に空母機動部隊の指揮官からの視点も多いのですが、パイロットこそが主役と言える作品でお互いをタックネームで呼び合い、しかし、運や技術の些細な違いから簡単に命を落とす中、戦い抜いて成長してゆく描写も印象です。
艦載機としてハリアーの改良型が三菱重工で開発され、これが搭載されることとなります。ファントムとハリアーにホークアイとシーホーク、という四機種が信濃航空団の編制だったわけですね。そして、鳴海章氏はこの時期、日本の国産戦闘機計画を小説にしていまして、そこで出てくるのもハリアーの改良型だったりする。
鳴海章氏が同時期に書いていたゼロ、ハリアーを原型とした純国産戦闘機ゼロをと、中東戦争派遣の経験を持つ自衛隊パイロットを描くシリーズで“ゼロと呼ばれた男”、“ネオゼロ”、“スーパーゼロ”、“ファイナルゼロ”と四作から成るシリーズとを交互に信濃シリーズを読みますと、現実味というよりは海洋冒険小説を一歩進めた作品と出合ったような感慨に浸れます。
信濃シリーズでは、ファントムとともに活躍するハリアーが、信濃に続いて日本が独自に建造する小型空母二隻に搭載する将来計画が、“最後の出撃”作品中に語られますので、そちらのほうも独立した作品として発表されるのかな、と期待していたのですが、そういった流れにはなっていません。
さてさて、先ほど、日本には正規空母は、という文脈で一節記しましたが、例えば我が国が今後、空母艦載機による戦力投射を行うことが求められるような政治体制、例えば脱原子力を強行し、世界の資源地域の平和と安定に責任ある行動、つまり平和維持のために自衛隊が想定する以上の地域へ航空打撃力を展開させなければならない政策を摂るならば話は別です。
航空母艦は自己完結した兵器システム、もしくは戦略投射基盤としての地位を有するのですから、例えば現在建造中の22DDHに対し、F-35Bを搭載し、航空打撃へ、もしくはイージス艦では対処の限界となるような地域での艦隊運用を考える場合には、日本の航空母艦、としてヘリコプター搭載護衛艦を航空母艦として運用する必要は出てくるやもしれません、新田原のファントムを見上げつつ、そんなことを考えていました。
緊急発進展示として編隊離陸してゆくファントム。新田原基地といいますと、小説や映画でいろいろと活躍した基地だったりします。映画ですと東宝の“東京湾炎上”、松竹の“宇宙大怪獣ギララ”で、小説ですと“原子力空母信濃”シリーズや“死都日本”というところでしょうか。どれもお勧めの作品です。
新田原基地が登場する様々な小説と映画の中で、とりわけ印象に残るのは私としては鳴海章氏の人気シリーズ“原子力空母信濃”シリーズです。私が手にした文庫版が出たのが当方中学生の頃でしたか、今話題の中二病ではありませんが、日本がニミッツ級空母を導入したら、と当時心躍らせましたが、面白かった。
現実の視点に依拠すれば、日本がニミッツ級を自衛隊の戦力として運用するのはほぼ不可能です。ローテーションを考えた場合最低二隻、しかし単一海域以上の任務を考えるならば三隻から四隻が必要になる航空機当社のための航空母艦ですが、乗員が航空機整備要員を併せ5000名にもなる空母を何隻も整備できるものではありません。
ただ、フィクションと割り切った上で、フィクションならば定期整備中で造船所に入っているときに有事は起きませんので、一隻の空母と共に、という内容は楽しめるものでした。まあ、現実味と言いますと、F-4EJ改の装備では航空母艦から運用はできませんし、E-2Cについても同じことが言え、このあたりを深く掘りすぎるのは無粋というもの。
原子力空母信濃とは、中曽根政権時代に日本がレーガン政権と1997年に就役するニミッツ級原子力空母を海上自衛隊が導入する密約を交わした、というフィクションで、日本列島不沈空母論とはこのカモフラージュであった、との設定、海上自衛隊は米海軍空母を利用し密かに大量の空母要員を養成、一方、艦載機であるファントムを航空自衛隊から集め、新田原基地へ空母航空団を創設する、というはじまり。
