北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

9.11アメリカ同時多発テロから18年,米ロ対立や中国海洋閉塞化を生んだ不確実な未来の基点

2019-09-11 20:16:45 | 国際・政治
■アフガン和平見通したたず
 鎮魂と共に世界はまた9月11日を迎えました、アフガニスタンではタリバーンとアメリカの和平交渉が頓挫しアメリカにとり最長の戦いは続きます。

 2001年9月11日、これは世界史の一つの転換点であり間違いなく我が国にも2011年3月11日の東日本大震災と並ぶ転換点となった一日でしょう。2011年9月11日、アメリカ本土同時多発テロが発生、ニューヨーク世界貿易センタービル二つの超高層ビル、アメリカ国防総省本省庁舎にハイジャック旅客機が自爆し、更に旅客機もう一機が墜落しました。

 世界貿易センタービル、双子の巨大高層ビルはニューヨークの象徴的威容と美観を醸成しており、突如通常放送が中断し炎上する情景が映し出された際には相当に混乱しました。北米上空の膨大な旅客機には全て着陸が命じられ一時的ですが軍用機除き北米上空は90年前の静けさとなったのは非日常の最たるものでしたが、その後の混乱は今日へ影響します。

 長期化した、アフガニスタンでは今日も戦闘が続きます、あの日生まれた赤子が今は18歳、日本でいえば自衛官に志願できる年齢となりました、それ程のあの戦いは続いていますが、世界は、2001年9月10日までは米ロ関係も比較的良好でロシアのNATO加盟さえ期待されていましたし、世界は新しい世界の向上中国の発展を願い盛んに投資を強めていました。

 同時多発テロ、最大の影響はテロとの戦い、という新しい戦争様相、非対称型の戦い、敵対する勢力の全容が曖昧模糊とし、時折大規模テロという攻勢を加える対象との戦争へ転換した事でしょうか。指揮中枢や戦力集積地への打撃という従来型の戦闘洋式では対処出来ず、放置する事は大規模なテロの懸念を、核兵器を用いるテロも含め払拭できません。

 テロ対策とは、自己実現の実現や自由と公正の普遍化により人の豊かさと安定を求める共通利益の普及によりテロの必要性を根絶する他ないのではないか、世界のテロに対する施策は自己実現への手段として主権を確立した上で民主主義に基づき必要な施策と政策を自ら得る制度の普及に他ならない、結局この視点に終始した事が騒擾の長期化を招きました。

 破綻国家、政治制度が内戦や圧政を契機とした騒擾の恒常化により無秩序、国際公序に反する行為が横行する地域において大規模テロの戦闘員養成や武器密造等の策源地となり易い、これが9.11以降、特にその策源地となったアフガニスタンへの軍事行動の目的となります。ただし軍事力により圧政と世俗主義へ平等と自由概念の普及、これは難航しました。

 テロリストへ核兵器や大量破壊兵器を供給する国が生まれるのではないか、1995年の地下鉄サリン事件を経て大量破壊兵器がテロに用いられるという実例の余韻が残る世界ではある日突如平和な市街地で核爆発が起こる恐怖に怯えると共に、テロリストへ核兵器や神経ガスと生物兵器を供給する恐れのある国々に対し過度な警戒を行う国際公序が成立します。

 イラク戦争はその結果に生じた不幸な、というには余りに厳しい戦争でした。同時多発テロを引き起こしたアルカイダはイスラム原理主義勢力、対してイラクのフセイン政権は社会主義革命を経て誕生した独裁国家であり、相互協力の可能性は非常に薄く、同じく警戒されるイランはイスラム世俗主義国家ながらシーア派世俗主義国家、この理解が薄かった。

 結果としてイラクは短期間でフセイン政権が崩壊します、打撃目標が明確であるだけに結末は早かったのですが、民主制度移行の手法が稚拙で瞬時に破綻国家となり、逆に自らテロの温床を増やす事となりました。フセイン政権が健在であれば自国内にイスラム原理主義勢力がテロの準備を行えば反体制派と見做され、瞬時に確実に鎮圧していた事でしょう。

 ISILイスラム国運動による中東全域の不安定化はイラク戦争から十年近くを経て顕在化しました。しかしもう一つの大きな要素は米ロ対立の激化です。同時多発テロ前にはNATOオブザーバー国であり将来のNATO加盟さえ期待されたロシアがここまでアメリカと対立した背景には2006年、イランの核開発と長距離ミサイル脅威が密接に関わったものです。

 イランはイスラエルとの対立から長く核開発疑惑が続き、当時は“核の闇市場”としてパキスタンやインドの核開発に参加した第三国の技術者による新たな核拡散が脅威視されており、イランが開発を進め年々射程を延ばす弾道ミサイルへ核兵器が搭載されパリやロンドン等欧州中枢部を狙う懸念が存在していました。アメリカは同盟国を守る必要が生じる。

 東欧ミサイル防衛、この2006年の計画がアメリカとロシアの対立を決定的なものとします。INF中距離核戦力全廃条約により欧州への抑止力を短距離弾道弾に依存のロシアにとり、自国が欧州からの核脅威に曝される場合に不均衡が生じており、ここにミサイル防衛システムが配備される事はロシアの欧州との国際関係へ決定的な不均衡を現出させかねません。

 米ロ対立という冷戦時代の再来を予感させる中、対テロ戦争は続きます。主戦場はイラクとアフガニスタンですが、テロ掃討へアメリカは世界へ軍事顧問や協力を実施し、所謂アルカイダ系武装勢力との戦いは我が国周辺に視点を移せばフィリピン国内でも米比合同の掃討作戦が実施された程です。そしてこの戦争は戦域の広さから多額の予算を必要とする。

 将来陸戦装備体系FCS構想、M-1戦車後継戦車構想、DD-21将来駆逐艦体系、海兵遠征戦闘車EFV計画、RAH-66偵察ヘリコプター計画、アメリカが進めた21世紀へ向かう幾つかの革新的な計画は優先度が低いとみなされ中止に追い込まれ、変って雑多な、しかし一両100万ドル以上のMRAP耐爆車両の一万輌単位の量産等に吸い取られる。その影響は。

 DD-21構想が予定通り進捗していたならば大洋から沿岸部までの海上優勢で今日中国からの影響を受ける事は無かったでしょうし、RAH-66の不在は従来型戦争の在り方を不徹底に転換したに留まります、FCS構想を進める予算が在れば2005年の米軍再編、本土集中による世界規模での内線作戦が具現化したでしょうが実態は単なるポテンシャルの後退でした。

 非対称の戦いを意識し過ぎた事が、本来維持していた対称型の、つまり従来型戦争への対処能力での優位性低下を招いており、しかも革新的な非対称の戦いへの手段、LCS沿海域戦闘艦や中規模紛争へ備えるストライカー装甲車などの装備は期待されたほどの威力を発揮しません。これは結果的に中国の海洋進出や海域閉塞化を助長させ、影響が広がります。

 中国の海洋政策と米ロ対立、我が国防衛政策へも結果的に影響が生じているのは自明であり、世界は2001年以降、不確実な時代へと入った影響から抜け出せていないばかりか、波紋はシナジー効果となり様々な問題領域を生むため、原因の端緒は明白でもその対処方法や問題解決の手段は複雑化し、今に至ります。その始まりが18年前の今日起こった同時多発テロだった訳です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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