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ISIL掃討イラクシリアと戦車部隊【後篇】フィリピンISIL騒擾とニジェール米兵襲撃の戦訓

2017-12-11 20:10:50 | 防衛・安全保障
■自衛隊戦車の過度削減への憂慮
 ISIL掃討イラクシリアと戦車部隊、最終回は視点をアジアアフリカ地域に展開してみる事とします。

 イラクのハイダルアバディ首相は10日、ISILとの戦闘終了を宣言しました、ISILとの戦闘は一時首都バクダッド北方まで脅威が迫る状況に陥り、イラク全域がISILの勢力圏へと陥る重大な危機となっていましたが、機甲師団が首都北方を死守、有志連合航空支援と共に反撃が軌道に乗ると共にISILは徐々に占領地域を縮小、最後の拠点攻略と共に残存勢力が逃げ込んだ山間部での掃討作戦が終了、今回の戦闘終了宣言に至りました。

 ISILとの戦闘では戦車が極めて重要な戦力として活躍した、我が国政府では自衛隊重戦力への縮小という趨勢があるが大丈夫なのか、これまでに検証結果を提示しましたが、反論として、中東の話であり日本には当てはまらない、とした論点があり得るかもしれません。しかし、この視点は日本の南の隣国、フィリピンにおけるISIL浸透事案が説得力を持つでしょう。戦車を持たないフィリピン軍が大苦戦し大量の難民が出た。

 フィリピンでは、機甲部隊の欠如が800名の武装勢力を相手に陸軍15万名が半年近く、鎮圧に時間を要したといえるかもしれません。フィリピン軍は戦車を保有おらず、また、戦車を補完する装甲戦闘車も皆無で、主として治安維持用の軽装甲車両を主力としているほかは、わずかに野戦用軽装甲車を保有しており、市街地では苦戦を強いられたのでしょう。

 フィリピン軍では戦車を保有していないと共に、また、航空打撃力や空中機動能力も限られ、まったくの軽歩兵部隊主体での戦闘を強いられたかたちです、仮に半世紀以上旧式M-48が100両でもあれば、ISILは対戦車火力を準備せねばならず状況は大きく違ったでしょう。これらをフィリピン軍が欠いた為にオーストラリア軍やアメリカ軍の支援を受け、その上で半年近くを要した点から、機甲部隊の重要性を考えさせられずには居られません。

 我が国ではISIL浸透の脅威は現在のところありませんが、二十年前にカルト宗教団体オウム真理教がAK-74小銃や爆薬を国内で密造し武装蜂起の準備を行っていたこと、そのオウム事件裁判が続いている現実を忘れてはなりません。ニジェール、前述の通り現在ISILはアフリカ地域での再興をはかっている状況で、現在アメリカ陸軍だけでアフリカ地域へ数千名規模の部隊を展開させているほか、ニジェールだけで1000名規模の部隊がニジェール軍訓練支援等に駐屯しています。。

 このニジェールにおいて10月に、米軍特殊部隊員がISILの待ち伏せ攻撃を受け、大規模な戦闘が発生しました。アメリカ軍特殊部隊は、作戦任務中でしたが一時間以上の戦闘により4名が戦死する事態が発生しました。フランス軍航空支援とニジェール軍救援部隊により米軍部隊は救われましたが、米軍は支援任務に展開しているため、ストライカー装甲車などの装甲車両を欠いており、装備が充分ではなかったとアメリカ国内では与党共和党を含め問題化している。

 戦車部隊や装甲化部隊について、今回のISILとの一連の戦闘の教訓は、治安作戦であるからといって軽装備の歩兵部隊だけでは非常に安定化作戦に時間を要することを端的に示しました。フィリピンでは国内避難民が40万名以上発生しているほか、マラウィ市内は当面復興の目処が立たず、また全土へ戒厳令が発令されたことでの経済への影響が深刻です。

 またニジェールでの教訓は、軽歩兵部隊に限界があることはアメリカ軍特殊部隊であっても例外ではない、ということです。特殊部隊が装甲車を運用する事例は、イラクでのISIL対処支援への特殊部隊派遣に際し、前方航空統制や教育訓練支援へストライカー装甲車を含む装甲部隊を編成した事が知られていますが、ニジェールには派遣されなかったもよう。我が国では普通科重視の名の下、重装備の縮小を小泉内閣時代から延々と継続しています。勿論普通科重視を各師団への装甲戦闘車連隊の増強等、実際に行うのならば異論はありません。

 欧州でも歩兵重視の施策は広くなされてきましたが、そのぶんはCV-90やASCOD等の装甲戦闘車普及により歩兵火力と防御力を確保しており、冷戦時代に装甲戦闘車という車輛区分ヲタなかった諸国でも装甲戦闘車を自衛隊の装甲戦闘車の倍以上の範囲で整備する事例が少なからず出ています。日本の単純に戦車部隊を減らし、僅かにトラック機動を軽装甲車にオッ変えたのみ、戦車等をミサイル防衛等の施策へ転換した予算不足により普通科部隊より取り上げるリスクは冒していません。

 もちろん、戦車が重要だからと言って、いきなり10式戦車を最盛期の74式戦車並に月産5両の規模で大量生産するべき、と短絡的に主張するつもりはありません。しかし、現在政府が進める本土から戦車を教育用以外全てを廃止し北海道に回し、若干中隊を九州に置くのみ、という施策は行き過ぎではないでしょうか、また装甲車不足も憂慮すべき状況です。

北大路機関:はるな くらま
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