アメリカから引き渡された新空母は、太平洋戦争で悲運の最期を迎えた巨大空母信濃の名前を冠され、海上自衛隊はヘリコプター護衛艦しらね、イージス艦こんごう、ミサイル護衛艦はたかぜ、ミサイル護衛艦あさかぜ、の四隻を空母の直衛とする信濃艦隊を創設、様々な日本を取り巻く国際関係の激変へ臨む、というもの。
シリーズは、南シナ海海戦、激突ファントム飛行隊、中米侵攻作戦、最後の出撃、と進んでいきます。対米関係の微妙な変化と日中関係の悪化で、信濃は中国のソ連製大型空母海南龍やアメリカ空母インディペンデンス、カールビンソンと戦いを繰り広げ、イランのペルシャ湾封鎖に出動したり、南米のクーデターによる政府要人と邦人人質事件への対処など、進んでゆきます。
ファントムは作中で、特にAMRAAMを遠距離から運用する米海軍のF-14や、中国海軍が空母艦載機として運用するSu-27を相手に苦戦する描写が多く、ベテランパイロットや、米空母に対する対処法の研究などでF-15を思いもよらない方法で運用するなど、物凄い損害が出てくるものの何とか乗り切ってゆく、印象的でしたね。
原子力空母信濃へは、ファントムがどんどん近代化改修され、火器管制装置を新型とした現実のF-4EJ改よりも高性能を目指した機体が出てきますし、新しくEF-4電子戦戦闘機が出てきます。EF-4はサンダーファントムという名称で、主翼下及び垂直尾翼上に電子戦アンテナを搭載、電子戦機でF-14に挑む姿はEF-18GがF-22に模擬空戦で接近に成功し撃破できた近年の話と繋がるやも。
作品はシリーズを通してパイロットの視線が特に多く、日本の原子力空母計画を進めた政治家や空母航空団に空母機動部隊の指揮官からの視点も多いのですが、パイロットこそが主役と言える作品でお互いをタックネームで呼び合い、しかし、運や技術の些細な違いから簡単に命を落とす中、戦い抜いて成長してゆく描写も印象です。
艦載機としてハリアーの改良型が三菱重工で開発され、これが搭載されることとなります。ファントムとハリアーにホークアイとシーホーク、という四機種が信濃航空団の編制だったわけですね。そして、鳴海章氏はこの時期、日本の国産戦闘機計画を小説にしていまして、そこで出てくるのもハリアーの改良型だったりする。
鳴海章氏が同時期に書いていたゼロ、ハリアーを原型とした純国産戦闘機ゼロをと、中東戦争派遣の経験を持つ自衛隊パイロットを描くシリーズで“ゼロと呼ばれた男”、“ネオゼロ”、“スーパーゼロ”、“ファイナルゼロ”と四作から成るシリーズとを交互に信濃シリーズを読みますと、現実味というよりは海洋冒険小説を一歩進めた作品と出合ったような感慨に浸れます。
信濃シリーズでは、ファントムとともに活躍するハリアーが、信濃に続いて日本が独自に建造する小型空母二隻に搭載する将来計画が、“最後の出撃”作品中に語られますので、そちらのほうも独立した作品として発表されるのかな、と期待していたのですが、そういった流れにはなっていません。
さてさて、先ほど、日本には正規空母は、という文脈で一節記しましたが、例えば我が国が今後、空母艦載機による戦力投射を行うことが求められるような政治体制、例えば脱原子力を強行し、世界の資源地域の平和と安定に責任ある行動、つまり平和維持のために自衛隊が想定する以上の地域へ航空打撃力を展開させなければならない政策を摂るならば話は別です。
航空母艦は自己完結した兵器システム、もしくは戦略投射基盤としての地位を有するのですから、例えば現在建造中の22DDHに対し、F-35Bを搭載し、航空打撃へ、もしくはイージス艦では対処の限界となるような地域での艦隊運用を考える場合には、日本の航空母艦、としてヘリコプター搭載護衛艦を航空母艦として運用する必要は出てくるやもしれません、新田原のファントムを見上げつつ、そんなことを考えていました。
北大路機関:はるな
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