◆護衛艦の中型艦重視かハイローミックスか
尖閣諸島ですが、宮古島との間を中国艦隊が少なくない頻度で航行するようになりました。
護衛艦の新造が五年ごとの中期防衛力整備計画あたりの整備数と防衛計画の大綱が定めた長期的な防衛上必要な勢力との間で乖離しており、現状のまま推移しては将来的に護衛艦の相当厳しい延命を重ねたとしても規模の維持が難しくなるのではないか、という問題は先日の記事にて提示しています。
一方で海上自衛隊はかつて63隻の護衛艦部隊を度重なる防衛計画の大綱改訂と共に47隻まで定数を削減され、現在は定数を48隻とされているのですが必要数を維持できるかが未知数となっているため、一隻あたりの能力を可能な限り求めた結果、高性能ではあるのですが建造費が大きくなってしまいました。
ここで問題となるのは、自衛隊は平時任務と有事の任務があるという事で、有事の際には質的優位が勝敗を左右するのですが、平時においては量的優位が大きな脅威となるということです。海上自衛隊は量的優位を確保できない防衛大綱の制約から質的優位、即ち有事作戦にかなり重点を置いているといえるやもしれません。
有事の際は、彼我勢力において相手が二倍であっても、質的優位を確保していれば、各個撃破により制海権を維持することが出来ます、そして海軍機構は有事においては制海権維持こそが通商路維持や本土防衛を左右する重要な要素となるため、有事を想定する限り質的優位を捨てることはできません。
他方、平時においてはポテンシャルの誇示が海軍機構の任務です。ここでは各個撃破は先制攻撃に当たり武力紛争法に反するほか、慣習法として平時に相手を攻撃し撃沈することはできないことから量的優位が重要となります、ポテンシャルの誇示を量的優位を持つ勢力は同時多方向から実施する選択肢がありますが、質的有利量的不利においてはどんな高性能艦であっても同時に異なる二つの海域には展開できないのです。
もちろん、そんな視点に対し、こちらにコメントされる方の中で強硬な意見を述べられる方の中にはさっさと撃沈して日中開戦し、空挺部隊で北京と上海を占領してしまえ、とか、海上自衛隊ならば護衛艦一隻でも分離して二方面に向かうことが出来るはず、という方がいるかもしれませんが、現実的とは言い難い。
このことから、平時に領海に接近し示威行動を行う相手に対しては、1対1でこちらも警戒艦を出さなければなりません。こうすると、質的優位に誦点を置いている海上自衛隊は、もちろん抑止力の本旨は質的優位にあるのですから選択肢としては他に取り得ないのですが、結果として相手の示威行動を許すことにもなる。
かつて、地方隊に関する連載記事において、平時の領海接近への相手の示威行動を封じるポテンシャルとして、質的優位の護衛艦を維持しつつ量的優位を確保する手段に、多用途支援艦に76mm砲を搭載することで在廷的な哨戒艦として運用する、という案を出したことがありました。
加えて、平時において島嶼部へ接近する相手を追い払うとともに、ポテンシャルを誇示する手段としてミサイル艇の運用を提示したことがありました。哨戒艦は有事の際には武装が貧弱すぎ湾口防衛程度にしか使えず、ミサイル艇は航空攻撃に致命的脆弱性を有しているため沿岸部の友軍防空砲兵圏内を長時間出ることはできませんが、平時には役立つ、という事を提示しましています。
このほか、現有の装備としては、掃海艇にもう少し口径の大きな機関砲と照準装置を搭載して、哨戒任務に用いる、という事もある程度は考えられるでしょう。哨戒艦としては質的に水上戦闘艦と比較できないほど不利ですが、量的優位を相手に確保されない、という点では用途はある。
こうした問題は、平時のポテンシャルを維持できる程度に護衛艦を建造することが出来ればよいのですが、護衛艦に質的ゆういを求める限り、例えば対潜対空対水上各装備とともにデータリンク能力を整備し、航空機搭載可能で近年増大する遠隔地での任務に対応し、射撃指揮装置や情報処理能力を盛り込むと、どうしても費用が大きくなってしまう。
この点で、海上自衛隊は中型護衛艦、といいつつも護衛案はつゆき型で満載排水量は4000t台に達する世界的には大型艦になるのですが、この水準の水上戦闘艦などを整備してはどうか、という考えも出てきます。シンガポール海軍のフォーミダブル級フリゲイトは満載3200t、モロッコ海軍の輸入したシグマ級コルベットなどは高度なレーダーとヘリ搭載能力をもち2000tです。
ただ、戦闘システムや電装品などの水上戦闘艦に占める費用面の割合は年々大きくなり、上記シグマ級などは必要な戦闘装備を搭載した結果一隻当たり4億ドル、むらさめ型護衛艦の建造費が650億円程度でしたし、最新の護衛艦あきづき型で建造費は750億円程度、大きさに関わらずここまで取得費用面での差が縮小しているところ。
逆の考え方をしたならば、これはもう一つの連載である防衛産業関連の記事とも重なるのですが、海上自衛隊へ納入される国産の大型護衛艦は、世界の水上戦闘艦における市場価格と比べれば一定の水準の価格競争力、というようなものを持っているのだ、ともいえるやもしれません。
そして話を戻すならば、仮に護衛艦を中型艦、とした場合でも質的優位という海上自衛隊が絶対に放棄できない要求へ対応する能力を堅持する限りにおいて、例えば7000t級の護衛艦あきづき型四隻分の建造費をもてしても、シグマ級で七隻程度、フォーミダブル級で六隻程度しか建造し確保することが出来ない可能性もあります。
上記の話を踏まえますと、いっそのこと海上自衛隊は有事の質的優位のみを堅持し、平時の抑止力は海上保安庁に任せるかいっそ断念する、という声も聞こえてくるかもしれませんが、平時のポテンシャルが破綻することで国際関係は予防外交に失敗し、有事となるのですから、戦争を誘致するようなことはすべきではないでしょう。
質的優位を堅持しつつ、量的優位を確保する、財政難の下ではハイローミックスとして質的優位の護衛艦を補完する量的優位の哨戒艦やミサイル艇に掃海艇、という位置づけを平時に用いて平時と有事の任務を割り切るのか、もしくは中型艦に護衛艦を転換し現行の状況下でなんとか質的優位を崩さない量的優位を図るのか、真剣に考えてゆかねばなりません。
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)